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余命三ヶ月のトナカイくん  作者: 藤田悟
1/1

真実のサンタ

藤田悟と申します。初投稿です。


うまくできているのかわかりませんが、精一杯頑張っていきたいと考えています。

この作品に触れてくださった人に少しでも何かを感じていただければ幸いです。


よろしくお願いします。


プロローグ「余命三ヶ月」


 なんでもない日常を大切に思う瞬間がある。

 今まで何も思わなかったものが大切に思える時がある。

 生きるということに、意味を感じる時が来る。



   1


 人は、何のために生まれてくるのだろうか——。

 人は、何のために死んでゆくのだろうか——。

 人間誰しも必ず来る「死の瞬間」。果たして、何を思うのだろうか——。


 凍え死にそうなほど肌に当たる風は冷たい。十二月街は、クリスマス一色に染まり。街行く人々は、皆どこか浮かれているようにも見える。そんな楽しい楽しい十二月のある日のことだった。

「祐志ごめんね。ごめんね。母さんがもっと頑丈に産んでやれたら。ごめんね。祐志ごめんね」

 個室のベッドの上に横たわる祐志と言われる男性に、抱きつき泣き崩れる母親。母親は目から涙を、鼻から鼻水を流し、ただひたすら祐志に謝り続けた。祐志は、訳も分からず呆然と天井を眺める。ちらりと窓から見える曇り空が、どこか不気味だ。


 ——病院の医師曰く、俺の余命はあと…三ヶ月らしい。


「自分自身では、あんまり実感がわかないものだな。あと……三ヶ月。三、ヶ、げ、つっ……」

 誰もいない個室の病室。突如突きつけられた厳しい現実をようやく理解したのか、祐志は声にならない声を上げ、涙を流した。あまりにも酷い話。あまりにも厳しい現実。そんな祐志を月明かりだけが優しく照らした。


 次の日の朝、目を覚ましてようやく気付いた。

「夢じゃ、なかったんだな。夢なら良かったのか?」

 現実っていうものは、本当に残酷だと改めて思った。そんな辛い現実から逃げるように祐志は再び目を閉じ、眠ることを決めた。しかし、辛い現実に向き合わせようとするかのように、窓から差し込む眩しい陽の光が、祐志のまぶたの裏にまでその輝きを放った。

 まるで、生き地獄。死刑囚が死を待つかのように、恐怖だけが時間に比例してますばかりだ。

「もしも…神様ってやつが本当にいるんだとしたら……。恐怖なんて感情…創ってんじゃねーよ」

 手の震えが治まらない。未だに信じられない。余命を三ヶ月と宣告されたのに、なぜかいつもよりも体が元気で、それが逆に恐怖を掻き立てている。

 個室のドアをコンコンとノックする音が聞こえる。祐志はベッドから身体を起き上がらせる。

「はい……どうぞ」

 寝起きのか細いで祐志は、ノックに対して返事を返した。

「おはようございます。朝の検診です」

 ハリのある高い女性の声が狭い病室の中に響き渡る。ドアが開き女性の看護師の姿が見える。女性の看護師は、笑顔で祐志に近づいてくる。祐志はとっさに看護師から目線を外す。

 祐志の心は、複雑だった。

 ——いったいどんな顔をしていれば正しいのだろうか。

 ——つい一週間前まで元気だった俺は、どんな顔をしていたのだろうか?

 ——今の自分は、どんな顔をしているのだろうか?

 そんなことを考えてしまう。人間、死にたいしての対処法がない。体は元気でも心は、そうじゃない。

 結局何も思いつかないまま、看護師は祐志の側にたどり着いた。

「おはようございます桧山さん。昨日は、よく眠れましたか?」

 看護師は、忙しそうに検診の準備をしながらマニュアル通りとも言える会話を始めた。

「はい!いやー昨日は、突然のことだったのでびっくりしちゃって。目を閉じたらすぐですよ!すぐ!寝ちゃってました」

 祐志は満面の作り笑いを看護師に見せつけた。

 ——どうだ…これがいいんだろ。恐怖を押し殺して作り笑いなんて。自分の行動に反吐が出そうだ。いま鏡を見たらそれこそ頭がおかしくなってしまう。

 心では怯えていても、人前ではなんとなく見せたくなかった。余命三ヶ月と診断されても、人にどう思われるのかを気にしてしまう。

 ——残りの三ヶ月、悔いのない人生を送れそうもない。


「元気そうで安心しました」

「いやー元気、元気!すっごい元気です」

——「元気そうで安心」?ふざけているのか。俺が元気に見えるのか?死を宣告されて…死を待っているのに笑顔でヘラヘラ笑ってんだぞ。異常だろ、それ…。


 淡々とそつなく検診を終え看護師は「失礼いたしました」と言って病室を後にした。看護師が病室を後にしてもなお祐志の作り笑いは、治らなかった。まるでコンクリートで固められてしまったかのような作り笑い。そんな、コンクリートで固められた笑顔を叩き割るように祐志は、力一杯の握り拳で自分の顔を殴った。口の中に広がる血の味が自分の弱さと祐志という人の愚かさを象徴しているようだった。


   2


 相変わらずの曇り空。十二月の曇り空は、やはりどこか不気味だ。病室にいてもかすかに肌寒い。

「何してんだろう…俺…」

 祐志が余命三ヶ月と診断されてから約二週間がたった。未だ変わらずベッドの上の生活が続いている。見飽きた天井、見飽きた室内、聞き飽きた声、嗅ぎ飽きた消毒の匂い。自分の余命を知ってから、祐志の体力は一気に低下していった。人間知らない方が良かったこともあると言わんばかりだ。

 やることが何もない——否、やれることが何もない。

 点滴の管が常につながれている状態の祐志は、動きが制限されている。病室を出る機会もほとんどなく、時間の大半をベッドの上で睡眠をとるだけになっていた。

 ——何をやっても仕方がない。勉強をしても死ぬし。スポーツを頑張っても死ぬし。恋愛しても、死ぬし。何をしても…結局死ぬし。

 そんなことばかりを考えているといい加減、鬱になる。それでも考えられずには、いられなかった。理由は簡単。暇な時間を少しでも退屈しないようにするためだ。

 祐志はベッドから起き上がると、テレビの電源をつける。祐志は余命宣告されて以来できるだけテレビを見ないようにしてきた。知っても仕方がない情報、浮かれたクリスマス特集を冷静に見ることができないと思っていたからだ。それでも退屈を忘れさせてくれるものはないかと、久しぶりにテレビを見ることにした。案の定どの番組も狂ったようにクリスマス一色。

「今年のクリスマスは、これで決まり!お出かけスポット特集!」

 そんな声がテレビから流れてくる。どうせ誰も行かないのに、などと思いながらも暇を持て余していた祐志は、なんとなく視聴を始めた。

「今回のスペシャルゲスト!今最も人気の高いスーパー若手女優の長浜唯さんです!」

 煌びやかな格好とは程遠いような地味な服装。しかし、その地味な服装なのに祐志の目にはとてつもなく輝いて見えた。

 テレビの画面に映る長浜唯という人物。長い髪を後ろでまとめて、常にニコニコ笑顔を浮かべている。祐志の目には、何も語らずとも人々を魅了するそんな女性に見えた。

 気づいたときには、番組が終わっていた。渋々見た番組にここまで夢中にさせられるとは思ってなかった祐志。どこか満足感すら感じられる。しかし、それと同じぐらい、自分にはもう縁のない世界の話にも思えた。


「ちょっと外出るか……」

 祐志は、なんとなくこのまま個室にい続けるのが嫌になっていた。祐志は、点滴のぶら下がったパイプを持ち病室を後にする。

 壁には、病気についての張り紙や館内案内の他に、クリスマスのデコレーションが施されていた。

「ここも……クリスマスかっ。浮かれてんな」

 病院と言っても思いの外、騒がしい。病室から出て数歩しか歩いていないのに、もうどこか病室を出なければよかったと、思ってしまう祐志。

「おいっ、西病棟の一階のホールでイベントやってんだって。行ってみようぜー」

「ちょっ、ちょっと待ってー」

 小児科病棟の子供達がはしゃいだ様子で祐志の横を走り去っていく。子供達のはしゃぐ様子は、まるで病人とは思えない。

「元気だなーガキは…。本当に病人かよ」

 自分は、歩くのですら疲れるというのにと、心で思う祐志。

「イベント…どうりで騒がしいわけかっ」

 何も目的がないまま病室を出た祐志にとっては、興味をそそる言葉だった。

「暇つぶしがてら行くか」

 祐志はあまり期待していないものの、暇つぶしにでもなればと西病棟のイベントに向かう。

 西病棟に近づくにつれて徐々に騒がしさが増していく。たかだか、病院のイベントにこれほど騒がしくなるのは異常だ。みんなどこか普通では、いられない連中だからだろうかなどと考えているうちに西病棟の一階のホールに到着した。

「なんだ、この人の量」

 驚くほどたくさんの人がホールに集まっている。患者・医者・看護師・お見舞いの人・知らない人、老若男女の人々がイベントの開始を楽しそうに待っていた。しばらくすると、大きな歓声の中から一人の女性が姿を現した。長い黒髪にサンタクロースのコスプレをした可憐な女性。

「あの、人はっ!」

 間違いない。つい先ほどまでテレビの向こう側にいた女性。

「長浜唯!」

 ——なんでこんな病院のイベントに?たかだか病院のイベントだぞ。普通、近所の学校から生徒が来て歌を歌ったりするぐらいだろ。

 ニコニコとテレビで見たままの笑顔を浮かべる彼女に自然と目を惹かれる祐志。祐志にとって芸能人を生で見るには初めての経験だった。やはり一般人とは、まるで違う。例えが悪いかもしれないが、本当にオーラのようなものを身にまとっているかのように、どこか近寄りがたい雰囲気すら感じる。

「みなさん元気ですかー」

「元気なわけがないだろ」と、祐志は思わず突っ込んでしまいそうになった。しかし、みんなの反応は、予想外だった。みんんは口々に「元気でーす」「元気ー」などと言っているのだ。ここは、病院のはずなのに、一瞬でコンサート会場のようにみんなが楽しそうに騒いでいる。

「この病院に来させていただいた回数は、今回でなんと!十五回目!」

「結構頻繁に来てるな!」と心の中で盛大に突っ込む祐志。この病院になぜ?と思っているのは、祐志だけではないはず。しかし、そんな疑問も御構い無しにイベントは、進んでいく。

「それじゃーみんな。今日も、楽しいでいきましょー」

 その場にいる人の盛大なる歓声とともに、どこにでもある普通の病院の少し変わったイベントが幕を開けた。


   3


 イベントが終わってから二時間が経った。未だにイベントに参加した人が病院には多く残ってるせいか、未だ騒がしい。

「うるさいなー」

 イベントが終わりすぐに病室に戻った祐志は、ベッドの上で再び天井を眺めていた。

 鳴り止まない歓声とともに始まったイベントは、とにかくアグレッシブに進んでいった。病人である祐志を含めた患者たちは、そのアグレッシブさについていけず、途中で離脱して眺めていることしかできなかった。

「なんか今日は、いつもより数段疲れたような気がするな」

 祐志にとっては、そのアグレッシブさがどこか懐かしい気がした。中学生の頃の体育祭のような、高校生の頃の文化祭のような、忙しなく動き続けるそんな懐かしさ。今では、動き続けるどころか、少し歩くだけでも疲れてしまう。そして、その疲れを感じる度に、自分が本当に病気になってしまったのだと思い知らされる。

「寝るかっっと、その前にトイレ」

 祐志がドア付近にあるトイレに向かった瞬間、ドアの向こうから「唯ちゃんだー」と大きな男性の声が聞こえた。祐志はきにせず、トイレに入る。祐志がトイレに入りしばらくすると、ドンという大きな物音が個室のはずの病室から聞こえてきた。

「えっ、何の音?」

 トイレを済ませ、洗面台で手を洗っていた祐志は、大きな物音に反応した。恐る恐るトイレから出る。

「あれ何もな……」

 祐志はベッドの方を見て固まった。


 突如窓の方から病室内に冷たい風が吹き抜ける。その風は、十二月にしては心地よい

穏やかな風。

 月明かりがベッドを照らす幻想的な空間。

 その中にたった一人、女性がベッドの上に座り長い髪を妖艶になびかせていた。

 その妖艶さは、一般人のものとはまるで別次元のものに感じた。

 月明かりが照らしだしたその女性は、どこか切ない表情を浮かべ、涙を流したいた。

 思いつめたその表情、涙は女性の美しさ、儚さを大いに際立たせた。


「長浜唯……」

 本日二度目のこの言葉。

 一度目の驚きとは、まるで違う。少しの驚きと多くのその他の感情が混ざった声。

 その声に彼女は反応し、慌てて服の袖で涙を拭うと、ゆっくり祐志の方に振り向いた。


「誰?……」

 

 彼女は、恥ずかしそうに微笑んだ。


まだ書き出しの中途半端なものだったかもしれません。すいません。

少しでも何かを思っていただけたなら幸いです。


この作品に触れていただき、本当に感謝しています。

ありがとうございました。


次の投稿を楽しみに

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