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隣の彼と遠足の話

 私の隣の席には、佐藤君という男子がいる。

 時間と場所を選ばず学校では常にスマホで小説を書いていて、たぶん授業を真面目に聞いたことがないのだと思う。もうそろそろスマホ依存症と判断されてもおかしくない使用率だけど、きっと彼は構わず病院でも小説を書いている気がするので、私からは特に口を出さないようにしている。それにきっと彼は、注意されたくらいで書くのを辞めたりするような人じゃないし。

 そんな彼は、基本的に人に無関心で、目を合わせて喋ることすらしない。コミュニケーションが苦手というより、会話にソースを割くのを無駄だと思っているだけなんだろう。色々と抜けている気がするけど、それも彼らしさなので私も気にしなくなっていた。

 ただ私が忘れていたのは、無協調の塊と言っていい彼が、クラスの皆で参加する行事に好んで来るわけもないということで……


「ねぇ、大丈夫? 凄い顔してるけど」


「え……あぁ、うん」


 隣の席に座る友達に声をかけられて、私の思考は現実に戻ってくる。

 視界に広がるのは、窓ガラスに映る見慣れない街並みと、心配そうにこちらを覗く友達の顔。……そうだ、今は遠足の最中で、確か昼食に焼肉を食べに行くとかで、バスで移動していたんだった。

 ぼやーっとする頭を振って、


「えっと……私どんな顔してた?」


「なんか、口から魂が抜けてる感じだった。最初は寝てるのかなって思ったんだけど、目は開いてたからさ」


「まじかー」


「うん、まじ。写真撮っておけばよかったかな」


 本当にやめてほしい。デジタルタトゥーとか怖すぎるし、そんな顔が拡散した瞬間、軽く死ねるから。


「ってのは冗談で、また考えてたの、佐藤君のこと」


「うーん……まぁね」


「最近いつもそうだよね。よくぼーっとしてるし」


「え、ほんと?」


 自分では気づかなくても、指摘されるっていうことは少なからずそうなのかもしれない。それにしたって、いつも考えているなんてそんなこと……ない、とは言い切れないなぁ。正直、ちょっとぼんやりしてると、彼のことを考えてる気がする。

 さっきだって「今頃、家で勉強しながら、合間に小説を書いているんだろうなぁ」とか「バスで彼と喋れたら楽しいだろうな」なんて考えてた始末だし。

 友達は黙ったままの私の顔を見てニヤニヤしている。あ、これ面倒なやつだ。


「もしかして、好きなの?」


「……そんなこと、ない」


 女子の恋バナは面倒だ。何が面倒かって、まず質問する側の質問選びが異常に上手い。完全に誘導尋問だし、意味もないに突き止めることへの熱意が凄いから、圧力が半端じゃない。

 それに、本音を吐いたら吐いたらで勝手にサポートしようとしてくるし、そんな暇があるなら自分の恋を叶えるように努力しろよと思っても、聞く耳持たないし、たぶん最初から何も聞いてない。

 ……って、そんなことはどうでもよくて、大事なのは私が佐藤君をどう思っているかで、っていうかどう思うも何も普通にクラスメイトだし、隣の席なだけであって、席替えしたらもう喋らなくなるだろうけど、それもなんか嫌で……


「えっと、どうしたの。ブツブツ呟いて」


「……はっ!?」


 何か今日の私は駄目だ。思考がごちゃまぜになってる気がする。一回落ち着かないと。

 そして、この話題を続けると明らかに不利なのは私だ。どうにか誤魔化さないと、失態がどんどん積み重なっていくし……


「何で高三にもなって遠足なんて行くんだろうね」


「話を変えたな……てか、あんたも普通に楽しんでたじゃん」


「……はっ!?」


「もう、全体的に怖いよ。驚きすぎでしょ」


 ……まぁ、うん、そうなんだよね。やっぱり遠足の当日は、それなりに楽しんでしまうわけで。

 盛大に自爆した私をジト目で見つつ、友人は笑う。


「ま、どっちだっていいや。楽しければ何でもいいし」


 どことなくあっさりした感じが男子っぽくてかっこいいなと思いつつ、私は彼女の言葉に少しだけ共感したりもする。

 「楽しければ何でもよし」。たぶんそういうことなんだろう。楽しみ方は人それぞれだし、別に誰かと同じことをする必要もない。したいことをしたいようにする。そんな生き方をどこかの誰かがしているなと思い出して、私は自然と笑ってしまう。やっぱり私は、彼と話すのが好きなようだった。

 少しずつお腹が空いてきたことを感じながら、私は今日を楽しもうと心中で思う。土産話は多いに越したことはないだろうし、なにより私も、この時間が好きみたいだから。


 明日は金曜日。

 さて、どんなことを話そうか。

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