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隣の彼と恋愛の話

 私の隣の席には、佐藤君という男子がいる。

 学校ではどんな時もスマホで小説を書いているような変わった人で、周りにはかなり無関心だし、クラスメイトの顔を把握しているかも怪しい。

 学生不適合者というレッテルを貼られてもおかしくない彼だが、勉強はそこそこ、いや、かなりできて、自分の学力を誇示する人よりは全然マシだと思う。顔立ちも平均より高くて、密かに女子の間で人気があるらしい。「寡黙なイケメン」……あれ、もしかして彼ってかなりハイスペックなのだろうか?

 そんなことを考えながら横を見ると、そこには相変わらず視線を下斜め45°に固定している佐藤君がいる。……モテたい男子の強敵だなぁ、これは。自然体で寡黙(?)だし、大人びているようにも見えなくもない。本当はただ小説以外に無関心なだけなのにね。

 心の中でクラスの男子に合掌しつつ、私は彼に声をかける。当然授業中だから声のボリュームは落として、こっそりと。


「ねぇ、ちょっといいかな」


「……何?」


「佐藤君って恋愛モノも書くの?」


「……たまに」


 小説の話題で切り出してみただけど、やっぱり彼はスマホから視線を離さない。仕方ないんだけど、目が疲れないのかなと心配にもなる。


「それって実体験を元にしたりしてる?」


「作品によっては」


 つ、つまりは、恋愛モノが書けるほどの経験をしたことが、いや、今もしているってことなのか? 彼女がいるのか?

 アタフタと内心動揺する私。でも落ち着いて考えれば、別に恋愛を描いた小説に必ず恋人が必要なこともないわけで。謎の焦燥感に押され、私は思わず聞いてしまう。


「彼女いたことはあるの?」


「うん」


「……ぐはっ」


 即答だった。見えない血反吐を吐いて、机に倒れ伏す。若干ギャグ調になっている気もするけど、この際関係ない。……そっかぁ、やっぱりモテたら恋人の一人ぐらいいるよね。恋愛とか興味なさそうだったから、独り身の私と同じだと思ったんだけどなぁ。

 授業中にも関わらず、ぐてーと机に張り付いていると、隣の彼は、相変わらず表情の読めない顔でぼそっと呟く。


「デートの時に小説書いてたらフラれたけど」


「…………」


 遊園地、水族館、レストラン、そのどこでもスマホと睨み合う彼と、それを見て次第に顔を曇らせていく恋人。想像するのが容易すぎる。どこまでもブレない彼はたぶん、最後にはビンタの一発でも喰らって……


「……ふふっ」


「…………」


 思わず笑ってしまったけど、もしかすると彼にとっては辛い思い出かもしれない。悪いことをしたかな。


「………ごめん」


「いいよ、気にしてない」


 声が変わらず淡白なところを見ると、本当に気にしていないらしい。恋愛よりも小説。私には考えられないことだけど、彼にとっては当たり前のことなのかもしれなかった。


「告白されたの?」


「うん」


「よくOKしたね」


「……題材になると思って」


「……うわぁ」


 薄々そう思っていたけど、本当にそんな理由で付き合ったんだ。彼らしいといえばそうだけど、告白した方も少し可哀そうだ。顔目当てにしろ、本当に好きだったにしろ、一回も見てもらえないのはきっと辛い。


「……悪いとは思ってる」


「謝ったの?」


「うん。……殴られたけど」


「それは……何とも言えないね」


 佐藤君に非がないわけじゃないし、たぶん殴られるだけで済んだのならマシな方だし。

 私が曖昧な笑みを浮かべていると、隣の彼は、少しだけ寂しそうな顔をして、


「僕はたぶん、人を好きになれない」


「……え?」


 それは、とても短い言葉だったけれど、何故かひどく、私の心を衝いた。

 私は、どうなんだろう。誰かを好きになれることなんてあるのだろうか。打算とか偏見なしに、本心から人を愛せる人なんてこの世にどれだけいるのだろうか。

 人は綺麗ごとだけでは生きていけない。この十七年で嫌と言うほどそれを知った。嘘とか妬みなんてどこにでも転がっていて、何かに左右されながら人は生きている。それは恋愛だって同じなはずだ。運命だった、愛してるから。そんな風に純粋に好きになれたらどれだけいいことだろう。でも、人が人である限り、それはきっと叶わない。絶対的な平等なんてなくて、誰もが何かを選んで捨てている。

 そんな今、人は本当の意味で誰も愛していないのかもしれない。自分自身とさえ向き合えないまま。


「…………」


 私は、どうなんだろう。

 どんなに問うても、答えは返ってこなかった。

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