転生悪役令嬢の救世主(ヒロイン視点)
今回はヒロイン視点の話となっております。
✳︎前作の悪役令嬢視点を読んだ後に、読んでいただけると嬉しいです。
「ラフィ!私達は明日からJKになるのよ!」
「わ、分かりました…その話はもう51回目ですよ…ユグドラシル様…」
興奮状態の女王陛下、ユグドラシル様は人の話が聞こえていない。もう51回目なる「JK 」という謎の言葉の連打。女王陛下付きの専属メイドである私、ラフィミアはもう耳タコ状態だ。
「じーちゃん!聞いて聞いて!」
相手にされないと諦めたのか、言ってスッキリしたのか……多分、圧倒的後者。次のターゲットにされている宰相、耳の遠い70代男性が「よしよし、頑張っておるのう。えらい、えらい。このどら焼きをやろう。」と孫にお小遣いをやる祖父の如く、毎日のようにお八つを与える。ついでに、私にもくれるお陰で体重の増加が……
「やったぁ!どら焼きだぁ!じーちゃんにもいっぱいお土産買って来るからね!」
「そうか、そうか。いっぱい友人が出来ると良いのう。」
「パク……甘い生クリームとほろ苦い抹茶が混ざって…欲を言えば、お茶が欲しいですね。」
…うん、美味しいお八つは正義です。
食文化が異様に発展し、周りの国を置いてきぼり状態のこの国が悪いんです…他にも色々便利で最高な環境のこの国から離れ…なぜ、見所も観光名所の1つもない隣国に行かなければならないのだろう。また学園生活とか、面倒くさいの極みですが…我が主の行くところ、何処までもお伴してこその専属ですからねぇ。さぁ、お茶の用意をしに参りましょうか。
—————————————
「…空が青いですねぇ。」
「ラフィミア…ラフィと呼んでもいいかい?」
「あ、あの雲……プリンアラモードDXに似てるなぁ…」
隣国の王立学園に入学してから、あっという間に半年が過ぎた。ユグドラシル王国からの留学生、公爵令嬢ユーリとして入学したユグドラシル様と、その親戚の男爵令嬢ラフィミアの設定は、なかなか歯がゆいもので。「ラフィにも私の面倒係だけじゃなくて、楽しい学園生活を送って欲しいの!私の事は、ユーリちゃんって呼んでね!」と言い張るユグドラシル様に根負けして、学園にいる間は護衛もメイドも休暇状態になってしまった。それでも、落ち着かず影から天井からユーリ様を見守り続け半年、碌に他者との交流を持たない私は、クラスで浮いた存在…もはや、いること自体忘れられているのかもしれない。
…そろそろ、ユーリ様の3時間目の授業が終了する頃合いだ。
晴れた日には必ず学園の中庭で、ご学友の公爵令嬢ソフィア様とランチタイムを行うユーリ様を見れる木まで行かなくては!
「一緒にランチでも…ラフィ⁉︎どこに行くんだ⁉︎」
最近、やたら周りに寄ってくる五月蝿い虫けら2号を無視して、ひたすら足を進める。ちなみに、あともう2匹ほど煩わしい面倒くさい無駄にキラキラがいるけれど……私に昆虫採集の趣味はない。
…向かい側から、犬2匹が競うように走り寄ってきた。
「ラフィミア!君の為にお弁当を作って…」
「1日3食限定の幻プリンを手に入れたぜ!」
「プリンは貰う。弁当は自分で食えば。」
下僕からの献上品は受け取ってやるのが、上の務めだ。
私と話たければ、手土産持参で来な!の言葉を間に受けた犬1号はまだマシな方だと思う。買うお金がないから手作り察しな犬二号は……もう、自分で食え!
やばい⁉︎もうランチタイムが始まってしまう⁉︎
校舎に取り付けられた時計をチラ見し、時間に気づいた私は急いで駆け出した。
————————————-
「ラフィ!ラフィ!死んじゃだめ⁉︎一緒に卒業しようって、約束したじゃん⁉︎⁉︎」
「ユーリ様、落ち着いて下さい…ね?私は別に何ともありませんよ、ほら!」
「でも、でも…沢山階段から落ちたんだよ⁉︎⁉︎」
廊下をスキップするように歩くユーリ様。
よっぽどソフィア様との買い物デートが楽しみなようだ。
私以外が見ていないからといって……ルンルンユーリ様も可愛いなぁ……早く国に戻って私も2人と一緒に……
一瞬思考が遠くに飛ぶ。目を離したその瞬間…「お買いもの♪…ぬぼぁっ⁉︎」変な奇声を上げたユーリ様が視界から消えた。
ユーリ様に何回か見せられた覚えのある「DVD」の一コマのように、スローモーションで宙に浮くユーリ様と目と目が合う。天井裏にいた私は咄嗟に邪魔な周囲の壁を破壊し、勢いもそのままに跳びだす。思いっきり伸ばしか片腕の先が掴めたのは、重力で宙に浮かぶツインテール。「いっだあ⁉︎」と悲鳴を上げるユーリ様の髪を引っ張り、自分の体に引き寄せる。なんとか頭と上半身を守るように抱きしめたまま、2人で3階の階段から転げ落ちた。よっぽど綺麗に転がったのか、踊り場で静止することもなく、一階まで辿り着いた私達は、ユーリ様の号泣に気付いた生徒達やユーリ様を探していたソフィア様に、保健室まで運んで貰ったらしい。不覚にも階段如きに屈した私は意識を失い、ユーリ様の泣き声で起こされ、現在に至る。
「頑丈さには、自身があるから大丈夫ですよ!…ユーリ様は怪我はないですか?」
「うん!ラフィが庇ってくれたお陰で頭皮がジンジンするくらいだよ!」
元気よく答えてくれたユーリ様。そこは、私は大丈夫だよ!と言うところでしょ⁉︎……あっけらかんとした様子のユーリ様に思わず苦笑が零れ落ちる。
「ラフィの卒業式の準備は、私が手配しておくから……暫くは絶対安静だよ!働き者のラフィが寝るまで、隣で見張るんだから!」
「ふふっ…ありがとうございます。しっかり、見張っていて下さいね。」
同じベットに問答無用でお邪魔して来たユーリ様が、ギュウギュウと抱き着いてくる。久方ぶりの抱擁に癒しと喜びを感じながら、私も愛する主を抱きしめかえす。
割と近く…多分、保健室の廊下付近で虫や犬の騒ぐ声やそれを嗜めるソフィア様の声が聞こえた気がした。
—————————————
「ラフィミアさん。…そろそろ、起きないと卒業記念パーティーにも間に合いませんよ。よい子だから、起きなさいね。」
「…まだ、ねむい……」
今日は待ちに待った卒業式。階段事件から保健室の住人と化した私は、毎日お見舞いに来てくれるユーリ様時々先生と会話し茶菓子をしばく…極楽堕落待った無しな生活を送っていた。煩わしい虫や犬にも集られない、面倒なだけの授業も受けなくてよい快適な環境だ。口煩かった保健室の先生は、ユーリ様の限定お菓子の賄賂に屈し「先生もユグドラシル王国へ行きたい!毎日美味しい物に囲まれるんだネ!いっやったね、出世だ…以下略」学園に辞表を叩きつけ、恋人とユグドラシル王国へ来るらしい。…給料と待遇の悪さに随分御立腹だったとか。
態度が軟化した先生にカーテンを挟んで優しく声がけされ、渋々身を起こす。予め専用壁ハンガーに用意されていたドレスを素早く身につけ、シャーとカーテンを開けて外に出る。
「はい、この松葉杖もちゃんと使ってね。」
「有難うございます、先生とまた王国で会える日を楽しみにしています。」
「ラフィミアさん……えぇ、また会いましょうね!」
偽造工作用の松葉杖を受け取り、社交辞令を言って保健室を後にする。憑き物が落ちたような先生に見送られ、卒業式パーティーの会場である講堂に向かって歩きだす。
……その時の私はまだ知らない。
守るべき対象であり大事な友人であり、誰よりも敬愛するユグドラシル様が、よりにもよって……
————————————
「ふぅ…そろそろ、入っても大丈夫かな?」
既に卒業式パーティーは始まっているようだ。中から微かに男女の声が聞こえてくる。…どうやら、面倒くさい記念の挨拶がようやく終わったようだ。なかなか、中に入らない私を不思議そうに見ていたガードマンに声をかけ、扉を開けて貰う。軽く会釈をして室内に入ると、ちょうど真ん中辺りが空き、そこを凝視する参加者達の姿が目に入った。
「…ラフィ⁉︎意識が戻ったのか⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
肝心のユーリ様とソフィア様のペアを探すも……ありがちな茶髪のユーリ様はともかく、目立つ銀髪のソフィア様まで見つからない。
……もしや、真ん中にいる?
人の波を掻き分けて、室内の中央を目指す。松葉杖に気づいた人々が無言で道を開けてくれた。ザァーっと音が聞こえそうなくらい別れた道の先。床に押し倒され、広がる銀色と茶色の髪が見えた。
あれは…あの銀色はソフィア様?…じゃあ、隣の茶色い髪の持ち主は………っ⁉︎⁉︎⁉︎
衝動的に体が動く。邪魔な松葉杖を放り投げ、足が駆け出す。
「怪我はどうしたんだっ⁉︎⁈ラフィ⁉︎⁉︎」
「ぐっはあ⁉︎⁉︎」「なっはあ⁉︎⁉︎」
走った勢いを乗せた足蹴りで、邪魔な障害物を蹴り飛ばし、ストンと床に片膝を立て着地する。しゃがみこんだ視界に見えたのは、予想通りのユグドラシル様の顔で。血が切れた皮膚の所々から滴り落ち、ぐったりとした青白い顔色からは正気を感じない………………………まるで、まるで……死んで…いる?
「……ええっ⁉︎⁉︎ゆっゆっゆゆゆユーリ様がしししし死んでる⁉︎⁈⁉︎ななななんでっ……い、いやあああああああああ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
口から私とは思えない絶叫がほとばしる。
絶望感に深い病みに侵食されていく脳内とは反対に、視界が激情で真っ赤に染まるかのよう。あかいあかいあかいなぁ…ねぇ
だ、だれか、だれが?……ねぇ、ユグドラシル様を……ユーリ様を殺したの?許さない、許さない、誰だ出てこい殺してやる八裂き股裂き微塵切り…コロスコロスコロス……
「ラフィ!怒りは分かるがその声をやめてく…ぐっぐええ⁉︎⁉︎⁉︎」
お前か………一番、うざったかった…お前が、やったのか。
一番偉いお前だけでは、足りない、足りない、たりないなぁ。
我が主様の分まで何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も殺してやる…この国の人間なんてみんな死ね……最初はお前からだ……
「オマエがこの人をコロシタンだな…死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。」
ポタポタと赤い錆びた液体が、締め上げた物体から降ってくる……あぁ、なんて気持ちが悪い。早く一秒でも早くこの赤がでないようにしないと……まだまだまだまだ、後が残っているのだから……
—————————————-
「私もはめてくださいな、ラフィミア嬢!」
「……貴女もユグドラシル様を……殺したんですか?」
……赤に染まった物体がピクリともしなくなった。
…さあ、次はどれにしよう?虫?犬?人間?
よりどりみどり…みんなみんな殺す…なら、手短かに倒れている人間から踏み潰そう……かと思ったのに、来客ですかぁ。
内容は手身近にお願いします……死にさらせソフィア⁉︎⁉︎
「ちがうっ⁉︎私は彼女を殺していないわ⁉︎…っでも、ユーリは私のせぃ…っ危ないわね⁉︎いきなり蹴りかかるなんて⁉︎⁉︎」
チッ、一丁前に避けるとか………ほんと、この女は気にくわないなぁ⁉︎⁉︎⁉︎私のユグドラシル様を……ユーリ様を独占して……仲良くお買いものデート⁉︎⁉︎ふざけんなっ⁉︎⁉︎私だって、まだ買い食いしかしことなかったんだよっ⁉︎⁉︎
「ちょっ、待って⁉︎⁉︎誤解よ、誤解だってばっ⁉︎⁉︎その買い物だって、貴女のドレ……っもう⁉︎いい加減にしなさい⁉︎⁉︎」
「ハッ…そんな素人パンチが当たるとでも……武器に頼ってカッコ悪っ⁉︎⁉︎」
「し、素人パンチ……こっちが下手に出ていれば、なんなのよその態度は⁉︎⁉︎⁉︎強制的に無駄に回るその口を閉じてあげるわっ⁉︎⁉︎この小娘があああ⁉︎⁉︎⁉︎」
キレが数倍増した殴りが襲ってくるのを、軽くいなして躱し捲る。出来た隙にこちらからも蹴りをいれ揺さぶりをかけるも……憎い女も負けじと避けてはカウンターを入れてくる。全くお互いの技が通らない罵声混じりのコロシアイ……時々、乱入してくる虫ケラを盾にしつつ、邪魔になったら放り投げ、蹴り上げては障害にするなどしても……なかなか一撃が通らないっ⁉︎⁉︎
「なぜ、なぜ、貴様は死なない⁉︎死ね当たって死ね⁉︎なぜ、私の邪魔をする⁉︎⁉︎わたしは、わたしはただ……ユグドラシルの仇を討ちたいんだ⁉︎⁉︎」
なぜ、なぜ……友ならば、ユグドラシル様に親友だと言わしめた貴女が彼女の仇をとってくれない⁉︎⁉︎⁉︎私の邪魔ばかりする⁉︎⁉︎⁉︎
「っそれは、ユーリが生きているからよ‼︎‼︎‼︎」
「………う、うそ……ほんとう?ユグドラシル様?」
……ユーリがユグドラシル様が生きている⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎こ、こんな事をしている場合じゃない彼女の安否を早く早く確かめなければ……どこ、どこにいるの?ユーリ様?
その言葉にパッと赤く染まっていた視界が晴れた。 殺戮衝動が急速に収まっていくのを感じる。
…なぜか、足に引っかかっていた虫2号を軽く蹴り飛ばし、キョロキョロとユーリ様の姿を探す。すると、ソフィア様が「ユーリなら彼処に寝かせてあるわ。」と肩を竦めながら教えてくれる。大分、離れた位置にユーリ様の薄汚れた白いドレスがチラチラ見えた。
「ユーリ様ぁ⁉︎いま、ラフィミアが参ります!ソフィア様を一緒に行きましょう!」
ユーリ様が生きている。その事実を確かめるためにも、証人には来てもらわないといけませんからね!
————————————-
件の卒業式から半年後、今日はソフィア様とご家族の方々、ついでに保健室の先生などのユーリ様のスカウト組が纏めて移住してくる日だ。昨夜「楽しみすぎて眠れない、徹夜で熱いマリ○ーナイトを過ごそうよ!」と私の部屋に同僚のメイドを数人引き連れ、押しかけて来たユーリ様のお陰様で……とてもねむいです…くぅ…
「ラフィ!飛行船が到着したみたい!門まで迎えに行こうよ今すぐに!」
「はっ………はい、ユーリ様!ご一緒致しますね!」
窓からこの国だけの飛行船が、飛んでくる小さな姿が見えた。
その姿に目をキラキラ輝かせたユーリ様が、ぐいぐいと私の手を引いて前を走る。赤く濡れた私の手や足でも…ユーリ様が望んでくれるのなら、私…ラフィミアは何処までもお供致します!
……でも、私にも構ってくれないと……ふふふっ
最後は女王陛下視点で終了の予定です。需要がありましたら、その後の話へ続くかも?
✳︎シリーズ設定にする予定ですが…