第4話 かめおあるある
良くある話ですね。(´∀`*)
今日のかめおは少し疲れていた。若くして現場親方を任されているかめおの仕事は大手ハウスメーカー下請け業者の、型枠大工だった。高校卒業と同時にこの世界に入り、腕のいい親方の元で修行を重ね、7年の月日を掛けかめおは現場を任されるまでになっていた。
一人前になる迄の道のりが長いこの世界で、いかにしてかめおがこの若さで現場を任せられるほどになったかと言うのは全て話すと長くなるので割愛するが、大きな要因として、かめおの昔からの習慣、妄想する事こそが関係してる。
妄想とは単純な話、想像力だ。型枠大工とは図面を頭の中で起こし、立体的に完成までの道を想像する事から始まる。様々な形を作らなければいけない中、一見楽そうに思えるこの作業がとても難しい。
10年掛けできる人もいるが30年経っても出来ない人もいる程だ。
そんな中かめおは腕のいい親方のおかげもあり、持ち前の想像力をフルに働かせ25歳と言う若さで周りからも認められ今の地位についていた。
そして今日は思いがけぬ仕事が入り帰路に着いたのは夜の11時を回っていた。疲れているかめおは帰宅後すぐに遅めの食事をとり五分で風呂に入った後ベッドに倒れこんだ。すぐに寝るのかと思いきや不意に頭に浮かんだのは、今日も家に少し来て他愛もない話をする予定だった家が隣同士の幼馴染、木嶋 優の事だった。
(今日は仕事が長引いて悪い事しちまったな…何だかあいつが何時も来てくれるのが日課になってるから少し物足りない気がしちまう……。)
この心の声が誰かに聞かれていたらboysなloveを疑われてしまいそうな内容だが、決してかめおはホモではない。
むしろ毎日の様に妄想の中で女性を口説こうとする位には女好きだ。
そして今日もあれやこれやと考えてしまうのだが、不意に思いついてしまった。
(………もしも優が女の子だったらどうなっていたんだろう…………………。)と。
幼馴染の青年の女性化など少し気持ち悪いと自分でも思ったかめおは直ぐに考えるのを止めようとするが、テンプレすぎる程のあのシーンを思い浮かべてしまった。そして、一度始まってしまった妄想は悲しきかな、かめおの想像力も相まって加速していくのだった。
「コン、コン、」
時間は夜の10時、少し早いが明日は学校が休みの為、友人と予定があり、そろそろ寝ようとしていたかめおの部屋に週に4回はあり日課になりつつある音が今日も聞こえた。
此処はかめおの家であり、二階にあるかめおの部屋だ。音のする窓に向かいかめおは窓を開け音の発信源でもある向かいの家の人物に話かけるのだった。
『ま〜たこんな時間にお前は……携帯で連絡すればいいのに何でわざわざコレなんだよ。』
寝ようとしていたかめおは少し気だるげにお隣さんの二階の窓から教師が黒板を指すのに使いそうな窓を叩いたであろう棒を持つ背中の腰上ぐらいまである姫カットがよく似合う黒髪の少女に言い放った。
それに対し少女は
「っべ、別に携帯でもよかったのよ!ただ!あんた今日学校で少し怠そうだったから、大丈夫なのかな………っって!違うのよ私は明日の買い物の荷物持ちが平気なのとか、、そう!ただそれだけの事よ‼︎」
この少し情緒不安定なの?と思わせるような少女は、
木嶋 優。かめおの幼馴染であり小中高と同じ学校に通う現在高校2年生の女の子だ。
『はいはい、私めは大丈夫でこざいますよ〜ただ学校では眠かっただけであります。明日の荷物持ち(奴隷)には差し支えありませんのでご心配なさらず。』
かめおは何時もの彼女の言動には慣れっこであり、あしらうようにして言った。これに対して優は少し落ち着きを取り戻すと、明日の予定の確認をするのだった。
「う、うん。それならいいのよ。明日に差し支えなくて元気なのね………。いい?明日は朝の9時に家の前で集合して最近出来たショッピングモールに行くのよ。
あんたは少しマイペースな所があるからきちんと朝の8時には起きて直ぐに歯を磨いて、顔洗って、髪を整えて、余裕を持って支度するのよ?それと朝ごはんは着いてからカフェで食べるから食べないでね。後最近夜冷えて来たからきちんと暖かい格好して寝るのよ?明日起きて風邪を引いたなんて事になってたら許さないんだから!けどあんた少し鈍臭いとこあるから心配ね…布団とか蹴っ飛ばさないかしら?…………今日だけ隣でねてあげましょぅか……?」
『話なげーよ‼︎お前は俺のオカンか!あと!明日の予定のきくの5回目なんだけど‼︎最後意味分かんねーし!全部大丈夫だからお休み!!』
そう言って窓を閉めカーテンを掛けるかめお。
残された優の呟きだけが残った。
「………また私ったら…はぁ〜〜〜だめね、寝ましょう。」
優は窓を閉め少しさっきの事を反省し明日の事を考える。すると少し微笑んだ顔をして眠りにつくのだった。
一方逃げるようにしてベッドに潜り込んだかめおはというと、
(っは〜〜〜なんかだめだ〜変に意識しちまう。ちょっと前までこんなんじゃなかったのにな…。しかも最後の何だよ……心臓が飛び出るかと思った…結局逃げるように戻って来ちまったし、かっこ悪…。明日俺大丈夫なのかな…?)
結局かめおは布団の中で悶々とし眠りに就いたのは時計の短い針がが4周した後だった。
次の日の朝9時、赤のニットを着込み黒のロングスカート、少し大人カジュアルな格好している優は少し不機嫌な顔をしてかめおを見ていた。
「ちょっとあんた、何でそんなに眠そうなのよ‼︎昨日は直ぐに寝たんじゃないの⁉︎寝癖もついてるし!」
『……………………………………ごめん……。』
顔を少し背けかめおは呟く。昨日の事もあり自分の不甲斐なさに何も言い返せないようだ。
「あぁもう!いいわよ!取り敢えずバスの時間が直ぐだから向かうわよ‼︎」
そう言ってかめおの手を引っ張りバス停に向かうのだった。手を引っ張られるかめおの顔は少し赤い。
目的地まで1時間程かかるバスの中で寝癖を直そうとしてくる優の仕草に顔を赤く染めたり何故か寝始めた優の頭が肩に寄りかかって1人静かにパニックになり掛けたりと色々あったが何とか目的地まで着いたようだ。
『ほら優起きて、着いたよ。』
「ん〜〜っあ!私寝てたんだ……ってあんたなんでそんなに疲れた顔してるのよ…?」
『男には人に語れない事情ってもんがいくつもあるのさ………。』
訳が分からなかったが取り敢えず目的地に着いた為、2人はバスを降り朝食を取るべくショッピングモールの中にある事前に決めていたパンケーキが美味しいと評判の店に入るのだった。
「っん〜〜〜評判以上の美味しさね!このふわふわので口に入れた瞬間幸せになるパンケーキもすごく美味しいけど1番は上にかかってるラズベリーのジャムが本当に美味しいわ‼︎」
パンケーキが評判の店に来たのにあまり興味がなく朝からがっつり食べたいかめお。カツサンドを頬張りながら目の前の上機嫌な優の姿に自然と笑みが溢れていた。半分くらい食べた後不意に優の手が止まった。
「全くあんたは!折角このお店に来たのに何でカツサンドなのよ‼︎」
どうやらカツサンドに夢中でこの美味しさを共有出来ないかめおが少し腹立たしいみたいだ。
『っえ?でもこのカツサンドも結構美味いよ?』
「もぅ!そんな事聞いてるんじゃないのよ‼︎………しょうがないわね、ほら…少し私のあげるから。」
そう言ってパンケーキを切り分けフォークでかめおの口前にあ〜〜んと言いながら差し出す優。
その時かめお、フリーズ!圧倒的フリーズ‼︎余りの出来事に動く事が出来ない‼︎ 言葉を発するまで掛かった時間実に4秒!そして出た言葉が、
『………っお、俺今、虫歯!そう虫歯!まじヤベーからさ‼︎多分今甘いの食ったらまじヤベーからさ‼︎』
圧倒的…嘘‼︎
「そ、そうだったの?…そんな状態なのにパンケーキ推しの店に連れて来ちゃってごめんなさい……」
少しシュンとした優。それを見て少し焦るかめお。
『いや、そんな事ねーよ!俺このカツサンドに出会えてちょっと人生変わったよ!こんな美味カツサンド食ったの生まれて初めてだ‼︎優のおかげだよ、ありがとう。』
「そうなの?何よ、虫歯なら初めからもっと早くに言いなさいよ…っふふ でもそれだけ美味しいカツサンドに出会えたなら一緒に来れてよかったわ。」
優の顔に笑顔が戻りパンケーキを食べるのを再開した。かめおは何とかなったかと、胸を撫で下ろし心の中でもはや戦友と言っても過言ではないカツサンドに圧倒的感謝をした。そしてお目当のショッピングをするべく店を出るのであった。
しかし二人は知らなかったこの時2人の周りで起きていたことを。周りの客 及び店員がとても生暖かい目で二人のやり取りを見守っていたことを‼︎‼︎
その後も色々なイベントが起こったが長くなるので割愛。二再びバスを帰路につく。バスを降り二人の家まで後十分といったところを歩いていた。
「今日は楽しかったわね‼︎あんたの服選びのセンスには相変わらずで呆れたけど楽しかったわ!」
『ははは そりゃどうも。楽しんで貰えたなら荷物持ちとしても光栄ですよ。』
太陽が沈み暗い道を手提げ袋を両手に持ち少し前を歩く優に向かって苦笑しながら言うかめお。
「いいじゃないの!あんたは私の専属荷物持ちなのよ!」
『そんなのいつ決まったんだよ‼︎…………でもまぁ、たまにならな!あのカツサンドに巡り会わせてくれた礼だ!たまになら付き合ってやるよ‼︎』
っと満更でもないように何処か嬉しそうに言うかめおと、楽しそうに笑う優。幼馴染の楽しげな会話はしばらく続いた。そして家の1番近くの交差点で信号待ちをしている二人。信号が赤から青に変わった瞬間優が走り出し、道路の真ん中でかめおに振り返った。
「かめお!今日は本当に楽しかったわ!また二人で今度こそパンケーキを食べに行くわよ‼︎あと!カツサンドもね!」
振り向きざまの今日1番の笑顔。かめおは素直に可愛いと思った。体の内側がポカポカするような、そんな感覚を感じていた。
しかし次の瞬間世界がとても遅く見えた。
歩道を乗り上げた軽自動車が真っ直ぐと優に向かって来てる。優からは見えていない。体は自然に動いた。
何か叫んでいたかもしれないが分からない。 手提げ袋も投げ捨て一心不乱に走り出し彼女を横に突き飛ばした!ゆっくりと倒れて行く彼女と目があった、その目は驚きに満ちていてかめおの顔を見てる。
(よかった。)時間が遅く感じる中それだけは思った。そして彼女の顔を見ながら言う。
『ごめんな』
ッバァアアアアアン‼︎‼︎
白い簡素なベッドの上で寝ている青年がいる。
かめおだ。その隣では彼の手を両手で握り祈るようにして顔を手に埋める優がいた。
事故から2日、車に轢かれ頭を打ち付けたかめおの意識は戻らない。奇跡的に外傷は余りなく精密検査の結果事故のショックで目覚めないが直ぐに目を覚ますだろうと医師の判断が出た。
それを聞いた優は二人の家族が揃っている前で子供の様に声を出して泣き続けた。
それから2日間学校も休み風呂やトイレに行く時以外はかめおの横でずっと手を握っていた。かめおと優の家族が帰った後もそれは続いていた。
そしてついに手の中にある物が動いた気がした。
「………………………かめお……?」
スゥっとかめおの目が開かれる。
「かめお‼︎‼︎ つぅ〜〜かめお!よかった!気づいた!ヒグッ うぅッ死んじゃうかと、、死んじゃうかと思ったよ〜〜ヒグッ。何がごめんよ!ッ…かめおのばかぁあああ‼︎」
喜びから大粒の涙を流す優を見てかめおは空いてる手で優の頭を優しく撫でる。やけにかめおは落ち着いていて、それは優が落ち着くまで続いた。そしてかめおはポツリと語り出した。
『………夢をな…夢をみてたんだ。お前がずっと泣いてる夢。…俺は泣き止んで欲しくて…けど俺の声は届かなかった。泣いてるお前を見てて色々考えてたんだけどな……………今ならこの声も届くよな?…』
「……かめお?」
『…今感じてるこの世界が夢じゃないなら聞いてほしい。……あの時俺は死んでもいいと思った。理由何てどうでもいいし前から分かってる事だったなって今ならわかる…』
突然語り出したかめおに困惑気味の優。しかしかめおの話は終わらない。
『……今生きて手の暖かさに幸せを感じる。…今お前が横にいてくれてる事に泣きそうな程幸せを感じてるんだ。……』
「…かめお」
『…気付いちまったんだよな……いや前から知ってたけど逃げてた。………………けど…もうにげらんねぇ……………』
『お前が好きだ。死んでもいいと思えるほどに。ずっと一緒にいて欲しい。』
優の視界はもう周りの事も大好きなかめおの顔も涙で見えなくなっていた。
「私も…私もかめおが好きぃ……ぅぅ……大好き。かめおが車に轢かれた時心臓が壊れちゃうかと思った…ごめんね……本当にごめんねぇ…でもありがとぅ………ぅぅ…ぅわぁ〜〜ん本当によがったぁあ〜〜」
そう言ってまたわんわんと泣き出してしまった優の頭を撫でながら幸せに包まれた気持ちでかめおは言う。
『とりあえずパンケーキ食べに行こうぜ。』
〜fin〜
妄想が終わった瞬間、かめおの意識は落ちた。
深く、深く落ちていき気づけば昔からよく見る夢の白い世界にいた。何時もと違うのは今日はやけに意識がはっきりしてる。そして何より
目の前に白い人の形をした何かがいる事だ。
かめおは何時もと違う夢に少し動揺する。目の前の白い人の形をした何かは動かない。じっと観察していると何処からか声が聞こえてきた。
【貴方の想力が限界値まで溜まりました。超越者となり、異界の地リリーシアに旅立ちますか?】
『っえ?なんて?ちょっとよく分からんのだけど超越者?リリーシア?てか誰⁇』
疑問符を大量に浮かべるかめお。夢なのは分かっているが何時もとの違いについていけない。
【貴方が超越者になる事により新たな生命が誕生します。超越者となり、異界の地リリーシアに旅立ちますか?】
『話が全然通じない件について……分からんけど夢じゃこんなもんか?とりあえず貴方は誰ですか?』
【私は貴方の前にいるものです。貴方が超越者になる事により初めて姿を得られます。超越者となり、異界の地、リリーシアに旅立ちますか?】
『っええ?お前あの丸くてふわふわしてたやつだろ?…喋れたのかよ。人形なのも初めてだし。あんまり話は通じないけど…。』
【貴方の想力が限界値まで達したのでその影響です。超越者になればさらなる進化が出来ます。超越者となり、異界の地リリーシアに旅立ちますか?】
『話がマジでわかんねぇええ!めんどくさ過ぎだろこの夢!もう超越者になるから好きにして下さい全て任せます。て言うか夢なのになんか疲れる……⁉︎』
その瞬間目の前の白い人形が光を放ち姿を変えて行く!余りの光量と急激に力が抜けていく体、気づけば地面にうつ伏せで倒れていた。そんな中頭上から声が聞こえる。
【体を作り変えるため少しの間生命活動を極限まで下げます。 想力を変換。 成功。 超越者への進化を確認。
力の分配等全て任された為、新たな生命の創造を開始。 4体の生命の創造に成功。
4体の生命に力の分配を開始。 成功。 超越者かめお及び4体の生命、共にリリーシアへ飛びます。】
(ダメだ体が動かんし凄く眠いそういや今日目覚まし………かけたっ……………け…か……な…………………………………………………………)
……光が消えた白い世界。そこにかめおの姿はない。
「かめ兄おきてぇーエリお腹すいたよぅー」
そんな声がした気がしてまどろむ意識を覚醒させ辺りを見回す。見渡す限りの草原、目の前の見たことがあるような気がする可愛らしい幼女。自分の周りにはこれまた見たことがあるような3人の女性が寝ている。
『………………ナニコレ。』
伊藤 かめお25歳。異世界生活の始まりであった。
異世界生活スタート☆