第3話 かめおの一目惚れ
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初めて会った時から心を奪われていたのかも知れない。
人魔対戦。7人の魔王と人類が戦争をしていたのは100年前の話だ。世界を股にかけた戦争は各地に大きな爪痕を残し。今でも人が踏み込む事の出来ない領域を作ってしまう程のものだった。結果は人類の 勝利に終わったが最後にして最強の魔王、ガルム-エルドラドを誰が倒したかのは今現在なお世界の謎である。
人魔対戦にて人々に力を貸し、時には勇者を選定し、勝利への手助けをしていたのがこの世界に住む精霊だ。精霊達は魔王に対抗する為人々に様々な精霊の加護を授け、人々は多くの勝利を収めた。しかし最後の魔王、ガルム−エルドラドが死亡した後、争いのない世の中にするには自分達の力は不要とし精霊達は人々の前から姿を消したのであった。
人魔対戦から100年の時が経ちトレジャーハントを生業とし、どんな危険な場所でも命をかけ突き進んで行く男がいた。名を、伊藤 かめおと言う。
最強の魔王、ガルム−エルドラドが死んだとされている瘴気の渦巻く死の大地、ノミナスをかめおは単身、期待に胸を膨らませ歩んでいた。
かめおには生まれた時から不思議な能力がある。
かめおには生まれつき精霊の加護が宿っていたのだ。
しかし戦のない今の世界では不要な産物。最初こそ選ばれた人間なのだと人々は祝福したが、かめおが大きくなるにつれ、疑問は生じる。
「なぜ争いのない今の世界で精霊の加護が?」
1人がそう言った。思いは加速し感染して行く。
人々はまた争いのが起きるのではないか?何か良くない事の前兆ではないのか?そんな不安が町中に募る。
だからかめおは10歳になり大好きな両親の元を離れ旅に出た。幸い加護持ちであるかめおは体は加護に守られ常人の何倍もの身体能力、両親の教育もあり聡く賢く成長した。旅の途中、トレジャーハントに魅入られ、世界中で成し遂げて来た偉業を自信に変え、旅に出てから10年、遂にかめおは死の大地ノミナスを攻略しに来たのだ。
常人では1分で死に至るほどの瘴気を体に受け平然とした面持ちで森を進むかめおは、ノミナスの再奥にある一際高い丘を慎重に上がっていた。
『…あと少しで頂きか?それにしても酷い有様だなぁ。』
激しい戦いがあったかのような傷跡が大地に深く刻まれている。大小様々なクレーターがあり、瘴気のせいで一切の生命はなく赤く染まった大地のみがそこにはあった。
月の明るさもあり夜の暗さも気にならずかめおは歩を進め頂きを目指す。何時間登っただろうか、不意にかめおの耳に優しげでなぜか少し悲しいような歌?が聞こえて来た。
『…嘘だろ…まさかこの死の大地に人がいるのか……?』
言葉とは裏腹にかめおの心拍数は上がり自然と険しい丘の道を走っていた。世界中を1人で旅して来たかめお。旅の中、人の優しさにも沢山ふれた。だが自分と同類の人はいなかった。かめおは優しさに触れても心の何処かで壁があった。
(自分とこの人達は生まれた時から違う……)
だがここは死の大地、ノミナス。
常人には生きている事は許されない大地。
心拍数も足の動きも上がる。精霊の加護をフルに働かせ丘を駆け上がる‼︎
歌は段々とハッキリ聞こえて来た。
そして丘の頂にたどり着いた瞬間ッ…………………
呼吸の仕方を忘れた。
最初に目に入ったのは金色に輝く大きな見たこともないような美しいすぎる月。そして次は月がよく見える丘の上で、一際生えるまん丸な金色の瞳。安らぎさえ感じてしまう紫色の髪。ローブの上からでもわかる艶やかな肢体。
何より、今日の月によく似た金色の瞳から流れ出す涙と悲痛に満ちた悲しげな顔。
歌は聞こえなくなっていた。
かめおを美しい金色の3つの月がまっすぐ見つめる。
始めに口を開いたのは彼女の方だった。
「ワシの名は、シリウス-ミルキィ…かつて人類最大の敵にして裏切りの魔王。100年ぶりの人の子よ、………頼む…ワシを、どうかワシを殺してほしい……。」
かめおは目の前の光景に心を奪われて彼女、
シリウス-ミルキィの声が聞こえていない。それ程に
目の前の言葉では言い表せない神秘に心を奪われていた。
しかし何故だか言葉は決まっていて全てはこの時の為だったのかと気づいてしまった。自分が生まれて来た意味も精霊の加護を受けている理由も。
だから、此処から始まる、此処から始めよう。
かめおの口が開いた。
『…待たせて、本当に待たせてばかりでごめん……。けど俺が必ず此処から連れ出す。君を運命から救ってみせる!……今度こそ必ず。………あと凄く綺麗だ。』
それを聞いた彼女は驚愕に顔を染めた後みるみると顔をくしゃくしゃにして声を漏らしながら泣き続けた。
泣いて、泣いて、泣いて、それは彼女が疲れて眠るまで続いたのだった…。
これは運命に踊らされた悲しき魔王とその魔王を救うべく運命に立ち向かう少年の話。
〜fin〜
『ミ〝ルキィ〜まだせでごべんな〜〜って妄想を昨日ペットのイモリに餌あげてる時してたんだ…。』
そう言って鼻水を啜りつつかめおは自宅に来ている家が隣同士の幼馴染、友人の木嶋 優に悲しそうに話す。
「…っえ終わり⁉︎ 今回割と普通ってか俺割となんか好きだったんだけど⁉︎ちょっと続きが気になってるじゃねーかばかやろ〜〜」
悔しそうに言う優。何を隠そう彼はファンタジー。それも女の魔王が出てくるのが好きだったりする。
『まぁでもよう此処から先は俺だけのものだから!俺だけがミルキィの事知ってればいいから!』
此処で優はハッとなる(あれ俺少しだけ毒されて来ちゃってる?こいつの妄想話に感情輸入しちゃってる?)と。
『けどあれだな優が俺の妄想話に食いついて来るなんて珍しいな!何時もは馬鹿にするかゴミを見るような目で見て来るのに。』
と少しニヤついた顔で仕掛けて来る伊藤 かめお25歳。気になっちゃうのぉお?みたいな得意げな顔をしている。途端にイラ‼︎っとした優は小声でボソッと言い放った‼︎
「……お前がいくら美女な魔王とストーリーを奏でようとも、お前の未来は親の遺伝子を受け継ぎ、禿げで小太りなおっさんになる事確定だから精々濃密な妄想を繰り広げて禿げを加速させるこったな……。」
『おまえぇぇ‼︎今関係あったかそれぇェェ‼︎‼︎確かに親父は禿げでおかんは小太だがそれは言っちゃあかんやつやろがぁああ!!』
魂の咆哮を放つかめお。本当に悔しそうだ。目に光る物も見える気がする。
そんな親友の姿を哀れに思い、優は言い過ぎたと思いとりあえず本格的にかめおが荒ぶる前にフォローを入れる。
「っま、まあ髪は隔世遺伝だって言うしお前結構マッチョだしそんな事も無いのかもしれないよな!な!」
かめおの恨めしそうな顔は少し残っているが徐々に落ち着くだろう。そんな何時もの日常があと少しで壊れるなんて事はまだ誰も知らない話。
(……まだ………まだ救いは現れないのですか……………) 異界の地で誰かの声がした。