プロローグ
ゆるりと読んでください
最後に見たのは、こちらに向かって必死に手を伸ばす誰かの涙で濡れた瞳だった。
誰かに呼ばれた気がして、目が覚めた。
まず目覚めて思った事が、暗いという事だった。だってなんも見えんし。目を開けているのか、閉じているのかも分からない。けど、瞬きをしている感覚はある。まぁ、目を閉じてても瞬きってやろうと思えば出来るもんだけどさ・・・・。
暫くぼんやりしてると、目が暗闇に慣れたのか自分の手が見えてきた。
そして、徐々に思い出した。自分の事を。
生前、地震のせいで本に埋もれて死亡というなんとも間抜けな死に方をしたわけだが、神社巡りを趣味としていたおかげで神様に特別に異世界トリップをさせてもらう事に。そして、噂の悪役転生とやらをさせてもらう事となった。
けど、幼子を演じ切る自信はないのである程度年をとったら記憶を戻してもらうことになっていたのだが、無事に記憶は戻ったようだ。
「んぅ・・・・おねえちゃん?」
腕の中で、小さく弟が身じろいだ。敏いな弟よ。
「なぁに、あきひと」
寝起きのせいでとろんとした目で此方を見上げる秋一。中性的な容姿の私とは違って、幼さも相まって女の子の様な容姿は、成長しても変わらない。だってゲームの攻略キャラの一人だし。
「ねむらないの?」
「ちゃんとねるよ。ただ、ちょっときんちょうしてるんだ」
嘘です。勝手に目が覚めただけです。微塵も緊張なんてしていません。ウソツキな姉でごめんよ秋一。多分これからもっと嘘つくから。
私が神様に頼んだ世界『揺蕩う君に触れたくて』は、男女逆転の江戸時代がモデルになった異世界だ。世間の仕組みは江戸と一緒なんだけど、この世界では女性の方が権力が強い。そして、色を売るのは男性が圧倒的に多い。勿論女性もいるが、男性の方が圧倒的に多い。・・・・はい、其処で男性が色を売るでBのLを想像した方、静かに手を挙げて下さい。そして何も言わずに私と手を組んで語り合いましょう友よ。
閑話休題
睡魔に負けてすよすよと眠る秋一のふわふわの髪を撫でながら、この世界の事をまとめていこうではないかと思います。くっそ、男に髪質負けてる。
まず、この世界での吉原というのは、遊女がいる場所ではなく遊男がいる場所を示す。
地域によって大小あれども、江戸の吉原はもはや一種の街だ。めっちゃ広い。『揺蕩う君に触れたくて』のステージは江戸吉原なので、結構覚えている。
吉原に来る客は男性ではなく女性だ。勿論、男性を相手にすることもあるが(この世界で男色は結構当たり前にある)女性の方が圧倒的に多い。
で、唯一の遊女のいる吉原。それが今私たちのいる場所だ。遊女のいる吉原は他の吉原と区別する為に花屋敷と呼ばれている。屋敷と呼ばれるにもちゃんと理由があって、本来吉原はいくつもの遊廓で構成されるが、花屋敷は巨大な屋敷1つで1つの遊廓となっている。
まぁ花屋敷の話はこの程度でいっか。
花屋敷の花魁は太夫と呼ばれるのだが、私と秋一の母は太夫の一人。客(父親が違う)との間に出来た子供。で、明日は将軍様(もちろん女性で美しいものがとっても好き)が発案した江戸吉原と花屋敷が混合で宴を催すという一大イベント。
絶世の美女美男を侍らせ満開の桜を眺めるという、庶民にはキツいイベントです。将軍様しゅげぇぇ。
なんて事をつらつらと考えてたら寝落ちしました。精神年齢がババアでも身体は子供ですからね。まだ月経のげの字も知らないような幼気な幼子です。
まぁ、中身すさんでますけど。
布団が2つ敷いてあるのに、1つの布団で抱き合って眠る私たちを起こしに来る母は、後に花屋敷の頂点に君臨するので、母は偉大だなぁって思いました。おやすみなさい。
二度寝最高(*´ω`)