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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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8話 暗雲

 俺が源七たちを配下に加え、諸国から様々な情報収集に勤しみ、しばらくの月日が経っていた。

さすがに源七たちは優秀である。諸国の些細な情報もつぶさに拾い、俺に伝えてくれている。

だが、特に見るべきものはないに等しい。日ノ本は小さいと言えども、僅か五人で拾える情報である。過度の期待はできない。

少し目ぼしいものと言えば、根来・雑賀の動きか……

どうも残党にスゴ腕の鉄砲放ちがいる……

武田の動きでは、家臣の出奔が多く、かなりの変わり者もいたらしい……

まあ、気に留めておくべきか?




 その頃、光秀は一人憂鬱の中にいた。

先日安土に呼び出され、また信長から無理難題を突き付けられたらしい。

光秀も五十歳を過ぎたにしては頑強であるが、坂本に戻るや一両日も寝込んでしまったほどだ。

ある日、俺はまだ床に就いている父、光秀に呼び出された。


「十五郎か?近う……」


「父上、ご無理をなされては。大事な御身体にございます」


「構わぬ。こうもして居れんでの?また、お前の考えを聞きたいと思うたのじゃ」


「如何なことでござりましょうや?」


「先日上様にお会いしての……困ったことになった。

わが織田家と長宗我部家が同盟関係にあるのを知っておろう?

上様は、四国切り取り次第を約定したにもかかわらず、土佐と阿波半国以外罷りならぬと申された」


「きたぁーーーーー!!」

俺の知る歴史通りの事だ。やはり真実だったのか?


「わしは石谷兵部を通じ元親殿と繋ぎをつけておったが、あのように一方的に約定を反故にされては、説得する自信がないのよ。詮無い事ではあるがの?おまえに愚痴を聞いてもらって、少し楽になろうと思うたまでじゃ」


「父上、某の浅はかな考えをお聞きいただけますか?」


「なんじゃ?遠慮無う申してみよ」


「この期に及んで上様が翻意なされるとも思えず、また、元親殿も己の器量にて切り取った領土をお捨てにはなりますまい。当然、手切れとなりましょう。ですが肝要なのはその後でござります。

織田家は強大と言えども、四方を敵に囲まれておりまする。駆逐した潜在的敵対勢力が、いつ反旗を翻すやもしれませぬ。

某が思いまするに、元親殿と決定的な対立をすることなく、中立を志向させるような手切れをされるがよろしいかと……」


「そのような上手い方法があるものかの?フフッ……」


「それはわかりませぬ。ですが毛利に対し有利な戦況であれば、元親殿も無理な戦は避けるものと……

幸い、東国は謙信遠行より表立った動きはないものと思いまする」


「成程……お前の戦略眼は相変わらず大したものよの?

その含みは兵部に入れ知恵しておくが、そう上手く事が片付くとは思えぬな?」


「父上、お願いの儀が……

是非、某を兵部殿と共に岡豊に遣わして頂けませぬか?」


「何を言い出すかと思えば……おまえは嫡子だ。万一があれば如何する?

軽々しくそのような事を申すではないわ」


「いえ、某が明智の嫡子故に、参りたいのです。それも某が岡豊に着く頃までは内密に……」


「如何なる事か?」


「某は織田家の宿老の嫡子です。父上も陪臣とはいえ大名にござりまする。

元親殿も『土佐の出来人』と言われたお方。浅からぬ縁の明智の嫡子を手にかけたりなど致しませぬ。むしろ、父上が並々ならぬ決意だと悟り、和戦両様を志向なされるかと。

そして何より、これほど短期間に四国を平らげんとされている、その軍略と人物をこの肌で感じたいと思いまする。

また内密にする所以は、羽柴殿などに要らぬ勘繰りをされぬためにございます。下手をすれば上様に告げ口され、痛くもない腹を探られかねませぬし……」


「成程の……おまえは本当に神童じゃの?確かに努々他人には悟られまいぞ」


「はい。岡豊行きの件、何方にも御内密に……それに幸い源七が土佐におりまする。心強い限りです」


「そうか……ならば安心じゃの?怪我でもして湯治にでも出かけた……と偽装しておく。じゃが、くれぐれも無理は禁物じゃ……頼んだぞ」


 さて、どうしたものか?

父にあのように言ったものの、何ら方策がある訳ではない。

俺の勝負勘は、織田家宿老の嫡子が使者として随行している……この点にしか強みはない。

兎に角、土佐の出来人に真っ向勝負しかないな……




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