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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
畿内統一へ駆ける
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80話 瀬田橋の攻防

天正十年六月二日

惟任日向守光秀は、洛中の残敵掃討を終え、また、各方面への書状を量産し使者を送った。旧幕府奉行衆、近江国衆をはじめ、あらゆる勢力に向けて謀反の正当性を訴え、合力を求めたのである。朝廷からの参内の要請もあったが、史実とは異なり、近江方面への出兵を優先したのである。これは不敬に当たるため、予め言い訳を周到に準備していた。

曰く、「旧織田家の勢力が都に攻め入るかもしれませぬ。故にまずは都の安全を確保すべく、近江を平定いたしまする……」朝廷はこの言葉に弱かった。

そして、神祇管領の吉田兼和を通じ、安土平定を見越して、勅使派遣を根回しするよう要請したのであった。これも、歴史を知るが故の用意周到さであった。

更に、二条新御所陥落の目星を付ける前段階において、近江に明智左馬助秀満の軍勢を先発させていたのである。これは、まず、瀬田橋の確保が目的である。そして、本体に先駆け、安土への電撃的な進撃を目指すものであった。



六月二日午の刻

源八、源九、疾風に率いられた明智忍軍擲弾兵部隊は、勢多城周辺に潜伏していた。本能寺の変の知らせが届けば、山岡勢が瀬田橋を焼くであろうと思われ、それを奇襲にて阻止する事が目的である。

そして、物見から、勢多城内に慌ただしい動きがあり、軍勢が出陣するのを察知した。

これは、橋を焼くだけが目的ではなく、そのまま、甲賀方面に逃走する算段と思われた。明智勢が攻め寄せれば、小勢の山岡勢では太刀打ちできないからである。


「疾風……俺は嬉しいのじゃ。やっと出番が回ってきたからのう。

源七兄に負けぬほどの手柄を立てねばな……」

源八が意気込んだ。源八と源九は共に組頭であるが、実の兄弟でもある。

年齢は二十五歳くらいだ。新たに組頭となった疾風よりも四歳ほど年長になる。今までは光秀に直接仕えることなく、甲賀の翁から直接、諸国の情報を得る任務に就いていた。


「兄者……そう気負わずとも、まだ初戦じゃ。

これからもっと働かねばならんのじゃぞ」

源九は至極真っ当な返答をぶっきら棒に返した。

橋の近くの雑木林に身を潜めながら、そんな会話が為されていたとき、山岡勢に動きがあった。勢多城内から軍勢が出陣してきたのである。完全に無警戒のまま、大将と馬廻りが先頭になって瀬田橋に向かっていった。それを見て取り、源八が配置に着くよう合図した。

最初の一撃が勝負である。山岡勢は小勢と言っても、四百前後は居そうである。明智忍軍は総勢でも五十に満たない。初撃で大将首を挙げ、相手の撤退を促すしかなかった。


疾風は、小声でほたるを呼び、指示を出した。

「蛍、我等には鉄砲が二挺しかない。手榴弾で大将周辺を攪乱する故、大吾と組んで狙撃し、討ち取るのじゃ。お前は一番の鉄砲上手じゃ。頼んだぞ」


「承知……」蛍も小声で答える。


山岡勢が細長い縦列となって瀬田橋の近くまで進んでくる。瀬田川にいた水鳥が一斉に飛び立つ。そして、その羽音と同時に数発の爆発音と閃光が山岡勢を飲み込んだ。


「敵の伏兵じゃ~~退け~~~っ」

山岡景隆は叫んだ。全く無防備の状態から、経験したことも無い武器で攻撃されたからである。その爆発音に馬はいななき、馬廻り達が振り落とされる。

景隆は辛うじて落馬を免れ、城へ退却しようとした。

そこへ、更に数発の手榴弾が投げ込まれる。後続の部隊と引き離され、景隆の体が晒された。そして、そこへ鉄砲が放たれた。


「パパァァ~ン」……轟音と共に景隆は愛馬から振り落とされる。

しかし、その銃弾は運よく景隆に当たらず馬に命中したのだった。


「ちっ……」蛍は舌打ちし、二つ目の鉄砲を手に取る。

素早く大吾が点火し、手渡したのだった。

「当たれよ……当たれよ……」そう心で呟き、二発目を撃った。


銃声は、手榴弾の爆発音に掻き消されたが、景隆がうずくまるのが見えた。

「掛かれ~~っ」源八が突撃を命じ、明智忍軍が躍動した。

軍勢が縦列を強いられたため、山岡勢は囲めない。

そして、源八が蹲っていた景隆の首を取ったのである。

景隆は鉄砲で腹部を撃ち抜かれて、動けなくなっていたのだった。


山岡美作守やまおかみまさかのかみ、討ち取ったり~~っ」

源八が大音声を挙げた。そして、すかさず瀬田橋方面に退く。

山岡勢は、大将が討ち取られ、茫然自失ぼうぜんじしつで退却した。


「おのれ~~明智の忍び共か……許さぬぞ……」

弟の山岡景友が叫んだ。この時、軍勢の最後尾に居たのだった。


「奴らの狙いは瀬田橋じゃ。それに小勢じゃ……一気に攻め立てよ」

景友は愛馬に鞭を入れ、突撃した。足軽たちが続く。

しかし、瀬田橋を守る体制だったのは源八と源九の組であり、疾風達はなお、脇の茂みの中に身を潜めていたのだ。山岡勢が一団となって攻めかかる。

源八たちは、盾の間から弓で応戦した。そして、その一団に向けて、疾風達が手榴弾を投擲した。数発の手榴弾は固まっていた山岡勢の中で炸裂し、吹き飛ばした。

そして、突撃する。山岡勢は次々と明智忍軍に刈り取られていった。


「引け~~っ。ひとまず勢多城に退くのじゃ」

景友は叫んだ。わずかな時間に大将の景隆を含め百名程が討たれた。

一方の明智忍軍は、誰も討ち死にせず、負傷者が数名にとどまった。

勢多城に引き上げた景友だったが、驚愕の知らせが届いた。

明智軍三千が急速に迫りつつあると言うのだ。此処で、景友は進退が極まったことを悟り、勢多城に火を放ち、甲賀山中に遁走したのだった。



四半刻ほどして、明智左馬助秀満率いる軍勢三千が瀬田橋に到着した。

この頃、明智軍本隊も京を出て、近江に向かいつつあった。


「皆の者、大儀であった。すぐに負傷者の手当てをせよ」

左馬助は明智忍軍に声をかけると、早速その後の手配りをした。

瀬田橋に、配下の妻木範賢と兵三百を残し、すぐに安土に向け進軍したのである。そして、明智忍軍は本体の到着を待ち、光秀の指示を待つことになったのだった。

すでに大幅に歴史は変革され、動き出していた……


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