表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
8/267

7話 画策

 安土からの帰路、俺は父光秀と共に御座船のなかにいた。琵琶湖を船で、坂本まで帰るのだ。

水面に浮かぶ船は、あたかも、今の自分のように感じられた。

そうだ……歴史の波間に浮かぶ小船だ。


 今は天正八年(1580年)六月……あの日までは二年足らずである。

書物を読み漁り、戦の在り様を秀満叔父や、父の光秀、伝五、庄兵衛などから聞きまくり、それなりの知識は得たつもりではある。

だが、理想とする歴史変革を成し遂げるには、足りないのだ。

そして何より、心の底を打ち明けるべき友がいないのだ。

当たり前だ。「俺が450年後の未来から転生した人間である」と告白すわけにはいかない。

ましてや、言ったところで狂人としか誰も思わないであろう。

ただ一人、『あの男』を除いては……


「父上……十五郎から一つお願いの儀がございます」

俺は改まって光秀に言った。


「なんじゃ?申してみよ」


「某、この戦国の世をもっと知りたいと思うておりまする」


「わしに言わせれば、そなたは十分広い目を持っておると思うがの」


「いえ、まだ足りませぬ。情報の重要さは父上が一番わかっておられるはず……

織田家中はみな、上様の軍略故に盲従するところがござります。

広い視野を持ち、常に情報を得る努力をしておられる方は、父上の他は、羽柴殿以外は浮かびませぬ。他家もまた然り。没落する大名家はみな、影働きを軽視したが故と……某は思うておりまする。源七とその配下の者……某にお貸し下さりませ」


「其方が使いこなすと申すか?」


「はい……某は源七を兄のように思うておりまする。源七も、某を弟のように思うてくれておりまする。

必ずや命を賭して、働いてくれるものと……」


「間者というものは、情を以って使うものではないぞ?」


「はい、ですが、源七は違うと思いまする。源七は、父上の事を実の父のように思うておりまする。

必ずや、期待に応えるものかと思いまする」


「…………」

光秀は腕を組んで瞑目した。

光秀にとっても、源七含め甲賀組の面々は無くてはならない存在なのだ。


「わかった。源七とその配下四名をおまえの配下に与える。

源三他、他の面々は今まで通りわしの影働きをやってもらおう」


「有難き幸せ……必ずやお役に立てるよう粉骨致しまする」


「堅苦しいことを言わんでもよい。おまえは我が跡取りじゃ」


「だが、一つだけ伝え置く。今まで通り、お前の得た情報は隠さずワシに伝えよ……それが条件じゃ。よいな?」


「はい、お約束いたしまする」

父に嘘をついてしまった……

まだ今は父に話せないことを、俺は探ろうとしているのだ。

そう、諸国の人材を発掘すること。それは、淡い期待を抱いている俺と同種の人間……未来から転生した者を探し出すということなのだ。存在する根拠がある訳ではない。だが、あの時同じ場所で死を迎えた者達……何某かの非科学的力が働いて、俺をこの時代に転生させたのであれば、他の者もこの時代の何処かにいる。そんな気がするのだ。





               ◇






 数日後、他国から戻った源七を呼び出した。それも人目を避けた坂本城下の外れにある、とある豪農の空家である。

俺は庄兵衛の目を盗んで、屋敷から抜け出してきたのだ。


「若殿……困ります。庄兵衛殿から私が叱責を受けまする」


「固いことはなしじゃ、源七……実は父上から、お前たちを我が配下にとのお許しを頂いた。以後よしなに頼むぞ?」


「まことでござりますか?いや、しかし左様な事が……」

源七は信じられぬと言った面持である。


「まことじゃ。今後はお前達に影働きを頼み入る」

配下の四名は目を白黒させているが、無言である。


「わしの心根を包み隠さず申す故、力を貸してほしい」


「若殿のためならば、某、死をも厭いませぬ。その心根をお聞かせ下さりませ」


「父上には、より多くの情報を他国から得るためと言っておる。

じゃが、それ以外にもう一つ、人を探したいのじゃ。

何でもよい、普通では考えにくい技能を持つ者……わしのように神童などど噂されるような変わり者じゃ」


「配下にせよとは言わぬ。その者の素性、何処に住まうのか、どういった変わり者なのか……それが知りたいのじゃ」


「何と……影働きとはまた違った役目にござりますな?承知いたしました。これより日ノ本をくまなく探しまする。どこまで拾えるかはわかりませぬが」


「源七、頼み入る……弥一、疾風ハヤテ、初音、琴音……お前達も頼み入るぞ?」

こう言って俺は頭を下げた。


「承知……」皆が一斉に唱和し、風のように消えていった……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ