68話 海王丸
天正十年五月九日
俺は雑賀から船で土佐浦戸に到着した。
坂本を発つ際に書状を送っていたので、すぐに話は通った。
来訪を告げると、池四朗右衛門が出迎えたのだった。
「若殿から、お噂は聞き及んでおりまする。某、池四朗右衛門と申す」
四朗右衛門は海で日焼けした顔から白い歯を出し、笑って見せた。
俺は、この男に殊の外好感を持った。
「明智十五郎光慶と申します。良しなに頼み入る」
俺は型どおり挨拶をした。
「若殿は、岡豊に居り申す。大殿もすべてをご存知です。
つきましては、今後の方策を話し合いたく……
御足労願いまする」
「願っても無い事。此方こそ頼み入る」
こうして俺と源七は、岡豊城に向かったのだった……
岡豊に到着した俺は、早速城に上がることとなった。
通常の謁見の間ではなく、奥座敷の一室に通された。
理由は勿論、完全に人目を避けるためである。
俺は、元親を前に平伏した。小姓すらも遠ざけられていた。
「惟任日向守が嫡子、十五郎光慶にござりまする」
「長宗我部宮内少輔元親である。面を上げられよ。
と申しても……一度会うておるよの……」
「ははっ。其の節は身分を偽り、申し訳なく……」
「いや……気にすることはあるまい。
大望を抱かんとする者、それくらいの気概が無くてはの……」
そして、その室に居る者五人、顔を突き合わせ、方策を話合ったのだ。
「十五郎殿、期日も迫って参りました。私も父には概略を伝えてあります。今後の方策と問題点を改めてお話しします。
まず、長宗我部家は本能寺の変の直後、三好の勢力を駆逐いたします。主だった者は四国から逃げ去りますので、安房、讃岐は容易に併呑出来ましょう。問題は伊予です。
河野家を毛利が支援するため、容易には参りませぬ。
此処からは、畿内の情勢如何で様子見になりまする。ですが、四国一統は我が家の悲願故、御助力お願いいたしまする」
まずは、弥三郎が語った。
「宮内少輔殿……我が父は長宗我部家と永続的な同盟関係を望んでおりまする。四国切り取り次第は改めて約定致します。その辺りはご懸念には及びませぬ」
「うむ。宜しかろう。我が家は明智家の天下一統に力を尽くしましょうぞ」
元親が答えた。
「ははっ、有難き幸せ。お頼み申しまする」
「そして、直近の方策ですが……これが難しゅうございます。
我が水軍は精強ですが、瀬戸内を完全支配するところまでは至りませぬ。十五郎殿を如何にして備中までお送りするか……思案いたしましたが、やはり、水軍でお送りするのは無理がございます」
弥三郎が見通しを語った。
「何か良い方策はござりませぬか?」
「方策は一つ……讃岐まで陸路で生き、そこから対岸の備中に上陸致しましょう。実はすでに手配してござりまする。
香川之景殿を頼ります。弟の五郎次郎が養子として跡継ぎになっておりまする。
そこからですと対岸の備中は近いですし、安全かと思われます。
帰路は、引田まで戻れば我が水軍にて摂津までお送りできまする。
勿論、その途中で秀吉に焼玉を贈答致しますが……」
弥三郎が計画の詳細を述べたのだった。
「承知致した。色々難儀をおかけ致しますが、良しなに……」
こうして、「備中高松への使者」という難事への対策は完了した。
そして、元親を交え、本能寺の変以降の方策と見通しを語り合った。
俺が意見として提示したのは、四国だけでなく、淡路を攻略してもらう事だった。
これは、元親と弥三郎も同意してくれた。
そして、対秀吉の戦略である。基本はやはり、水軍での牽制である。
また、その先の方策として、更に水軍を強化し、伊勢方面への出兵である。恐らく志摩水軍の九鬼義隆が滝川一益の組下である以上敵対する可能性が高い事。これに対抗するには、長宗我部水軍しかあり得ない。更には中国、九州への出兵にも八面六臂の活躍をしてもらう他ない。それを弥三郎に依頼した。
弥三郎からの構想はまず、艦隊も当然であるが火砲の拡充であった。またそのための別子銅山の開拓であった。俺はやはり大蔵長安を頼るしかないと提案した。鉱山の開発など、その辺りの知識に詳しい人間は長安しかいない。そのような今後の構想を話し合った。そして、孫三郎にも渡した「手榴弾」を渡し、海戦にも役立ててもらう事にした。
翌日、俺は弥三郎と共に、長宗我部水軍を見せてもらうため同行した。
「先輩……どうっすか?驚きました?」
弥三郎は……純一に戻っていた。言葉も……
「い……やぁ……開いた口が塞がらん
ようこんな船作ったなぁ……これ敵が見たら驚くやろ?」
「でしょ?火力も志摩水軍の鉄張船とか、全然話になりません。
でも、ヨーロッパではこの船の能力の80%くらいの船を大量に持ってますよ。天下統一した場合、何よりも海軍力優先で増強せんと、勝ち抜けません。
特に、アメリカ本土に行く頃にはもっと相手も発展してますから、余程頑張らんと勝てないですね。武家だけでなく、庶民に至るまで教育に力入れんと不味いです」
「確かにな……勉強になったわ」
「本音を言えば、大砲の弾ですね……榴弾を作る技術を確立したいです。
准教授に言って、優先的に開発してもらえんですかね?
巧さんも、その辺り詳しいでしょ?」
「そう思うけど、作るとなったら加工技術やろか?
また聞いてみるわ……」
「頼みます。
先輩……いよいよです。絶対に成功させましょうね……
それと、絶対に生きて帰ってきてくださいね」
「当たり前や……約束する。
次ぎ会う時は、この船に乗れるんやな……」
「そうです。『海王丸』って名づけました。
21世紀にもある名前です。子供の頃見たんですよね……」
「そっか~~憧れやった訳やな?
センチメンタルやなぁ~~ハハハッ」
「でも海の王者に相応しいでしょ?
まあ細かい突っ込みはなしで……乗船を楽しみにしてください」
そして、数日後、俺は源七と共に、香川之景の元へ旅立った。




