表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
62/267

61話 武田は滅びぬ

天正十年三月十日

夜も更けようとしていた。名族武田には、最早指揮する兵すらも居ない。

武士の意地を通そうとする者が、幾らか居るのみである。

勝頼は、最後まで付き添ってくれた家臣に礼を述べ、明日の最後の決戦に向けて、最後の軍議を開いていた。『玉砕』するためだけの軍議である。


漆黒の闇の中から、源三郎は来訪を告げた。


「真田源三郎信幸にござります。父安房守の使者として罷り越しました。

何卒、御屋形様にお取次ぎ願いたい」


「おぉ~~源三郎か?よう参った……取次などと堅い事を申すな。

久方ぶりじゃ。早う顔を見せてくれ……」


「ははっ。御屋形様……我ら家臣が不甲斐ないばかりに……

申し訳ござりませぬ……」

源三郎は、素直に詫びた。


「ハハハッ。もう良いのじゃ。これも時代の流れ……

今更後悔しても始まらぬ。わしは、このように不甲斐ない当主に、最後まで付き従ってくれる家臣たちに申し訳ない気持ちしかないのじゃ。

源三郎……其方はまだ若い。決して我らに殉じようなどと思うでないぞ。

そればかりは絶対に許さぬ……」

勝頼の、最後までの意地であった……


「はい。某は、この後に及んでも諦めてはおりませぬ。

故に、今ここに居り申す……」


「今更、どうすると言うのじゃ?

すでに信勝に家督も譲った。あとは武田の意地を通すまでよ……」


「否、暫く……まだ諦めてはなりませぬ。

武田家を絶対に滅ぼすようには致しませぬ。

我が父、昌幸は岩櫃にて、御屋形様をお迎えする所存……

何卒、お聞き届けくださりませ……」

源三郎は、必死に訴えかけた。


「この状況……わが武田が命脈を保つ方法などあるものか?

此処もすでに囲まれておる。明日になれば攻め込まれよう?」


「はい。ですから、某が真田の忍び衆と共に罷り越した次第……

必ずや、御屋形様を囲いを破り、落ち延びさせまする」


「何故じゃ?何故そこまで拘る?

真田家は、安房守の智謀があれば、生き残れよう?

敢えて、火中の栗を拾う必要などありはすまい?

それに……女子も、負傷者もおる。わしは見捨てることなどできぬ」

勝頼も正直な気持ちを吐露したのだった。


「そこを曲げてお願い致したく……

確かに、皆を連れて逃げることは叶いませぬ。

ですが、御屋形様と信勝様だけならば可能です。

某の申し上げておる事は、不条理なのは承知の上……

それを敢えて申し上げておるのです」


「源三郎?心根の優しい其方が、そこまで言う訳は何じゃ?

何故、武田を生かそうとする?

ましてや、身の危険もあろう?理由を聞かせよ……」


源三郎は、寒空の中大きく息を吸い込んだ。

そして、語り始めた。

「御屋形様……武田が滅びるなど誰が予想されましたでしょうか?

ですが、時代の流れは無情なもの……現に明日にも滅びようとしておりまする。ですが、このような事は織田家に起こらぬとも限りませぬ。

世迷い事と言わず、お聞きくださりませ……

実は、某は真田源三郎信幸ではないのです。

450年先の日ノ本から生まれ変わった者なのです。

某は、日ノ本の歴史を知っておるのです。その歴史では、明日、武田家は滅びる運命にありまする。ですが今年の六月二日、織田信長も謀反に斃れるのです。

重臣、明智光秀の謀反によって……」

源三郎は、告白したのだった。


「何と……しかし、そのような事、誰が信じるのか?

もしそうであれば、生きる価値も残っておろう?

だが、其方も申したように、世迷い事としか思われぬ」


「そう思われるのも無理はござりませぬが、事実なのです。

弟、源次郎も信じてくれておりまする。

某が、今ここで御屋形様をお救いしたい理由は、日ノ本の未来のためなのです。否、日ノ本だけでなく、この世の人々すべての為でもあります。歴史に干渉せず、このまま進んだ場合、450年後にこの世の人間すべてが滅び去るのです。

実は、信長が謀反に斃れる際に、跡継ぎの信忠も討ち取られます。

そして、その後、後継者争いが勃発し、最後に天下を統べるのは羽柴秀吉なのです。


ですが、それも一代限り……

その後は徳川殿が天下を簒奪なされ、征夷大将軍となられます。

江戸に幕府を開かれるのです。ですが、『鎖国』政策のため、日ノ本は世界の進歩から取り残されるのです。そして、歴史の流れの中で、江戸幕府も滅び、帝中心の世の中に変わります。

今から三百年近く先の事です。その後、日ノ本は統一された国家として、世界の国々と戦争を致します。


そして、戦争ばかりの歴史の中で、人々は恐ろしい武器を作り出すのです。

『核兵器』というものですが、1発で数百万の人を焼き払う武器なのです。

技術の進歩の中で、そのような終末兵器を保持してしまうのです。

お互いがその兵器を保持し、平和の均衡が保たれるのですが、ある時、その兵器を使う国が現れるのです。そうなればお互い報復合戦となり、人々がすべて滅びる運命を辿るのです。

それが、今から正確には445年先に起こるのです」

源三郎は語った。誰もが目を白黒させながら聞いていた。


「某も、その核兵器によって死に、何故か生まれ変わったのです。

生まれ変わったからには、そのような未来を変えたいと思い生きてまいりました。ですが、生まれ変わったのが、某一人ではなかったのです。

未来で友人であった人間が五人……同時代に生まれ変わったのです。

それも、未来の知識を持ったまま……

その一人が、明智光秀殿の嫡子、十五郎殿なのです。

我々は出逢い、そして、歴史変革をするという目標を共有しました。

信長を倒した後、明智殿に天下を統べて貰い、日ノ本を世界の強国にするのです。そして、人類が滅亡せぬように歴史を誘導するのです。

未来の歴史を知り、知識を持つ我々なら、可能かもしれないのです。

その為には、甲斐武田の力が必要なのです……」

源三郎は一気に語り、そして沈黙した。


「何と……わしには信じられぬ話じゃ……

だが、それが事実であるなら、確かに武田は大いに力となろうな?」


「はい。何卒……武田の命脈を保ってくださりませ。

武田家は、明智と同盟を結び、日ノ本の中枢として発展するのです」


「相分かった……では、信勝を……

信勝を武田の当主として支えてやってくれぬか?

源三郎や安房守がいれば、武田の家は立ち行こう?」


「暫く……御屋形様に是非共に立って頂きたく……」

予想外の展開に、源三郎は焦っていた。


「御屋形様……共に立ってくだされ……

そして、甲斐武田の再興を……某、あの世から見ておりまする」

横から、小宮山友晴が割って入った。


「某からもお頼み申す。

明日は某が影武者として、討ち死にする覚悟……」

大熊朝秀が語った。


「良いのじゃ……わしは、其方らと共に戦うのを望んでおる。

あの設楽が原の負け戦の折、果てるべきであったのだ。

わしの失策のせいで、数多の有能な家臣を失った。

信勝……おまえはもう武田の屋形である。

再興の望み、おまえに託そうぞ……よいな?」


「父上……私も共に戦いとうござります。何卒……」


「ならぬ……武田の屋形としてお家のために働くのじゃ……」

勝頼は覚悟を決めていた……


そして、その時後ろに横たわっていた武将が突然屠腹したのだ……

その武将は息も絶え絶えに語り掛けた。

「御屋形……様、信勝様……某の最後の望み……

お聞き届け……下さりませ……

御旗……盾無を……着せて下され……

某が……信勝様の身代わりに……」

土屋昌恒であった。史実では「片手千人切り」で名を馳せる武将である。

落ち延びる際の戦闘で負傷していたのだった……


「惣藏……何という事を……」

勝頼と信勝が声を揃えて言った。


「御屋形様……先に……参りまする。

武田家再興……お頼み申しまする……」

そう言って、静かに目を閉じたのだった……


「御屋形様……共に我らと……お願いいたしまする。

惣藏殿の死を無駄になさりませぬよう……」

もう源三郎は懇願調になっていた。

源次郎も、左近も息を呑んでいる……


「友晴……惣藏に楯無を着せ、あの社に運び火をかけよ……

信勝……惣藏の忠義を無駄にするな。よいな?

源三郎と共に武田家を再興せよ」

勝頼が指示を出した。決意は変わらない……


「源三郎……信勝を頼む。

わしは明日、最後の一戦に臨む。

わしが討ち取られれば、信勝への追及は緩もう?

もう武田の屋形ではない。元々わしは陣代じゃ。

屋形である信勝のために、命を捨てる覚悟……

頼むぞ……信勝を立て、武田家を生き返らせてくれ……」

そう言って、勝頼は頭を下げたのだった。

そして、脇差を源三郎に与えたのだ。


「御陣代様……必ずや…………」

源三郎は、涙が堪えきれなかった。

そして、これ以上の説得が無駄であることを悟った。


「信勝様……参りましょう。

必ずや武田家を再興してみせまする……」


「父上……必ずや……」

そう言って、信勝は涙した。


そして、源三郎と真田忍軍は、信勝を連れて夜の闇に消えたのだ。



翌日、織田軍は勝頼一行に対して攻撃を開始した。

武勇に秀でた勝頼は、一通り暴れまわり、最後は妻を手にかけた後、腹を切った。

家臣たちも、思い思いに奮戦し、勝頼の後を追ったのである。

此処に、名族「甲斐武田」は滅んだ……

だが、信勝は脱出し、岩櫃に向かっている。

この事実は、この時点では幾人かを除いて誰も知る由もない……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ