表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
6/267

5話 第六天魔王

いよいよ信長様のご登場です。

 天正八年(1580年)六月二日

ここは、何とも見晴らしの良い部屋である。

眼下には、琵琶湖の雄大な景色が一望された。

欄干に手をかけ、景色を見たままその男は光秀に語り掛けた。


「キンカンよ……長宗我部との交渉はどうなっておるか?」


「はい……某の被官である内蔵助の縁者が、元親殿に輿入れしておりまする。

その縁を頼り、石谷兵部を遣わそうかと。必ずやよい返答を得られるものと……」


「フッ……で……あるか?励むがよい……期待しておるぞ……キンカンよ」


 そして、徐に光秀に向き直り、胡坐をかいた。

およそ日ノ本で「最も天下に近い男」の所作とは思えない。

そう……かの男こそ、「第六天魔王」と揶揄される、織田信長である。


「キンカンよ……そちの息子……なんといったかの?

神童とか噂されとるらしいのう?

ワシの耳にも聞こえておるぞ?近いうちに連れてまいれ」


 光秀は背中に冷や汗が流れるのを自覚した。そうなのだ……上様は、神のごとき軍略をもって、日ノ本を席巻している。

もちろん光秀も、この信長に自身の飛躍を賭け、そして現在のところ、昇龍のごとき出世をしているのだ。


 家柄が重要視されるこの時代にあって、上様は能力主義を貫き、貴賤を問わず重用なされる。

元々、浪人だった自分しかり……貧農の出自である羽柴秀吉しかりだ。

しかし、同時に嫉妬深い性格でもあるのだ。理由はわかりきっている。

上様は天才であるが、跡継ぎに恵まれないのだ。

もちろん、跡継ぎにふさわしい能力を持った後継者という意味である。

そこに光秀の危惧があったのだ。

しかし、拒否できないことも、当然理解していた。


「はっ、まだ不肖の息子でございますが、上様に拝謁が叶うとは、望外の喜び。これに勝る栄誉はござりませぬ。必ずや、近日中に登城させまする。

もしご無礼があれば平にご容赦を……」


「きっと申し付けたぞ……いかなる知恵者か、語り合うてみたいものじゃ」


「そのような者ではござりませぬ。理屈ばかり捏ねますもので、某も控えるよう、叱りつけておる次第にて……」


「益々もって面白いではないか……理屈っぽいとは、キンカンに似ておるのぉ?

ハハハッ……」

信長は高笑いし、上機嫌であった。


 光秀は安土城よりの帰路、考え込んでいた。

如何に切り抜けるか……

わが息子ながら、十五郎の器量はこのワシでさえ舌を巻くほどだ。

その知識ばかりではない。

思うに……先の事を見通す戦略眼が、尋常でない程的中するのだ。

それも3年前の「あの日」から……

惰弱だった少年が、人が変わったように文武に励み、歴戦の武将顔負けの男に成長しているのである。

まあ、顔だけは幼さの残る童顔で、厳つさの欠片もないのだが……




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ