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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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53話 孫三郎の告白

天正九年(1581年)も暮れようとしていた。

この時代の冬は寒く、雑賀郷でも雪がチラついていた。

この日、孫三郎は、虎皮の陣羽織を着こんで、孫市を訪れた。

「重大な決意」を秘めて……


「おぉ~~寒い。おい親父?久しぶりやな……

なんや?らしくないのぉ……苦虫潰したような顔しやがって」


「あのなぁ、ワシかて悩むこともあるんじゃ……」

珍しく孫市が悩んでいる様子であった。


「やっぱ例の件か?まずいなぁ」

先日、孫市の家臣と、守重の家中が喧嘩沙汰になり、双方に死傷者が出ていた。その場はなんとか大事にならず治まったが、双方が戦支度を始めるなど、不穏な空気が流れていた。


「もうしゃ~ない。守重と決着付ける……サシでな」

孫市は珍しく決意の眼差しであった。


そして、孫三郎は居住まいを正した。

「親父……実はどうしても話さなあかん事がある。

世迷い事や言わんと、聞いてくれるか?」


「何や……藪から棒に。似合わんのぅ?」


「いや、真剣なんや。俺がこんな真面目に話するんは、一生に一回きりやから、聞いてくれるか?日ノ本の未来に関わる事なんや……」


孫市は、この不肖の息子のこんな姿を見るのは初めてだった。

「わかった。聞こうやないか。言うてみぃ」


「実はな、俺は「鈴木孫三郎重朝」やないんや。いや、ちょうど四年半前に孫三郎ではなくなったと言うべきかな?外見は同じでも中身が違うんや。

つまりやな、今の俺は、未来の人間が「孫三郎」の体を借りて生まれ変わっとるんや。憑依ひょういしてると言うたらエエかな?つまり、そういう事や……」


「ハァ?意味が分からんぞ」

あの孫市が、目を白黒させていた。


「やから、先の事がわかるんや。年が明けたら、親父は守重を殺す羽目になる。

そして、雑賀の方針は一統され、土橋一派は粛清され、平和になるやろ。けど、それもあと半年だけや。親父は半年後、雑賀から逃げなあかんようになる。

それは……「信長」が死ぬからや。

信長は来年の6月2日、本能寺で謀反に斃れる。

明智光秀が謀反を起こして、信長・信忠父子を殺害するからや」


「何やと?そんな……おまえ与太話……」


「ホンマの事なんや。わしは450年先の日ノ本から転生してきたんや。

この時代にな……話を続けるとな、信長が斃れた後、天下を統一するのは、わしの嫌いな「秀吉」や。あいつは、「信長の敵討ち」いう大義名分を得て、光秀を倒すんや。やけど、信長の息子らを立てることはない。己が権力を握って、関白まで上り詰める。信長の三男の信孝なんか殺されるんや。

雑賀も実は、秀吉に根絶やしにされるんや」


「やけど、因果応報でな。秀吉が死んだあとは、天下は家康に簒奪されるんや。そして、家康が「征夷大将軍」として江戸に幕府を開くことになる。そして約260年間、平和な時代が訪れるんや。しかし、鎖国によって、日ノ本は世界の進歩から取り残され、最終的には外国の圧力で江戸幕府は滅びることになる。

毛利・島津を中心とした勢力に倒され、帝が中心の世の中が訪れるんや」


孫市は、黙って聞き入っていた。


「そして、日ノ本は一つの国家として、外国に負けんように、富国強兵に努め世界の強国に成長するんや。この時代は、世界中で戦争ばっかりやっとる。今では考えられんような程、武器も進歩してるんや。

「飛行機」いう空飛ぶ乗り物もある。鉄砲も、「機関銃」いうて、同時に何百発も撃てるような武器が当たり前なんや。ほんで、間飛ばすけど、最終的には今から約450年後に、日ノ本含め、世界に住む人間すべてが死に絶えることになる。

「核兵器」いう武器でな。これは焙烙玉みたいなもんやけど、一個で畿内全体を火の海にするくらいの強力なもんや。それが世界中で何千発もあって、お互いがその武器を撃ち合うんや。

その時に、「未来のワシ」も死んだんや。

で、なぜか死んだはずが「鈴木孫三郎重朝」として生まれ変わった」


「孫、続けてくれ……」


「わかった。やけど、この生まれ変わったのは、実はワシだけやないんや。

当時ワシの友人やった五人の人間が、同じ時代に転生したんや。

明智十五郎、長宗我部信親、真田信幸、大蔵長安、望月千代……

全員が、450年先の知識を持った人間や。

俺は思った……未来に人間全部が死に絶えるんなら、俺らで歴史を変えようやないかってな。あとの五人も同じ気持ちで目標を共有してる。

俺らが協力したら、絶対に変えることができるんや。

そのためには、日ノ本を世界の強国にするしかないんや……」


「おまえが溝彫っとった火縄銃も未来の知識か?」


「ライフリングっていうんやけど、実はこの時代にも似たようなもんが、伴天連ではあるはずや。まあ、俺が居た時代では、当たり前の細工やけど、今の日ノ本では、加工が難儀やから量産できん。

ちなみに、長宗我部は強力な水軍作ってる。元親の息子の信親が、未来では「船造り」の研究してたんや。おそらく、世界最強の艦隊やろ。で、大蔵長安いうのが、俺の先生やった人や。「大学」言うて、大勢が本読んだり、手に職つけるのに学ぶ場所があって、そこで教えてた人間や。

兎に角、ワシも含めて六人は、450年先の知識持ってるし、未来の歴史を知ってる訳や」


「ってことは、やり様によったら天下も取れる訳やな?」


「そうかもしれん……やけど、俺はそんなつもりは無いんや。

色々考えたけど、天下は「明智十五郎」に統べて貰う。

ほんでや、俺は何十年後かに、外国に行くんや。

海を越えてな……この雑賀の港をずっと東の果てまで行ったら、日ノ本の何十倍も広い大地があるんや。「アメリカ」っていうんやけどな。遥かに豊かな国なんや。

そこで、日ノ本の人間に移り住んでもらって、新しい国造りをするんや。

実は、善之助も、例の別嬪さんも、この計画知っとる……

最初は与太話や思ってたみたいやけど、長宗我部の船見て、俺の話を信じてくれたんや。親父は信じられんか?」


「いや、そんな作り話できる訳ない。おまえの性格もわかっとる。

信じようやないか……信じるとして、雑賀を守るにはどうするかや」


「親父……ありがとうな。信じてくれると思うてた。

ちなみに、来年早々に、あの武田が滅びる……

形式上やけどな……実はここでも、俺らが色々細工してるんやけどな。

信長が死んだあと、復活させるんや……

ほんでや、雑賀を守る方法やけど、土橋のオッサンとサシで話はしてもらわなあかん。というか、この「与太話」、オッサンに話して納得させるんや。

もし、信じんかったら、オッサンを殺してくれ。

けど、もし信じてくれたら、オッサンを殺した事にして匿うんや。

で、本能寺で信長が死んだ後に、出てきてもらうんや。

そしたら、雑賀は一枚岩で滅びることはない。あとは、明智の天下取りに協力する。そしたら、雑賀の者は、ずっと栄えるはずや。それはワシが保証する。十五郎が雑賀衆を頼りにするはずやし、何といっても、ワシの親友や」


「なるほどな……信長や秀吉を嵌める訳やな?

何とかやってみよやないか」


「頼むわ。恩に着る……

それと、この馬上筒……親父の分や……ライフリング施してる。

試作品は、守重に渡したんや。説得材料になるかわからんけど持って行ってくれ。俺は、守重のオッサンも好きなんや。できれば自分の好きな人間同士、殺し合わんといてほしい」


「ハハハッ……わし、おまえのそんな優しいとこも好きやぞ。

任しとかんかい。それとな……早う嫁取って、孫の顔見せろよ?

ワッハハハハ」


孫三郎は、嬉しかった。

結果はどうなるかは、わからない。が、上手く行く……そう信じていた。

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