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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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51話 勢力図

俺は、自室に戻ると、長安から貰った日本地図を眺めた。

それを眺めながら、構想を練ろうと考えたからだ。

「本能寺の変」が成功した後の畿内の状況を考えてみる‥‥‥

まずは、京を抑えた後は、やはり近江になる。

安土~長浜そして、あわよくば横山城まで抑えるべきだな。

そうすれば、関ケ原から侵入する敵に備えることができる。


近江で主だった勢力は‥‥‥

山岡景隆、蒲生賢秀・賦秀、阿閉貞征・貞大だな。

史実では、山岡景隆は本能寺の変後、瀬田橋を落として光秀に敵対している。そのせいで確か、時間的損失を被ったはずだ。この対策は必要かもしれない。

予め、源七等忍び衆に奇襲攻撃をさせるしかないか‥‥‥

山岡勢は、大した戦力ではないはずだ。


蒲生父子は、賦秀が信長の女婿である。恐らくは敵対するはず。だが、史実で知る通り有能な武将だ。信長の親族を伴って、日野城に籠っている。これの対策をどうするか‥‥‥

恐らくは、信雄との連携を模索するであろうな……

できれば味方にしたいが、厳しいか?


阿閉父子には、やってもらうことがある。秀吉の親族の捕縛だ。神速で安土まで確保できれば必ず味方するはずだ。日頃秀吉の事を恨んでるはずだから、嬉々として従うだろう‥‥‥


若狭の武田元明、京極高次も味方になるはずだから、その兵力も糾合して北近江も制圧できる。その後は北陸勢への牽制のため、北國街道を抑えさせるべきだ。


こうしてみると、対策さえできれば史実より早く、近江は制圧できそうだ。

後は、甲賀方面からの織田家の残党の侵入を対策すればいい。

織田信雄は、知る限り臆病気質なので積極的な攻勢はしないはずだ。



そして、河内はどうか……

三箇頼照・頼連と若江三人衆である、池田教正、多羅尾常陸介、野間長前がいる。

一枚岩で行動するかどうか、不明かもしれない。

特に三箇頼照と多羅尾常陸介の間は、キリシタンを巡っての遺恨がある。

そして、津田信澄だ。大阪城代だった信澄が、どう行動するか……

史実通りなら、信長の三男信孝、丹羽長秀に信澄は殺される。

しかし、事前に知らせたらどうか?少なくとも殺害される確率は低い。

状況によって、信澄がどこに動くかで混沌としている。


そして、和泉……

岸和田城に拠る、蜂屋頼隆だ。

当時は四国方面軍の副将だったが、信澄暗殺には加担していない。

しかし、潜在的に敵対勢力は間違いない。やはり、雑賀との連携で奇襲するべきだ。


大和は……ここだけは筒井順慶の動き次第で、干渉できない。

未来知識で、「日和見」であることはわかっていても、どう対応するか難しい処だ。おそらくは河内まで進出できれば、保身のために同心しそうではある。だが、後々秀吉からの調略の手が伸びるかもしれぬ。大身の大名だけに、味方になっても諸刃の件であることに変わりはない。

こう考えると、どこかの時点で葬るべきか……


そして、丹後の細川家……

ここは、姉の「玉子」の嫁ぎ先だ。歴史的には中立の立場を取り、玉子を幽閉し剃髪する。所謂「日和見」に走った訳だ。おそらく畿内の動静を見極めるためだと思われる。

また、感情的な面では、光秀の組下である事に、「忸怩たる思い」もあったであろう。名門であるだけに、プライドも高いはずだ。下手をすれば、秀吉の調略も伸びるはずだ。


摂津は……池田恒興、高山重友、中川清秀だ。

池田恒興は、信長の乳兄妹であり、間違いなく敵対し、秀吉の東上を待ち連携するはずだ。有岡城を策源地として、周辺の制圧に乗り出す可能性もある。

高山右近、中川清秀の去就に影響を与えるためには、河内北部の制圧が鍵となる。そうすれば高槻城、茨木城に拠る両者は容易には動けないはずだ。


こうして見ると、不確定要素の中では津田信澄の動向が重要になる。

大坂城千貫櫓で襲われた後、どうするかだ……

当時引き連れていた軍勢は少ない。立場がどうあれ、摂津方面は池田恒興がいるだけに危険になる。中川・高山も後背定かではない。行き場が難しいのだ。

もし、明智に味方するなら、京を目指して落ち延びるか……

あるいは、もし有能な武将であるなら河内北部に橋頭保を確保し、河内国衆や摂津の高山・中川に睨みを効かすかもしれない。


要は「不確定要素」が多いわけだ。

やはり、畿内の勢力が最も気にすのは「秀吉の東上」である。

何よりも、兵力と速度をできる限り削ぐことが重要だ。

漠然とそんな事を考えていた……



「兄上、少しよろしいですか?」

十次郎か?俺の室の外から声が掛かった。


「兄上……久方ぶりです。例の剣術の技、習得できましたよ」


「おぉ~そうか……しかし、学問はどうなのだ?

武将として成長するには、学問が欠かせぬのだぞ?

書物は読んでおるのか?」

俺は、この弟が可愛かった。何かと世話を焼きたくなるのだ。


「はい。孫子などは熟読しています。

しかし、実際の戦術などは正直自信がありませぬ……

ん?その地図は日ノ本の?」

十次郎は日本地図が気になったらしい。


「そうじゃ。大蔵長安殿に頂いたものじゃ。

諸国を見分し、数多の知識を習得しておられる。

よし、これを写して渡そう。秘密じゃぞ?

決して誰にも見られてはならぬ……よいな?」


「まことですか?嬉しいです。

早速用意して写させてください……」


この当時はコピーがないので、マジで大変だ。

しかし、十次郎は気色ばんで、必死に地図を写していた。

俺は、その姿を見つめていた。

こいつも成長すれば、立派な武将になるだろう……

俺や、父の力になってくれれば心強い。

そんな事を漠然と考えていた。

激動の時代にあって、少し、やわらかい空気に包まれた一日だった。


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