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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
51/267

50話 母と子と……

父、光秀の元を辞した後、俺は城内の母の部屋を訪れた。

熙子ひろこ」と呼ばれる女性だ。父光秀の家臣、妻木広忠の娘で、長い間、労苦を共にし助け合った「糟糠そうこうの妻」である。

あまり話す機会もないので、婚儀の件を報告することにしたのだ。


「母上、お久しゅうございます……」


「まあ十五郎、あまり会えぬから心配しておったのですよ……」


「申し訳ありませぬ。何分多忙の身故、つい足が遠のいておりました。お変わりありませぬか?」髪にも白いものが目立ち始めた母に答えた。


「息子が立派にお勤めを果たすのは、母としては嬉しい限り‥‥‥」


「それを聞いて安心しました。ところで母上……

某、嫁を娶ることになりました。先日、安土で上様に婿になるよう申し付かりました。早ければ来年末には婚儀を進めよ……と……」

母は驚いた様子だった。


「まあ……何と目出度めでたい事。十五郎が上様の婿にとは……

このようなこと、何と言えばいいのか……母は‥‥‥母は嬉しいぞえ」

そして、喜びのあまり涙したのだった。いつの時代も、母の息子に対する愛は変わらない。ましてや長男が、夫の主君……それも天下人にならんとする男の娘を娶るのだ。

これほど喜ばしい事はないだろうな……俺は冷静に思った。

そして、暫し母と昔話に花を咲かせた後、再び長安の元を訪れた。



「長安殿。報告に行ってきました。今は冷静です……」

俺は、開口一番に告げたのだった。


「左様でござりますか?で、殿は何と?」

長安も、この時代の口調に戻っている。


「はい。長安殿の予想通りでござった。やはり、喜んではおらぬ。

朝廷との関係や、家中での立場を気にしておいででした」


「でしょうな……殿程の方なら、そう思われましょう?」


「まあ、仕方の無い事ですし、婚儀の話はお受けいたします……

それまでに計画が実行されるはずですし、実質反故みたいなものですが……」


「確かに……で、唐入りの件は何と?」


「父が、上様をお諫め申し上げると……

ご不興を買うのも覚悟の上と申されました」


「やはり……お父上はそういうお方ですな。

日ノ本の未来を託すに値する人物と見えまする」


「そう言って頂けると、某も嬉しく思います。

それと、研究費の件、父の了解が取れました。

ところで、何の研究をなさるのですか?」

俺は、すごく気になっている事を尋ねた。


「うッ……恵介、すまん。話し長くなるから言葉戻すぞ」


「はい、どうぞ。ハハハッ」


「笑うなよ。なんか説明するのに、この時代の言葉はやりにくい。

でな、研究いうても優先順位があるんや。

長期的なもんは、石炭の採掘をしたいと思ってる。

日本にもある資源やし、有効活用するんがエエやろ。ただし、これは日ノ本を統一してからやな。北海道や九州の一部を直轄領にしてからがエエやろな。

最終的には燃料として利用して、蒸気機関に活用する」


「成程。そうなれば、外国に先駆けれますね」


「そや。それにアメリカ本土に移住するには、蒸気船が強みになる。

ただ、これは時間がかかる。

で、まずは日ノ本の統一……つまり、戦を優位に進める武器や。

綺麗ごとではあかんからな。

で、色々考えたんやけど、「手榴弾」を開発する。

理由は色々あるが、誰でも使えて、加工が簡単なんや。

しかも、効果は絶大や。まあ毛利が使う「焙烙火矢」の発展系や。

巧がやってる、ライフリングは考えいいけど、加工技術が大変や。

それと、大筒の射程を伸ばす工夫やな。

兎に角、まずは手榴弾や。

明智家の「擲弾兵部隊」を作ったら、かなり有利やぞ。ワッハッハハ」


「成程ですね……早くにできそうですか?」


「ああ。一年あれば完璧なもんできるやろ。

陸戦ではかなり有利に戦える。特に忍び衆が使えば尚エエやろな」


「わかりました。宜しく頼みます。それと、人は要りますか?」


「ああ、頼むわ。俺独身やし、身の回りも楽したいしな。ハハハッ

できたら、職人を数名頼めるか?」


「承知しました。すぐ手配しますね」


そんな話をしていると、源七が戻ってきたのだった。


「若殿、やはり此処におられましたか?只今もどりました」

源七は相変わらず元気がいい。おそらく話がうまくいったのか?


「ご苦労だった。で、どうであった?」


「はい。若殿の頼みならばと、快諾頂きました。

女が増えれば、賑やかになるだろうと……

それに、巫女衆なれば、ご自身も守る術をお持ちなので、足手まといにもならぬであろうと。早速遣いを走らせまする」


「うむ、宜しく頼む。それと伊賀の様子は何かわかったか?」


「はい。わが織田軍が大軍故、根切りされるであろうと……」


「そうか……女子供も多かろう?」


「はい。そして、おそらくは残党が各地に隠れ、召し抱えられるかと……

例の、不知火の三左や、徳川殿には服部半蔵も居り申す」


「そうか……」


「我が明智忍軍も対抗上、戦力を増やすしかありませぬ。

実は、首領にその件、お話ししました。

遠からず、私以外の組頭が加わるかと思いまする」


「それは助かる。父上にもお伝えしておく。

それと、羽柴殿の動き、色々気になってな。やはり、先手を打って調べてくれぬか?その伊賀者を使い、また謀を巡らされては厄介じゃ。わかっておれば、逆手に取ることもできよう?」


「はい。早速手配いたしまする。では……」

そう言って、源七は風のように立ち去った。


「しかし、アレやな?源七はお前の事ホンマに好きなんやな?

見てて微笑ましいわ……」


「ですね……俺も実の兄貴みたいに思えるんですよね……」


「ハハハッ、ほんなら、わしが叔父さんになったるわ」


「あざっす。そう言ってもらえたら……」


「ほな、人の件はなるだけ早く頼むわな。

それと、コレ‥‥‥日本地図や。写し取って置いた。

戦略とか考えるときに、あったら便利やと思う。

それ、原本にして後は写しといてくれ‥‥‥」


「有難うございます。では戻りますね。戦略も色々整理せんとな……

失礼しますね~~」


そう言って、長安の元を辞した俺は、城下の船着き場から琵琶湖を眺めた。

この水面だけは、いつも変わらないな……

たぶん21世紀でも同じだろう……漠然とそんな事を考えた。

1581年9月。あの日まで9か月……






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