4話 歴史変革
俺は、口が利けないように、己を装っていた。
数日のうちに、色々なことが状況からわかったのだ。
俺だから、これほど早く理解できたのだろう。
そう、「歴史オタク」であり、曲がりなりにも「明智の末裔」を自称する家系に生を受けていたのだから……
俺は、「惟任日向守」つまり明智光秀の嫡男……「十五郎光慶」に転生したらしいのだ。
しかも、21世紀では22歳だった俺が、10歳の子供である。
無論、頭の中は「歴史オタクの大学生」のままだ。
数日前、俺は溝尾庄兵衛と配下の者と共に、鷹狩に出かけたらしい。
俺は、どうやら惰弱な少年だったらしいが、珍しく晴れたこともあり、病弱にも関わらず、鷹狩がしたいと庄兵衛に強請ったらしいのだ。
庄兵衛は反対したらしいが、俺が懇願したため、許したんだと。
で、御多分に漏れず、大雨~落雷~意識不明……こんな成り行きだったらしい。
俺は決断していた。あの「悍ましい歴史」を変えてやるんだ。
あらゆる愛するものを奪った未来……そして今、1577年。
あの時から450年前……しかし、どんだけ遡るんだよ。
というか、あれか?自分の先祖に遡って歴史を変革するには必要だったのか?
先祖で、歴史を変革できる人間が転生先に選ばれたのか?
そう考えれば、自然と納得できるのかな?
そして、今の俺が置かれた立場でどう歴史を変えるのか?
そこが問題だ。俺は10歳。子供には、そんな力は到底ありはしない。
ただ、この世界の自分の父親には、多大な力があるのだ。
そうなんだ……父、明智光秀は日本史上最大の事件を起こした張本人なのだから。
そう、あの時は、今から5年後である……「本能寺の変」
しかし、歴史はその後、父光秀にとって過酷なモノになっていく。
俺の立場で歴史を変革するには、あの時しかない。
そうなんだ。この世界での父、明智光秀に天下を掌握してもらう。
そして、その後を自分が継いで、日ノ本を治めればいいのだ。
しかし、それだけではダメだ。欧米列強の侵略に立ち向かえない。
そのためには、立憲君主国家の建設と、軍事力、そして資源確保。
世界に冠たる、日本という国家の建設。
俺が考えたのは、先進的な海軍力をもって、新天地である領土の確保。
場所は、「アメリカ本土」である。
そこに、日本人の新たな「移民国家」を建設すること。
しかし、そのためにはまず、日ノ本という国家を統べることが条件になる。
俺は歴史を知っている。その知識を動員し、勝たねばならない。
これが決意したことだった。そして考えたのだ。
俺がこの世界に転生したとういことは、他にもいるのではないか?
転生した人間が……
あの時、俺と一緒にいた5人……同時代で生を受けたのではないか?
そんな期待感があるのだった。
もし出会えたなら、きっと志を同じくし、協力し合えるはずなのだ。
俺は日夜構想を練った。また、周囲の評価が、惰弱な少年であることを知った。
だから、父に評価されるよう、文武諸芸に励んだ。
幸い、俺は頭の中は「現代人」だった。22歳の頭脳なのである。
しかも、古文献を読み漁っていただけあって、何でもすぐに理解した。
というより元々知っていた。
3年の後には、「明智の嫡男は神童である……よい跡継ぎじゃ」
などと、噂されるようになっていた。
この3年間の歴史……未来で知っていた俺の歴史認識と同じように進んでいる。
俺の構想は、転生してから5年後に起こるであろうあの事件まで、歴史を変えないということだ。
逆に言えば、5年後の事件を変えるような要素を、排除しなければならない……という事でもある。
問題は、今の俺が置かれた立場だ。
明智十五郎は生没年すら、わかっていない。
つまり、歴史の表舞台に立ったような足跡すら、ほとんどない人物である。
明智十五郎に転生した俺は、すでに周りの人々に小さな意味では影響を与え、歴史に干渉している可能性は否定できない。
それが証拠に、まだ13歳の俺に、父光秀は軍事機密を始め、政治的な事にまで意見を求めるようになりつつある。
ただ、未来視点から知りうる事実を俺は、断定的には言わない。
あくまで婉曲して、「某ならば、このように考えまする……」
こう答えるのみだ。
あくまで父光秀との会話の中で、未熟な若者の戯言……という体を取っている。
明敏な父にはそれで充分であるし、父の脳裏にもかすかに残る程度の刷り込みしかしていない。
意図的にそうしているのだ。




