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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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46話 それぞれの帰還

浅間山中の山小屋で、俺たちは語り合い、戦略を共有することができた。

450年先の未来から転生した者が、同じ時代で出会うことができ、同じ目的に向かって進むことができる事は、幸運な事だろうと思う。


翌日、俺たちは、それぞれの場所に帰還することになった。

源三郎たちは、甲斐へ‥‥‥孫三郎達は雑賀へ‥‥‥

そして、俺は長安と源七達を伴って、近江坂本へ‥‥‥

京姉だけは、しばらく禰津村に残り、根拠地を移転する準備に入ることになった。俺は京姉と離れるのが辛かったし、名残惜しかったが、「大願成就」のためには、やるべき事は多い。

帰路もやはり、それなりの時間が必要だろう‥‥‥



八月も終わりに近づく頃、俺たちは近江坂本に帰還した。

久方ぶりの坂本城下に、妙に懐かしさを覚えた。

源七は、例の「望月党」の移転の件があったので、すぐに甲賀に旅立った。

俺は、旅の垢を落とした後、父光秀の元に報告のため訪れたのだった。


「父上、十五郎只今戻りましてござりまする」


「うむ。暫く見ぬうちに逞しくなった気がするの……」


「はい。長い間勝手致しました。父上もお変わりありませぬか?」

俺は少し不安だった。父光秀の懊悩が顔に滲み出ていたからである。


「ハハハッ。変わりはせぬが、色々あるからの……」


「また内裏との間で……?」


「まあ、いつもの事ではあるがの……閏月の問題で……色々との……」

あちゃ~~俺の知ってる問題が勃発してたのか……

信長が、尾張暦を朝廷に押し付けている問題か……

作暦権は朝廷の数少ない権力である。そこに信長が干渉し、いざこざが起きているのだ。閏月をどこに入れるかなどは、現代人の感覚ではどうでもよい問題かもしれないが、この時代の「時間に対する権限」は重要な事なのだった……


「上様は引き下がらぬであろうな……わしも辛いところじゃ。

神祇管領殿や、近衛殿まで難儀しておる。

あまり内裏と揉めるのは得策ではないのじゃがな……」


「上様と内裏との権威争いなのですね……しかし、内裏が引き下がらねば収まらぬでしょう?後々、遺恨は残るでしょうが……」


「わしも間を取り持っておるが、こう何度も色々あってはの……

親王様方々や、近衛殿もご立腹のようじゃ」

やはり、「朝廷黒幕説」も現実味を帯びてきた気がするな……

俺はそう考えていた。


「お話は変わるのですが、父上……信濃にて人物を見つけました。

召し抱えて頂きたく思いますが、如何でござりましょうや?」


「どのような人物なのかの?」


「はい、元武田家中の者にて。出奔し諸国を見分しておったそうにございます。何やら武器の研究など、我らの見知らぬ知識を持っておらるように見受けまする」


「そうか……一度、わしに会わせよ」


「はい。明日にでも登城させまする」


「信濃では他に何かわかったのか?」


「はい。武田家の動向ですが……やはり、旧臣達と勝頼公の間に、色々軋轢があるようにござります。信玄公以来の家臣や、親族衆ではなく、側近の方々を重用されておるらしく、家中のまとまりに欠けるようにござります。また「望月党」も距離を置き、間者働きはしておらぬ由。

「高天神」も捨て殺しにされた今、武田家中は動揺しておるでしょう」


「うむ。やはりの……木曾にも調略の手が伸びておる。来年早々には軍を起こされよう……家中の結束が崩壊すれば、意外に早く決着が付きそうよな。

勝頼公も哀れ……名門武田も滅びるか……」


「はい。時代の流れは空しいもの……あの武田が、このように滅亡の道を歩むとは、誰も思わなかったでありましょうな……」


「うむ。それはそうと……の……上様が、そなたをお召じゃ……

一人で安土に登城させるよう申し遣った。心して行ってまいれ」

俺は、不安だった。また何を言われるのか怖かった。

だが、仕方がない……覚悟を決めねばならない。


「では、先程の仕官の件、お頼みいたします。

某は、安土に向かう準備を致します。不安ですが……」


「ハハハッ……そう気負いせずとも良い。

どうも上様は、其方にご執心のようじゃ。余程気に入られたのかの?」

エエエエッ……それは不味い。俺は、内心不安で堪らなかった。


「某が、上様に気に入られるような事があれば、また家中の嫉妬を招きませぬか?羽柴殿あたりに、要らぬ刺激を与えそうにござります……」


「確かにそうじゃ。じゃが、そこまで気にしていては身が持たぬ。

ありのまま振る舞えばよい」


「はい。気負いせずに、行ってまいります。では……」

そして、父光秀の元を辞して、安土に行く準備をしたのだった。



翌日、大蔵長安は光秀に謁見した。

一応それなりに身なりを整え、坂本城を訪れたのだった。


「惟任日向守である。面を上げられよ」


「某、大蔵長安と申します。縁あって十五郎様にご推挙頂きました」


「ほぅ……志のある目をしていらっしゃる。十五郎が推挙するのも頷ける。

是非、某に力を貸していただきたい」

長安は内心驚いた。何も聞かず仕官を許したからだ。


「失礼ながら、某の人物をお聞きにならないので?

某は、名もなき諸国放浪の身。敵の間者やもしれませぬ……」


「ハハハッ……某も元は浪人者。そのような事はお気に召されるな。

眼を見ればわかり申す。それに、十五郎が認めた器量にござろう?

この上は、十五郎に力を貸してやって頂きたい。

良しなに頼み入る……」

こう言って、頭を下げたのだった。


「承知致した。この上は、一命を賭してお仕え申し上げまする……」

長安は得心した。十五郎が、自分の父だから……というだけでなく、その「人物」であるから、計画を自信を持って立ち上げたのだと、理解したからである。

一介の浪人者に頭を下げる、その「器量」にも惚れたのだった。



暑い夏も、晩夏に向けて走りつつある。

近江の空には、筋雲が流れていた。

激動の時代にあっても、自然だけは美しいままだ。

長安は、その空を見上げ、改めて誓いを立てたのだった……

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