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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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45話 未来戦略

皆、言葉なく押し黙ったままだった……

誰もが、誰かの言葉を待っていた。

蝉の声だけが、周辺の空気を振動させる。

日輪は、相変わらず俺たちを照らし続け、じっとりと汗を吹き出させた。


「みんな、黙ったままやな。暑いし山小屋に入ろか?

日本地図を作って持ってきたから、見ながら今後の方策を話さんか?」

長安が口火を切った。みんな救われた気がした。


そして、山小屋に移動し、その地図を広げた。

「これは、わしが書いたもんや。未来の記憶で頭に入ってたから、各国と勢力を書き込んで色分けしてる。見ながら話したら、わかりやすいやろ?」

左近や信繁、善之助、源七達は、初めて見る「日ノ本」の形に興味津々な様子だった。ずっと首を傾げたりしながら凝視している。


「本能寺の変後の勢力を予想した場合、明智家は旧織田家の勢力に囲まれる形になるな。この計画によって、味方になる大名家を考えた場合、長宗我部、武田、雑賀が確実な勢力や。

逆に、確実に敵対するのが、羽柴、旧織田家、柴田……これで間違いないやろ。当面、最初に戦うのは秀吉になりそうやな。一番大事な場面でもある」

俺は、そう分析した。そして続ける。


「秀吉の中国大返しが、一番の問題や。畿内の動静が不確定のままで、秀吉に神速で戻ってこられたら、負ける‥‥‥歴史通りや。そこで、それを妨害する。速度と兵力を、できれば両方削ぐんや。

孫三郎には言ったと思うけど、まず長宗我部の水軍で瀬戸内を制圧して、海上から牽制してもらう。これで兵力は確実に削れるはずや。それと毛利に「信長生害」をいち早く伝える。本能寺の変の日程は、わかってる訳やから、一月くらい前から、わしが潜行して、直接使者になるつもりや……」


「若殿……そんな無茶な。無謀すぎまする」

源七が、間髪入れずに答えた。


「いや、これはわしがずっと考えてたことや。一番大事な役目や……

必ずわしが行く。直接話さなあかんのや。今後の形勢のためにな……

それに、わしが危険に晒される可能性は低いはずや。

本能寺の変が事実になった場合、天下人になる可能性のある、光秀の嫡子である「わし」に危害を加えるような器量は、毛利には無いはずや」


「うむ。十五郎の読みは、おそらく正しいやろ。首謀者の息子なんや。信憑性も高くなると思うはずや。本能寺の変の情報を聞いて、毛利にとって不利になることは何も無い。

後は、選択肢を選ぶだけの事や。しかし、毛利の事や、秀吉の背後を襲う根性は無いやろな……というよりも、領内が不安定で実行力がないはずや。秀吉との間で、有利な講和条件を引き出すことに専念するやろな……」

長安がそう分析した。


「如何に、近江~京~摂津を早く制圧するかがカギになる。

摂津では、池田恒興や。信長の乳兄妹やし、確実に敵対するやろ。

秀吉が戻るまでに、有岡城を陥とせたら上出来やけど、厳しいかな?」

俺は、希望的観測を述べた。


「十五郎、それはかなり厳しいやろな。有岡城は堅城や。

囲むことはできても、陥とすのは無理やな」

孫三郎が反論した。


「それと、わしの叔父、「津田信澄」の動向やな。

史実では、明智と同心してると疑われて、信孝に討ち取られる。

それを事前に知らせる。少なくとも殺されることはないはずや。

ただ、兵力的には信孝に勝てんから、大阪で信孝の「足止め」だけでもしてくれたら助かるけどな。信孝も兵が離散して厳しいやろうから、できるはずや」


「いや、信孝はわしに任せてくれたらエエ。雑賀で引き受ける。

まあ勝てるはずや。信孝、丹羽、蜂屋合わせても一万居らんやろ?

連携もバラバラやろうし、殲滅できるはずや」

孫三郎は、自信ありげに答えた。


「いや、俺の腹案言うとな、信孝は敢えて生かす方がエエやろ?

あのボンクラの事や。織田家中の結束乱す火種になる。

蜂屋、丹羽は討ち取って、信孝だけ逃がすほうがエエ気がするな」


「まあ、不確定要素も多いから、臨機応変が必要やろ。

十五郎?細川、筒井はどうするつもりや?」

長安が疑問を呈した。


「それが問題なんですが、事前に言うわけにもいかんし……

正直、方策はないです。ただ、畿内を制圧して一度秀吉を退けたら、靡いてくる気がします。おそらくその頃には、内裏からの権威付けもあるはずです。

特に筒井は、性格上「河内」まで進出したら軍役に応じるかと思います。

細川は名門なんで、内裏の意向が大事なはずです」


「ハハハッ、よう分析できてるやないか?十五郎さすがやの?」

長安も納得できたようだった。


「問題は近江方面です。安土までは容易でしょうが、徳川殿が……

二正面作戦仕掛けられたら、かなり厳しいです」


「徳川は、武田で引きつけるしかないでしょうね……

その為には、上杉との同盟を継続して頑張るしかないです」

源三郎が、そう述べた。


「源三郎、できるか?」


「まあ親父に、色々寝技使ってもらいます。それと武田旧臣は、勝頼公の存命がわかれば、味方になる可能性もあります」


「しかし、甲信方面は泥沼になるな。

十五郎?内裏との関係は緊密にしとくべきやな。

いざとなったら、和睦の調停にも使えるはずや。光秀は神祇管領じんぎかんれい殿とは昵懇やろ?その縁で力のある公家は取り込んでおくべきや」

長安が言った。さすがに視野が広いオッサンや。

朝廷の権威を利用する策は、さすがに気づかなかった。


「わかりました。その点は父に伝えて進めることにします。

あと、北陸方面やけど、信長生害が伝われば、越前辺りに一揆が勃発するやろうし、上杉景勝も越中に攻め入るやろと思う。柴田勝家は当面動けんと思うけど、どうやろ?」

俺は、意見を求めた。


「それは間違いないやろ、本能寺の変の時、「魚津城」を囲んでたはずや。

確か、間一髪で落城したはずや。

場合によっては、景勝にタイミングよく教えるのも手やな……

有名な「魚津の十三将」が助けられたら、感謝されるかもしれんぞ?」

また、長安が策を述べた。さすがに気が回る。


「では、これを基本戦略に据えようと思う。

あと、長安殿は、明智家に仕官してもらえますか?

わしが父に話して、自分の下に付けてもらうようにします。

色々、技術的な研究されるんですよね?」

俺は、長安に尋ねた。


「ああ、そのつもりや。これからは「殿」って呼ばなあかんな?ハハハッ!」


「あ……それは、二人の時は今まで通りでお願いします」


「了解や。色々研究したいから金出してくれよ?」


「承知しました。それと京姉はどうする?坂本の近くに来るか?

来年の二月には浅間山が噴火するし、危険やろ?」

俺は京姉に尋ねた。本音では来てほしい……


「すぐには無理やけど、他の巫女達とも話し合ってみる。

人目につかずに、医療の研究できそうな場所ある?」


「うん。近くで探してみる」


「甲賀の隠れ里は如何にござりますか?

護衛もおりますし、幾分安全かと思いまするが……」

源七が、さりげなく提案してくれた。


「おう。それがエエかもしれん。しかし、源七……

お前の頭は応じるか?」


「はい。必ずや説得して見せまする」


「よし、他に何か意見や異議はないか?」


「異議ありませぬ……」

皆、声を揃えた。源七達や善之助、真田信繁、横谷左近らも黙って頷いた。


「では、これから各々が「歴史変革」に向けて邁進しようではないか……

連絡は、明智の忍び衆に受け持ってもらう。心してくれ」


こうして、俺たちは誓いを立てたのだった。


これから、未来に向けた「歴史改変」が始まろうとしていた……







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