43話 Boys,be‥‥‥
ここは富士山の麓にある、風光明媚な場所だ。
「大蔵長安」は、此処に居を構えていた。といっても庵があるだけで、ほとんど此処で過ごすことはない。「諸国見分」のために各地を歩き回っている。
横谷左近は、俺の書状を携えて訪れたが、当然留守であった。
その庵には、見たこともない道具などが散乱していた。何かの研究らしき事をしているのであろうか?
すでに、夏の暑い盛りになっている。「間者」である左近にとっては、この手の仕事は苦手とするところだ。「ハァァ‥‥‥さすがに五度目にもなると疲れるな‥‥‥」思わず愚痴がこぼれた。
五度目の訪問も「空振り」に終わろうとしていた。
そして、諦めかけて帰路に着こうとした時、山の細道を登って来る「人物」に出会った。此処に来る人間など、目当ての人物以外にあり得ない。
「もし、「大蔵長安」殿に相違ござらぬか?
某、真田源三郎様よりの遣いにて、横谷左近と申す」
その人物は目を白黒させていたが、
「世捨て人たるこの身に、何をお求めなのか?」
そう声を絞り出した。
「わが主が申すには、「時が来た」と‥‥‥」
そして、書状を手渡したのだった。
―――― Boys, be ambitious ――――
六つの光が集いし時、いざ、歴史を変革せん
長安は、この短い書状を、しばらく眺めていた。
何度も繰り返し、眼で文字を追う‥‥‥
「長安殿、源三郎様以下、禰津村にてお待ちでございます。
某とご同道下さいますか?」
そして、暫しの沈黙が流れた……
「承知した。遠路ご足労でござった。忝い」
長安は、他には何も言わなかった。
俺は、此処「禰津村」で安穏とした時間を過ごしていた。
「待つこと」しかできないのだ。源七達も退屈なのか、薬草を摘んだり、稽古をしたりしている。時折、山小屋を出て散策をしたりもしていた。
俺にとっては、京姉が一緒にいるのが何より嬉しかったが、二人だけになれる時間はほとんどない。それが辛いなところだった。本音を言えば、京姉と愛し合いたかったが、さすがに躊躇される。
隙を見て、口づけを交わすのが関の山だ。
正に「モンモンとした」気持ちだった。そして、ふと思った。
源七達は、どうやって性欲の処理をしてるんだろうか?
そんな、呑気な事を考えていたのだった‥‥‥
すでに八月になっていた。その日、孫三郎達がやってきた。
急に賑やかになった感じだった。幸い、山小屋はそこそこの大きさがあったので、この人数でも十分だった。
「京子先輩‥‥‥会えて嬉しいです。ホンマに‥‥‥
あやめさんの事、何て言ったらいいか‥‥‥」
「巧君‥‥‥あやめは、私の妹みたいな存在やったの。血はつながってなかったけど、ホントに信頼してた。悲しいけど、あやめが、恵君や巧君たちと引き合わせてくれたんやね‥‥‥」
京姉は、少し涙ぐんでいた‥‥‥
そして、それぞれが自己紹介を兼ねて挨拶した。その後、巧が語りだした。
「恵介、純一に会ってきた。正直ビックリしたわ。
あいつ、とんでもないモノ作ってるわ。日ノ本では見た事ないような「軍船」やった。純一曰くは「無敵艦隊」らしいで。ヨーロッパの海賊船やな‥‥‥あれは」
「そうか‥‥‥あいつ、やりよったなぁ。さすがや。俺には知識ないから。わからんけど、凄いもんなんやろな‥‥‥」
「そう思う。あの船やったら、外洋航海もできるやろ。それに、火力もスゴイと思う。大筒も10門以上は搭載できるらしいわ。大筒自体、集めるのが大変みたいやけどな」
「大筒10門以上など‥‥‥そんな事が可能なのですか?」
源七が驚いた様子で尋ねた。
「まあ、ヨーロッパでは実際にあるんやから可能やろ。転生者である純一やったら、余裕ちゃうかな?あとは、大筒の量と精度やろな。ライフリングの見本渡してきたから、幾らか解決できるんとちゃうかな?」
孫三郎が、計画が順調であることを伝えたのだった。
「大久保のオッサン‥‥‥「大蔵長安」も合流することになってるんや。
あ‥‥‥それと、転生前の名前、ややこしいから、今の名前で統一しよか?
この時代の協力者も多くなってきたしな」
俺は、さりげなく提案した。
「了解~~そうしよ。しかし、弥三郎以外、揃うわけやな?
今後の方策、この機会に色々話合おやないか?」
「みんなも、色々意見まとめてくれ。俺の頭では気づかん事も多い。知恵出し合ったら、より綿密になるやろ‥‥‥頼みます」
そうして、皆が集うのを、ここ禰津村にて待つことになったのだった。
「十五郎?ちょっとだけ付き合うてくれるか?」
孫三郎が、話があるというので、例の小川のところまで来た。
「何か……あったんか?」
俺は単刀直入に聞いた。
「ああ、雑賀郷でな。俺らの計画では、本能寺の変までは歴史を変えん……いう方針やわな?けど、あまり影響のない範囲で変えたらマズイやろか?」
孫三郎は、若干遠慮がちに語った。
「いや、信二……真田源三郎信幸と話してな。すでに変えてしまうかもしれん……「大きな賭け」になるけどな。あいつは絶対に武田家を残したいらしい……」
「それ……変え過ぎやろ?肝心の本能寺の変が起こらんのちゃうんか?計画が「ワヤ」になるかもしれんぞ?」
「それが、源三郎が協力する条件や。甲州征伐の時に、武田家が滅びたと偽装する。数か月間、真田に匿ってもらうんや。その後は武田家が味方になる。もうこの選択肢しかない。
孫三郎……勝手に決めて、スマン……」
俺は、孫三郎に申し訳なかった。
「いや、かまへん……実は俺も似たような提案あるんや。
先に聞けて、ちょっと気が楽になったわ。ハハハッ」
孫三郎が笑った。
「マジか?どんな内容なんや?」
「おまえ、土橋守重は知ってるな?歴史上では、半年後に俺の親父に殺されることになるんや。雑賀衆の中では、親父と同じような頭領や。しかも、根来とも繋がってる。
実は歴史通りに、親父と対立してるんや。本人同士は友人やし、争いたくないけど、お互い頭領いう立場が邪魔して、抜き差しならんところまで来てる。
それにな……腹立つことに、秀吉が親父に「協力するから反信長派を粛正せい」って言うて来てるんや。まあ、「離間策」やな。
俺は、口惜しゅうてな……守重も、俺や善之助を小さいころから可愛がってくれた恩人や。こんなことで雑賀が分断されるのは、情けない。
この状況を逆手にとって、雑賀を一枚岩にして、本能寺の変後の「貴重な味方」にできんかな……思うてな。十五郎……どないやろ?」
「わかった。方策考えよ……武田家ほど影響はないやろし、要は、「反信長派の守重が死んだ」と思わせたらエエんやろ?やり様はある」
「おまえが賛成してくれたら、心強い。考えるわ」
「わかった。こうなると俺ら含めて、「いつ」自分の親父に「転生者」やって告白するかが問題になるな。孫三郎や、源三郎は年末には言わなあかんやろ?俺はその時期では早すぎる。
俺は、甲州征伐が終わってからにしようかと思ってるんやけどな……
その時期には、「徳川殿の安土接待」や、「朝廷からの動き」が出るはずなんや。その時期がタイミングや思てる」
俺は自分のプランを告白した。
「それがエエやろ?弥三郎もその時期やろな……丁度、四国征伐に動き出す頃合いや。元親も危機感あるやろし、バッチリやろ?」
「よし、大筋はそれでいこ。後は具体的方策や」
そうして、俺たちは話し合いを終え、山小屋に戻った
あとは、大久保のオッサン……「大蔵長安」を待つばかりになったのだ。




