38話 長宗我部水軍
夕刻近くになって、初音が戻ってきた。
初夏ではあるが、思ったよりも蒸し暑い。
「只今戻りました。弥三郎殿はすぐには会えぬそうです。
三日後に、浦戸の港でお待ちすると……」
「なるほど……やっぱ人目があるのと、水軍を見せるつもりやな」
孫三郎は、そう理解した。
「まあ、焦ってもしゃ~ない。のんびりしようやないか……
それとな……善之助には俺の素性を話した。
まだ、実感沸かんやろけど、こればっかりは信じてもらうしかない」
「いや、おまえが嘘なんか言わんとは思うから、信じるで……
やけど、裏付けが欲しいいう気持ちもある。
まあ、一両日ゆっくりしよ」
善之助は、そう言うしかなかった。
そして三日後、孫三郎たちは浦戸の港にいた。
此処は長宗我部水軍の根拠地であり、大小の軍船や商船が停泊していた。
その中で、一際大きな軍船が建造中であるようだった。
そして、港の守衛と思しき兵に来訪を告げたのだった。
事前に話が通っていたらしく、すぐに案内の者が現れた。
「雑賀からの使者、鈴木孫三郎殿ですな?」
その男は単刀直入に尋ねた。中肉中背だが、今のこの時期に、真っ黒に日焼けしていた。その出で立ちから、名のある武将と思われた。
「某、池四郎左衛門と申す。遠路ご苦労でござった。
若殿より申し遣っておりますので、ご案内仕る……」
「忝い。配下の者もお連れしてよろしいか?」
孫三郎は、さり気なく言った。
「構いませぬ。是非ご同道くだされ。然らば此方へ……」
しばらく歩くと、港の端と思しき造船所に案内された。
そこは厳重に護衛の兵が配され、ほとんど巷の人々はいない。
造船に携わる船大工達が、せわしく働くのみだ。
その中に「弥三郎」はいた。
「しばらく、二人で話してくる……」
そういって孫三郎は、弥三郎に歩み寄った。
弥三郎も阿吽の呼吸で、人の熱気の中から離れ、外へと誘った。
海風が抜ける桟橋で、二人は相対した……
空では、その海風が小さな綿雲を高速で運んでいる。
「巧さん……お久しぶりです。何と言ったらいいか……」
「確かになぁ……しかし、変わらんのぉ。純一は……
真面目に取り組んでるんやな?」
「ですね……恵先輩に会ってから、明確な目標できたし……こんな時代でも、今はすごい充実してるんっすよ。親父も理解あって、自由にさしてもらってるし」
「しかしあの船……凡そ、日ノ本では絶対あり得ん形やな?」
「難しいっすよね……現状に即したモノを求めると中途半端になってしもて……まあ全長と全幅の比率を大きくして、速度を出すことと、マストを3本にして、外洋航行にも耐えられるように考えてます。ただ、「櫂」を増やさんと、内海では役に立ちませんしね……」
「そっか~~わし、専門外やから詳しくわからんけど……」
「イメージとしては、ガレー船の良い部分を残しながら、ガレオン船の重武装も欲しいんですけどね。砲の数は限界あります。まあ、そもそも大砲自体が、数揃えるの厳しいですけどね」
さすがに弥三郎の未来の知識は凄かった。
「アカン……専門用語言われたら、ピンと来んな。
まあでも、スゴイ言うのはわかるわ」
「コレはあと二月あれば完成します。実はこの船の、一回り小型のヤツを4隻作ってるんっすよ。基本が同じやから、早いと思います。
1年後には最新鋭の5隻の艦隊ができるんっすよ。
今の日ノ本では「無敵艦隊」やと思います……」
「開いた口がふさがらんな……未来知識のチートやなぁ」
「まあ、これぐらいのハンデないと歴史変革とかできませんわぁ」
そう言って、弥三郎は笑った。
「純一、実はな……京子先輩や、他の人間も転生してるで。
間違いないわ。今、恵介が信濃におる。あいつら、会えたらエエんやけどな……」
「やっぱりそうですか……仮に6人いれば、更に力が倍増ですね。
あくまで目的を共有できればですけど……」
「そう…やなぁ……そうなって欲しいけどな。
恵介とも話したけど、大筋の計画は俺も賛成や。
俺の親父も巻き込んだろって思ってるんや……」
「俺もです。まだ親父には話してませんけどね。
時期が来たら、話します。今、俺が転生者やって告白したんは、さっきのオッサンだけですから。「池四郎左衛門頼和」……俺の叔父さんで、長宗我部水軍の頭ですわ」
「頼りになりそうな、オッサンやな。あんな船、率いる事でけたら、「海賊大将」冥利に尽きるわな……やけど、武装やな?俺の火縄銃見てみ?」
そう言って、孫三郎は背中の銃を渡した。
「ライフリングですよね?さすがや……けど、量産できませんよね?
加工技術が追い付かんし」
「そやねん。大久保のオッサンやったら、なんか解決できそうやけどな」
「ですね……まあ転生してる事祈りましょ」
「けど、ホンマ会えてよかった。あの事件まで1年やからな。
此処まで来たら、絶対成功させたいもんな。
それと、連れの二人……あいつらは、俺が転生者って知ってるで。
男の方は俺の義兄弟で、善之助や。「杉谷善住坊」の隠し子やで‥‥‥
女の方は、恵介の配下の「くノ一」で、初音いうんや」
「そうですか……数少なくても、こんな転生とか「与太話」信じる人もいるんっすね?まあ幸運な事やと思いますけど……」
「そやな……未来の人々から与えられた「使命」なんやろな……
って思うことにしてるんや。別に宗教感とかちゃうで……」
「わかります……その気持ち。そない考えたくなりますもん」
「あ、それとな‥‥‥コレ、参考にしてくれ。ライフリング施した銃身や。
艦載する、大砲や大鉄砲の性能向上に役立つかもしれんしな‥‥‥」
孫三郎は、コレを渡すのが目的の一つだったのだ。
「うぁ‥‥‥助かります。早速鉄砲鍛冶に持っていきますわ」
「おお。ただ、外部には漏らさんとってくれな。
チートの特権なくなるさかいに‥‥‥」
「もちろんっすよ。それと帰りは、四郎左衛門に雑賀港まで送らせます。
実は、他の船も色々改良加えて、性能アップしてます。
体感してみてください。ちょっと自慢ですけどね‥‥‥」
「助かるわ。そしたら、連れの二人紹介するわな」
そう言って、孫三郎は善之助と初音を呼んで紹介した。
「純一です。この世界では長宗我部弥三郎信親です。
織田信長の偏諱貰ってますが、他意はないですよ。ハハハッ」
「俺は善之助です。孫三郎の義兄弟です」
「初音です。十五郎様配下の甲賀の忍びです。お見知りおきを‥‥‥」
こう言って、短い対面が終わったのだった。
それから、風待ちをした後、孫三郎達は土佐を後にした。
関船が港を後にする。弥三郎が見送りをしてくれていた。
どういった仕組みなのかわからないが、その関船はかなりの速度だった。船首が通常と違い細長く、櫓の位置が低い気がするが‥‥‥大きな違いはないように思う。
「孫三郎殿‥‥‥某は、若殿に心底惚れておりまする。
大願成就のため、共に力を合わせましょうぞ‥‥‥」
そう言って、浅黒く日焼けした「四郎右衛門」が笑った。
「よろしく頼みます‥‥‥」そういって孫三郎も笑った。
前途は、土佐の荒海である。折からの風で帆が激しく音を立てる。
関船は速度を上げ、ひた走った。
「クソ親父に、ゴタゴタ任そう思うたけど‥‥やっぱ‥気になるな。
どうせやったら、顔出していこかな‥‥‥」
孫三郎は漠然とそんな事を考えながら、海風に体を晒した。




