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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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35話 語らい

すでに夜半である。ほとんど音は聞こえないが、囲炉裏で炭が弾ける音だけが、時折聞こえるのみだ。

そして、微かに京姉の聞きなれた、「あの時」の声……

だが、何となく「ぎこちなさ」がある。


「んっ……恵君……ちょっと待って……」


「どうしたん?」


「ん……ごめん、ちょっと痛いの。その……初めてやったし」


うあ~~~~俺、全然意識してなかった。そらそうだわな……

やっぱ自分の欲望しか考えてなかった。女心がわからない欠点だ。


「ごめん……気づかんかった」


「ええんよ。すぐ慣れると思うし。でも、さすがに今は痛い。

さっきは夢中で、あんまり痛さを感じんかったんやけど……」


そうだったんだ。前世でも京姉は俺が「初めての相手」だった。

確か22歳だったと思う。「正直珍しい……」と思った記憶がある。

俺は「初めて」ではなかったが、京姉が22歳で「初めて」だったことに、ビビった記憶があったんだ。


「ん~~じゃあ中止で。お腹も減ったし。何かある?」


「相変わらず切り替え早いなぁ……クスッ。粥くらいしかないけど」


それから、俺たちは「山菜の入った粥」をすすった。

お互いに笑い合いながら、言葉を交わすことなく……

そして、食欲が満たされた後、じっくり話すことになったのだ。


「ん……何から話したらええかな?

俺がここに来れた理由なんやけどなぁ。

実は、「あやめ」さんが亡くなった。伊賀の山中で敵の間者に襲われたんや。

でも、あやめさんは死ぬ間際に、手掛かりを残してくれた。

「望月」という言葉や」


「そう……あやめが亡くなったの……という事は「鈴木孫三郎」殿とも関りあるのよね?

ウチは色々調べてたんよ。他にも転生した人間がおるはずやって……

調べるうちに、巧君が、鈴木孫三郎なんやないかと思った。

全国を歩く巫女からの情報で、火縄銃を改造してるってっ聞いたから。

ミリタリーオタクやった、巧君かもしれんって……」


「そうや。鈴木孫三郎は「巧」や。今は一緒に行動してる。

実はな、純一も転生してる。四国の覇者「長宗我部元親」の嫡男、信親や。

京姉、俺はな……あの忌まわしい未来を変えようと思って、計画を立ててるんや。

純一や、巧と一緒にな」

京姉は、ずっと俺の話に聞き入っていた。


「そんで、俺らは考えた。絶対他の三人もこの時代に転生してるんやないかってな。そう考えるのが自然やないかって。

あやめさんが持ってた「注射器」みたいなの見てな。俺も巧も、京姉やないかって確信したんや。それで、「望月」という言葉を頼りに、ここ禰津村まで探しに来たんや」


「そうなんやね……みんな考えることは同じなんやね。

恵君の予想は当たってるよ。信二も、大久保准教授もこの時代にいてる。

でも、ウチも含めて、この時代では、滅びていく側の人間なんよ。

歴史を変えられるような可能性は、低い側の人間に転生したんよ。

信二は、「真田信幸」に転生してる。

大久保准教授は、「大久保長安」にね。

ただ、すでにウチらが知ってる歴史とは違う行動をしてるかもしれん。

信二は、何とか武田家を生かすことができんか……と考えてるし、准教授はひとり隠棲してる。

まだ徳川家に仕官してないしね」


「信二や大久保のオッサンは、転生した人間や……いうの誰かに言うてるんやろか?具体的な行動とか起こしたりもしてるんかな?」

俺は、その事が気がかりだった。「あの時」までに何かが起こる事で、すでに歴史そのものが変わることが不安だったからだ。


「信二は、真田の嫡男や。ウチら「望月党」とも繋がりがある。

ウチ、何度か会って話したことあるんよ……

信二は、すごく悩んでる。武田家が滅びるのは、歴史の必然やし、真田の嫡男でしかない信二には、それを変える力はないかもしれん……そう言うてた。

大久保准教授は、早くに出奔してるし、どう考えてるかはわからん。

でも、同じように他の転生者の可能性を考えて、成り行きを見守ってるんやと思う。

ところで、恵君はどんな方策を考えてるの?」

俺は複雑な心境だった。純一の言葉が思い起こされた。


「うん……あくまで、明智光秀の嫡男に生まれた自分の勝手な考えやから、賛否両論はあると思うんやけどな……

「本能寺の変」を成功させた後、父光秀に天下を掌握してもらおうと思ってる。変の後、秀吉や、織田家中の者との戦いに勝つ方法を練ってるんや。

俺が言うのもアレなんやけど、父光秀は心底、この国の事を考えてるとわかったんや。この4年近く見て来てな。そういう人間が国を治めたら、不幸になる可能性は低いと思ってる。

後は、俺が後を継いで、最終的には帝に「大政奉還」するつもりや。

多分、30年後とかになるやろ。「立憲君主国家」を作るんや。

そして国が落ち着いて、技術的にも発展出来たら、「アメリカ本土」に移民国家を作るのがええかな……って思ってる。「日ノ本」を宗主国にした「新国家」や。

その先はまだ未定やけど、全人類の統一国家ができるのが理想やな。

21世紀で、核兵器の災禍を免れるのは、それくらいしか思いつかん。

全人類的に、成熟した民主主義が浸透してたら、人類が滅びる可能性は低くなるんちゃうかな……って思ってるんやけどな。

これは、俺が生きてるうちには無理やろうけど、その「種」だけは蒔いておこうと思ってる。ただ、そのためには、やっぱり犠牲も出るやろ……

そこをどう割り切るかや」

俺は、一気に大筋を語った。


「そうなんや……色々考えてるんやね?

ウチはもう争い事は嫌や……今、この時代でどうやって医療技術を発展させるか……そればっかり考えてた。望月党の面々も、ウチの考えには賛成してくれて、今は間者働きより、その方面に注力してるんよ」

京姉はそう語った。


「そうやないか……って思ってた。あやめさん、注射器持ってたし。

けど、薬とか、出来てるん?」


「いや……まだ無理やわ。多少の知識あっても、技術が追いつかへん。

所謂、薬草使った「漢方学的医療」を発展させるくらい……

本来は、麻酔さえできたら、初歩的な手術やったら研修で習ったし、できそうやけど、現状は厳しいと思う。後は、ウチが知ってる知識を巫女達に教えるくらいしかできてない……」


俺たちは、お互いそんな淡い夢を語ったのだった。

そして、なぜか……また取り留めない欲望が抑えられなくなった。

思わず、唇を合わせる……俺も懲りないな……

しかし、京姉も拒否しなかった。

少しでも長く、京姉の肌に触れていたかったんだ……




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