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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
34/267

33話 信濃にて

俺は、源七等と共に信濃に向かっていた。武田の領内であり、もちろん敵国である。隠密行動を取り、道なき道や、山野も越えていた。

普段、ここまでの旅程を経験したことがない俺にとって、かなり厳しいものであった。野伏りや敵の間者に怯えたこともあれば、眠りにつくのは、ほとんど、廃墟や古寺である。おまけに悪天候にも見舞われ、当然、安全を考え遠回りもするので、一月以上を要した。


目的の「禰津村ねずむら」は浅間山の裾野、小諸城が近くにある。

ここに、望月千代女もちづきちよめが、「甲斐信濃巫女修練道場」を開き、武田信玄の諜報機関としての役割を果たしていた………

俺は、歴史的知識として、そう聞いていた。

往時は、二百人もの巫女が修行していたらしいが、転生して見たものは、違っていた。「山間の寒村」といった雰囲気である。

もちろん、巫女らしき女はいる。が、多くはない。


「もし……某は上方より参りました。

さるお方より、言伝ことづてを頼まれた者でござる。

この村の主にお取次ぎ願いたいのだが……」

俺は、ちょうど街道に出てきた若い女に声をかけた。


「あちらに修練場があります。そちらで……」

そう言うと、その女は、そそくさと立ち去ってしまった。

どうも、部外者に対する警戒心が強いようである。

仕方なく、その修練場と思しき建物に向かうことにした。

行き交う数少ない人も、俺たちを避けるような所作である。

そして、それらしい場所に着いた。


「もし………この村の主にお取次ぎ願いたい」

すると、巫女修行中といった感じの若い娘が出てきた。


「某、上方のさるお方より、言伝を頼まれ申した。

主の方に、これをお渡し願いたい」

そう言って、孫三郎から預かった木箱を渡した。

気になって、旅の途中で中身を確認したが、それは、例の「注射器のようなもの」と「あやめの遺髪」だった。孫三郎が俺の意図を読んで、気を回してくれたのだ。


暫く待たされたが、「こちらへ……」と奥へ案内された。

その部屋には、巫女頭?と思しき、中年の女がいた。


「某の友人から、その木箱と言伝を頼まれ申した。御改め頂きたい」

俺は、当たり障りなく口上を述べた。


「上方より、遠路大変でしたでしょう?

あやめは………あやめとは何か関りがおありか?」

この女、何か知っている………俺はそう感じたが、出方を見ないと、こちらの素性を明かす訳にもいかない。


「いえ、某は直接関わりはありませぬ。友人が親しき間柄だったようで」


「さようですか……いつ、あやめは亡くなったのでしょう?」


「三月程前と伺いましたが……その友人曰くは、亡くなられる前に、「望月」と言い残されたらしいのです」


「あやめが関わりある相手は、雑賀の者のはず………

貴方様も雑賀の方なのですか?」


「いえ、某は雑賀者ではござらぬ。ですが、武田家とは敵対する家の者故……」


その女は、俺の素性を知りたそうだった。当たり前だが‥‥‥


「祢津村の巫女は、今は武田の間者働きはしておりませぬ。どの家の側に立つ者ではありませぬ故、身分を明かされよ」

俺は躊躇ちゅうちょしたが、此の期に及んでは、明かすしかなかった。


「某、織田家中、明智の者にて、惟任日向守が嫡子、十五郎光慶と申す。この者らは、我が配下の忍びにござる」


「何と……そのような身分の方が何故、間者働きなどなさるのですか?」

女は驚いた様子だった。


「はい。実は、ここに参ったのは、武田への備えと言う訳ではござりませぬ。我が父、惟任日向守も預かり知らね事。実は、人を探しておりまする」

俺は、正直に打ち明けた。この女が、何か知っていると感じたからだった。


「お探しの方は、この村の主、「望月千代女」にござりましょう?」


「亡くなられたのでは?」


「ご自身で確かめられたら、如何でございますか?

主は今は、この村には居りませぬ」


何方いずこにおいでなのです?」


「浅間山中におりまする。そこに薬草を集め、薬を作る為の山小屋がございます。そこで、単身で薬草取りをしておられます」


「すぐにお会いしたく思いますが……」


「案内の者を付けますが、山中には、貴方様お一人でお願い致します」


「承知致しました。お心遣い忝く‥‥‥」


そして、俺たちは、案内の女とともに、浅間山中に向かった。

若葉薫る季節である。空も風も、全てが清らかで、心が洗われるようであった。









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