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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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2話 日ノ本の破滅

物語は近未来に跳びます。タイムリーな話題でけっこう書いてて恐かったり。

 2027年6月2日。

朝の気怠さは本当に嫌気がさすなぁ?

俺は、めんどくさそうに半身を起こした。まだ頭の中がぼーっとしている。

今何時だ?……11時半かよ……そら眠いわな。

モラトリアム中の怠惰な大学生にとって、昼前は一般人の朝6時のような感覚だ。

横にも同じように裸体が横たわっている。こちらは、物臭な大学生ではない。

色白な肌に細い四肢、艶やかな肌に少し茶色に染めた髪。

怠け者の大学生には勿体ないような女性だ。


「京姉?……まだ寝てるか?俺もまだ起きれんわ」


「うぅん……眠いけど眠気覚ましに……いっとく???」


「何を……?って、おいおい」


京子が、おもむろに抱きついてきた。仕方ないなぁ……


 京子……俺の彼女。というより許嫁いいなずけだ。

現代において許嫁なんてありえないような話だが、俺は自然と納得している。

というより、本気で愛していると思う。彼女は浪速大学の6回生で25歳だ。

1年浪人して医学部に合格した才女でもある。俺とは雲泥の差だな。

俺は、『浪速大学文学部史学科』の4回生だ。

といっても成績不良につき、5回生になるのが確定してるようなもんだが。


 俺は所謂、裏口入学まがいで合格したようなもんだ……と思っている。

地方議員である父親を、大学側が忖度そんたくしたのだろうと勝手に思っているのだ。

それが証拠に成績は圧倒的に下位であり、留年しそうである。

そんな俺でも、専攻の中世~近代の歴史学だけは、『ダントツ』の成績だ。

趣味なんだから当然だな。学業以外でも、戦国歴史研究会の部長でもある。


 そんな俺の親が、勝手に許嫁的に話をまとめた相手が京子だった。

政治家である親父と、長野で総合病院の経営者である京子の父。

まあ所謂、政略結婚ってやつだ。

偶然にも、同じ大学に通ってたってのもあるんだろう。

最初は当然親父に反発し、お見合い?もブッチしてやろうかとも思ったが、「顔だけは見ておいてやろう」……そんな気になり、今に至る。

初めて見て一目惚れしちゃったわけだ。

京子も3歳年少の俺を「カワイイ?」とか思ったらしく、何かと世話を焼く姉貴みたいになってしまったわけだ。

おまけに俺に感化され、戦国歴史研究会に入部し、今では主要メンバーになっている。


そんな感じで、俺たちは朝の一戦が終わった後、インスタントラーメンと味気ない食パンをブランチにして、午後からは、研究会の「飲み会」に参加すべく出かけたのだった。




                 ◇





 場所は大阪市内にある、研究会の後輩である純一の父の所有するビルの屋上だ。

純一の実家は、けっこうでかい四国の不動産会社で、大阪市内にビルやマンションをいくつか所有しているのだ。

そこで、「初夏の暑さに負けないよう」……ってこじつけた、「バーベキュー飲み会」があるのだ。

18時過ぎたら部員もけっこう集まるんだが、数名は準備を兼ねて16時には集まった。

俺と京子、そして、純一、同じく同級の巧、そして信二、戦国歴史研究会の顧問の大久保准教授のオッサン。

純一、巧は工学部の3回生で、信二は経済学部の2回生だ。

大久保のオッサンはまだ30代半ばだが、みんなオッサンと呼んでいる。

工学部の准教授なのに、なぜか歴史オタクで、その知識レベルは俺も舌を巻くほどだ。

純一、巧は同じく歴史オタクだが、所謂ミリタリーオタクでもある。

信二は苦労人で京子の遠縁にあたる。京子の父に学費を援助してもらったが、2ヶ月足らずで株で儲けをを出し、完済してしまったという強者だ。


 というか、戦国歴史研究会って、如何にも文科系的なクラブに思いがちだが、実は乗馬に古武術、試し合戦をやったりなんかする、思い切り体育会的なクラブなのだ。

部員はもちろん戦国好きが多いのだが、みんな何某かの武道経験者で、正直かなり「ケンカ強いやつ」ばっかだ。

つい先日も、他校のアメフト部とケンカになり、警察沙汰になったばかりだ。

当然、相手に可哀想な事をした。


「恵先輩?いますか?……大方準備できたし、先に屋上でビールでも飲みません?」

純一の声がかかった。純一は俺のことを下の名前である『恵介』を略してこう呼ぶ。

因みに苗字は……『明智』である。

明治8年に平民苗字必称義務令が発布された際に、先祖がこの苗字を付けたのだ。

実家は、代々からの兵庫県の山奥の豪農だったらしいが、どうも伝わっていた伝承で、戦国武将『明智光秀』の縁者だったらしいのだ。

まあ数百年も昔のことだし、何の証拠もないのだが……


「しかし、このビル、一等地やん?おまえのオヤッサンすげえな?」


「それがですねぇ……このビル安かったらしいっすよ。マジで」


「はあ?んな訳ないやろ?建物は古いやろけど、地下鉄の駅徒歩1分やん」


「ふっふっふっふ……曰く付きのビルなんっすよ」


「え??俺そういうの苦手。パスーーー」


「何でもこのビルに入った店子は何度も夜逃げ倒産。

おまけに、何年か前には飛び降りた人もいるらしいっす。

噂では、大坂の陣で討ち死した武将の亡霊がでるとか……」


「ちょ、やめてくれーーーっ マジかい?」


「まあ、あくまで噂っすよ噂。亡霊とかいうのはね?でも、夜逃げとか飛び降りはマジらしいっす。けど親父は全く気にしてなくて、2割も相場より安けりゃ、儲けもんだって。

しかも、そんな場所はパワースポットで、お祓いさえちゃんとしとけば、逆に運気が開けるとか言ってますわ」


「どんなこじ付けだよ?」


「お、来たな恵介ーーっ おまえ成績どうなってんだ?北沢准教授が何とかしろって俺に言ってきたぞ?」

大久保のオッサンがいきなり嫌味を。まあ、このオッサンは「笑いのネタ」にしたいだけかもしれんが……


「恵君は、留年してもええのよーー ウチが食べさせてあげるんだから」

京子がすかさず、6年越しの関西弁でフォローしてくれた。


「おまえ、わかってんのか?京子ちゃんに逃げられても知らんで?」


「そうそう。その通りっすよーー 恵先輩」


「京子先輩、俺空家っすよ?恵介なんかほっといて俺に乗り換えない?」

巧がまた言いたいことを……こいつ女クセ悪いのよね。しかも俺を呼び捨て。

先輩よ?一応は。まあ年はこいつの方が何年か上なんだけどな。

巧は高校出てすぐに自衛官になり、上官とケンカして辞めたんだと……

しかし、みんなで俺をネタに盛り上がりやがって。


「しかし、アレですよね。最近の国際情勢ヤバイっすよね?

中国や北朝鮮見てたら、いい加減戦争でも起きるんじゃないかって。

正直、ビビりますわーー」

純一が話題転換した。


「戦争起きたら、俺が上官でおめーら、こき使ってやるわい」

いかにも巧らしいな。


 でも、確かにそうなのだ。

「北がアメリカ本土まで届く弾道ミサイルの開発に完全に成功したらしい」と噂になり、現に米機動部隊が日本海に展開し、にらみ合いになっているのだ。

そんな中でも繰り返し中短距離のミサイル実験を繰り返し、Jアラートも頻繁になっている現実がある。

もちろん回数が多すぎて、ここ大阪でも「またか?」みたいな感じで普段と同じように生活はできているが、妙に最近きな臭いのだ。

ミサイル防衛網も拡充されたらしいが、不十分との政府談話の発表があったとこだしな。


「まあ何にせよ俺らは無力な学生やんな?徴兵制度とかできたりして。

戦国時代なんか15歳から戦場に駆り出されたんですよね?恵先輩?」

今度は、純一が口を開いた。


「まあ、国にもよるやろけど、15歳から、ひどい時は60歳の『爺さん』まで、戦場に出とったらしいなぁ」


「ホント最悪っすよねーー」


そんな会話で盛り上がっていると時、スマートフォンがけたたましく鳴り響いた。

しかも6個全部。『Jアラート』だ。

「またかよーーーっ」俺はおもむろに、スマホのTVをつける。


「臨時のニュースをお伝えします。先程17時37分、北朝鮮より飛翔体が発射された模様です。詳細は不明です」

オイオイーーーーーーっ


「続報です。北朝鮮から発射された飛翔体は複数の模様です」

エェーーーーーッ。何発も同時の発射実験とか、ウッゼェーーー。


「続報です。防衛省によりますと、発射軌道から複数の弾道ミサイルの可能性があるとの情報がありました」


「発射された飛翔体は10発以上。着弾予想地点は現在不明です」


巧がニュースを見て言う。

「やばくないっすか?10発とか……戦争?」


数分の時間が経過したかもしれない。みんなスマホのTV画面を凝視していた。


「続報です。北朝鮮からの飛翔体は弾道ミサイルと判明。15発の模様。

着弾予想地点は、大阪、名古屋、横須賀、佐世保、沖縄そして東京です。

至急避難してください」


エエエエーーーッ ちょと……どうしたらええのん?避難てどこにーー??


「みんな今更避難なんて一緒やろ?通常弾頭やったらどこに落ちるか運やし、核弾頭やったらどこに逃げても無駄無駄」

大久保のオッサンがあきれた顔で言う。


「恵君?一緒ならええよね?生まれ変わっても一緒やったら……」

京子は、落ち着いた様子で俺に語り掛けた。


「そうやなぁ……生まれ変わっても……」


俺は6月の晴れた夕方の空を見た。遠景には太閤秀吉が築城したという『大阪城』が見える。尤も、鉄筋コンクリートで出来ているが……


そして……何もかもが眩い閃光に支配された。




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