表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
29/267

28話 闇の眼

俺は、父光秀の元を辞すると、早速京に向けて坂本を後にした。

孫三郎と源七の配下等は、先に京周辺に向かっている。

源七だけは、別行動を取り、伊賀甲賀方面に向かった。

秀吉の間者の情報を調べる事と、もう一つ、俺が調査を依頼した事もあったためだ。

俺は、護衛として付き添いを命じられた、弥一とともに、京への道を急いだ。

弥一は疾風とともに、源七配下の忍びの中では「小頭」にあたり、源七からの信任も厚く、そろそろ指揮を任されつつあった。

だが、よく考えれば、源七と離れて行動するのも初めてである。


「若殿、某も頭のように、必ずや大願成就のために粉骨致しまする」

弥一が馬を駆りながら、俺に語り掛けてきた。


「うむ、頼み入るぞ。源七もそろそろ指揮を任せられると言っておった」


「いえ、某などは、まだまだにござる。頭のようには、とても‥‥‥」


「弥一は、年はいくつなのじゃ?」


「はい、確か十八か十九にござります」

そうか‥‥‥この世界の俺より5歳も上なんだな。

まあ、俺は実際には22歳+3歳だから、25歳だけどな。

しかし、弥一はじめ配下の者らは、自分の年齢が大凡でしかわかっていない。

弥一も、源七と同じ孤児である。戦乱の中で親に捨てられた。

あるいは山賊や野伏に襲われ、親を失ったか‥‥‥

そういった、不幸な身の上の者たちだ。

源七や、源三らの属する忍びの集団の頭領は、こうした孤児らを集め、忍びの者として、育てているのだ。俺は、そのような世の中を一刻も早く変えたい‥‥‥

話していて、そのような事を思い浮かべた。

そして一旦、孫三郎らと合流したのだった。


その場所は、京の町の外れにある。

度重なる戦乱によって、廃墟となっている古寺であった。


「若殿、どうも何者かに遠巻きですが、監視されておるやも‥‥‥と」

疾風が、冷静だが、若干不安そうに言葉を発した。


「そうかもしれんのぉ。俺や初音も付けられとったかもな?

大方察しは付くが、秀吉の間者やろ」


「やはりそうか。我らと、その「善之助」の双方を見張ってるのかもな」


「はい。今後どのように処しましょうか?」


「動きにくいかもしれぬが、善之助を探すしかあるまい。

今の時点では、表立って襲われるような事もなかろう。

大事になるのは、敵の側も望まぬはずじゃ。」


「まあ、考えてもしゃ~ない。

念のために何人かで組に別れて、動くことにしようやないか?」

孫三郎が提案した。


「では、孫三郎、初音、疾風は一緒に頼む。

わしと、弥一、琴音で、二組に別れよう」


「承知‥‥‥」


「しかし、町中から探すしかないやろ。俺は下京にいく。

勝手わかっとるし、あいつが立ち寄りそうな店もあるからのぅ。

十五郎は上京探してくれるか?まあ単純やけど。

細々考えてもしゃ~ない。適当や」

孫三郎らしいな‥‥‥如何にも。


「わかった。「馬揃え」まではもう十日もない。

もし、陰謀の目的が予想どおりなら、必ず京に現れるはずや。

苦労かけるが、皆も頼む。孫三郎も頼んだで」



その頃、京の都から遠く離れた「姫路」では、羽柴秀吉と黒田官兵衛、そして見知らぬ男が謀議を重ねていた。


「で、官兵衛、かの者はうまく役目を果たしそうかの?」


「三左、どうなのじゃ?殿に包み隠さず申せ」


「はっ。かの者は、その筋では知られた賞金稼ぎ。

公家の一人くらい狙うのは、造作も無き事かと。

が、少し気がかりな動きもござりますれば‥‥‥」


「如何なることか?」官兵衛が問い質した。


「はい。例の明智の小倅が、またぞろ動き出してござる。

それに雑賀の小倅まで。何やら我らの動きを察知したやもしれませぬ。

我が手の者に監視させておりますが、京に入ったよし」


「なんじゃと~~?ま~たあの小倅か?ほんに目障りなヤツじゃ。

官兵衛、どうしたものか?」


「はっ。未だ事が実行された訳ではござりませぬ。

先に露見するような場合は、証拠そのものを消し去るべきかと‥‥‥」


「三左よ?かの者は今どこにおるのじゃ?」


「はい、未だ京の町中にはおりませぬ。

何やら、近郊の山中にて、鉄砲の試し撃ちばかりしておるそうで。

必ず約束を守るのが、賞金稼ぎの掟。

違えるような事は無きものかと思いまするが、変わり者にて。」


「三左、万一、明智の小倅どもと関わりを持てば‥‥‥

即刻始末せい。小倅どももまとめて、幽冥界に送るのじゃ」

秀吉が、本性をむき出しにして命じた。


「殿、それはいささか危険が大きくはござりませぬか?」


「いや、後の障害になるものならば、この際に片付けよ。

影働きなどしておる者ならば、光秀とて、表に出せまい。

よいな?必ず一人残らず始末せい」


「ははっ。ですが、その者ら、意外に手ごわき者ども。

わが手の者だけでは、手に負えませぬ」

三左は「忍び」だけに現実的に意見を述べた。


「うむ・・ならば、官兵衛どうすればよいかの?」


「殿、ここは万一を考え、見送られるべきでは?

即刻、かの者を始末すれば、事なきを得ましょう」


「うむ。致し方ないかの‥‥‥よきに計らえ」


「三左よ。仕損じるでないぞ。必ず始末いたすのじゃ。よいな?」

三左は、言葉を発することなく、頷いた。



そのような密議をされているとは、俺は知らなかった。

当てがある訳もなく、上京の町を探し回っていたのだ。

そして、何の手がかりも無いまま、いたずらに時間だけが過ぎていった。

もう「馬揃え」までには三日しかない。




















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ