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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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25話 一夜の想い

堺の町は、相変わらず喧騒に包まれている。

雑賀孫一との話を終えた孫三郎は、急いで旅支度をしていた。

「嫌な予感だ。」生来の危険を察知するアンテナが反応していた。

そんな孫三郎の顔を、初音は心配そうに見やった。


「孫様‥‥‥って呼んでも?その‥‥‥何かあったのですか?」

「くノ一」とは思えぬほど、初音は「女」になっていたかもしれない。


「あぁ。大ありや。まっずい事んなったわ~。

急いで坂本に行って、恵介‥‥‥いや、十五郎に会わなあかん。

初音には、道すがらに全部話すから、すぐ準備してくれんか?」

強気の孫三郎にも、焦りが見え隠れしていた。


「はい。一時ですが、「夢」を見させてもらいました。

この上は、また「くノ一」に戻り、働きたく思います」

初音は、まだ艶やかな姿であったが、すでに頭は切り替えている。

孫三郎は、すぐに馬を手配し、早々に堺の町を後にした。

そして、一気に京まで、駆け抜けた。

そこで一泊し、翌日の昼には、坂本に着く手筈であった。


「どや?この宿は?俺が京で何度か泊ったことあるんや。

あんまり目についてもあかんし、悪いけど、同じ部屋やで。

「旅の夫婦」ちゅう体の方が、目立たんでええからな」


「はい。その事はお気遣いなく‥‥‥ゆっくり休めるだけでも。

時には、木の上や、土の中で眠ることもありますから‥‥‥」


「へぇ~~ほんまか?「忍び」っちゅうのはすごいのぉ。

俺なんか、布団だけあっても、寂しいくらいやのになぁ」

孫三郎は、何やら意味深な事を言っている。


「ほんでや、何から話したらええかな~~。

うちのオヤジのとこには、秀吉から誘いが来とる。

中国征伐が終わったら、どっかの国やるから、今のうちに家来になれ‥‥‥

いうことや。まあ、雑賀の鉄砲衆の力が魅力なんやろなぁ~」


「やはり、これからの戦は鉄砲なのでしょうか?」


「当たり前や‥‥‥これからっちゅう訳やない。すでに鉄砲が主流や。

いち早く鉄砲の威力に気づいたんが、「信長」やで。

「伊勢長島」しかり、「設楽が原」での戦もそうや。

信長の勢いは、鉄砲に支えられとるっちゅうても、言い過ぎやない。

織田家の鉄砲いうたら、直属の「佐々」や「野々村」もやけど、恵介の親父‥‥‥「明智」が一番やろ。そやけど、やっぱり、鉄砲いうたら、雑賀と根来やろなぁ」

初音は、真剣に語る弥三郎を、頼もしそうに見つめて聞いている。


「大名家の鉄砲衆と、雑賀との違いは、扱う人間の技量や。

雑賀衆は元々、傭兵集団なんや。もちろん貿易とかもやるけど、本業は、戦での働きや。戦争するんが本業なんや。俺とかもそうやけど、物心ついた時から、遊びは鉄砲なんや。

大名家の鉄砲衆は、下級武士や百姓が鉄砲撃つ、言うなれば、「一斉制圧射撃」なんや。これでも十二分に効果あるんやけど、如何せん、命中率が低い。雑賀も基本は変わらんねんけど、命中精度が段違いや。そやから、本願寺との戦ん時は、あんだけの大軍やった信長が苦戦したんやで。

それになぁ、雑賀衆は家柄のええ、武家の戦い方と違って、狙撃をするんや。

何でもアリなんや。影から隠れて、指揮してる大将を狙うんや。

原田直政もそれで討ち取られとる」

初音が、じっと聞き入っている。


「ほんでや、雑賀衆は自主独立の勢力なんや。

戦がない時は、それぞれが出稼ぎもしよる。

腕のええ「鉄砲放ち」は、いろんなとこから仕事受けよるんや。

それを咎めだてせえへん。自由気ままに生きとるんやな。

んで、前置きが長なったけどや‥‥‥

俺の兄弟‥‥‥言うても血は繋がってないけどなぁ。

善之助いう「賞金稼ぎ」が、秀吉から仕事受けたらしいんや。

俺と同じか、ひょっとしたら俺以上の「鉄砲上手」なんや。

しかもやなぁ・・善之助は信長を狙撃した「杉谷善住坊」の息子や。

隠し子やったらしいけどな」


「何か謀がある‥‥‥という訳ですよね?」


「せや、間違いないで。今はわからん。

けどな、秀吉は織田家中では、十五郎んとこの明智と敵対勢力や。

その秀吉が依頼したっちゅうことは、絶対なんかある。

せやから、会って善後策を考えなあかんのや」


「まあ、明日も早いし、今日はもう休もやないか?」


「はい。では、おやすみなさいませ‥‥‥」


「なあ‥‥‥初音?そっち行ってもええか?」


「………」初音は答えない。


「聞こえとるんやろ?」

初音は、予想してたとはいえ、どうしていいかわからなかった。


「え?そんな………」

有無を言わさず、孫三郎が隣に寄り添ってきていた。


「何も考えんと、俺に任せたらええ」

いつの間にか、孫三郎は初音の上半身を露わにしていた。

そして、唇を合わせてきた。微かに「香」の臭いがした。

心臓がはち切れそうなほど、緊張している。

そして、唇を離すと、

「初音‥‥‥おまえはほんまに、綺麗やなぁ。

ん~~こんなん聞くんは野暮なんやけどな‥‥‥

お前、くノ一やろ?ひょっとして、未通女おぼこなんか?」

初音は、図星を言い当てられて、恥ずかしかった。

この時代の「くノ一」は男を性技によって虜にし、敵の情報を聞き出す‥‥‥などの間者働きをする者も多かったのだ。しかし、初音の場合は異なる。

男と同じように、野山を駆け、敵とも刃を交える「忍び」なのだ。


「はい。でも‥‥‥覚悟はできてます」

初音は顔を赤らめて答えた。

その美しい顔だけでなく、乳房もほのかに朱に染まっている。


「俺みたいなボンクラに、その‥‥‥「初めて」を捧げてええんか?」


「………」初音は答えられない。


「よっしゃ、わかった。俺は、今はおまえを抱かん。

なんでや言うたら、これから、俺らは何年も戦こうていかなあかんやろ。

命の取り合いも、ぎょ~さんあるはずや。

一回その甘味を知ってもうたら、絶対命が惜しなるはずなんや。

俺はなぁ、一応この若さの割には、ぎょーさん女遊びもしてきたんや。

けど、遊びなんや。そんな気持ちで、おまえを抱く訳にはいかんわ」


「ほんでな、もしやで、俺や十五郎や、みんな含めて、「歴史改変」という大願を成就させる事ができたら、その時には‥‥‥遠慮のう、おまえを抱くことにするわ。

「嫁さん」としてな。ははっ‥‥‥なんやカッコワルイな」


初音は、孫三郎の気持ちが嬉しかった。

自分の中での葛藤を理解してくれ、先回りして優しい「心遣い」をしてくれたからだった。そして、おもむろに孫三郎に抱き付いた。

孫三郎の体は、ほんとに心地よかった。


「あっ‥‥‥」孫三郎の下半身に違和感を覚え、思わず声が出てしまった。


「オェ~~それは酷やで‥‥‥男やねんから、しゃ~ないやろが。

生殺しちゅうやつや‥‥‥まあ言うた手前、我慢するけどなぁ」


初音は、「クスクス」と笑った。

そして、いつの日か孫三郎と結ばれる日が来たら‥‥‥

そんな事を思い描きながら、眠りについたのだった。













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