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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
群雄争覇 死闘
248/267

248話 謀将の系譜

 天正十一年二月二十八日、日没を迎えた各所では、一時的に戦火は止むも、暗闘が繰り広げられている。此処、高槻においても密談がなされていた。


「雑賀の孫一殿も哀れよの……じゃが、何とも清々しい死に顔じゃ。武士もののふとは斯くありたいものよ」

声の主は、宇喜多七郎兵衛忠家である。宇喜多勢の陣代として、総指揮を任されていた。主君、八郎(のちの宇喜多秀家)は幼少であり、また人質の意味合いもあり姫路にいたのだ。


「して、何事か出来致しましたか?岡山から何やら知らせでも?」

岡平内家利が問いかける。この陣幕の中には四人しかいない。意図的に他の者は遠ざけられていた。


「その事よ。岡山の又左衛門殿から急ぎの密使が来た。どうやら長宗我部の大軍が各所に上陸したらしい。今頃は諸城に攻めかかっておるやも知れぬな。国元には三千程の兵しか居らぬ」

又左衛門とは長船貞親の事で、今回は備前岡山に残っていた。


「何とした事……急ぎ取って返すべきではありませぬか?国元が蹂躙されるのを座して待つことなどできませぬぞ」

花房助兵衛職秀が間髪入れずに答える。


「左様。此処におっても詮無し」

若き猛将、戸川助七郎達安も同調する。


「それができれば苦労はせぬ。今は天下分け目の切所。我等が此処におらねばすべてが瓦解する」

忠家もありきたりに応える。


「ならば、高槻を陥落させれば宜しかろう。筑前殿も文句は言えぬはず」

職秀が強硬論を主張する。


「能うと思うか?我等は六千に満たぬ。敵には雑賀の残党もおろう。城を落とすなど絵空事ぞ……我等の役どころは高槻から敵が出られぬ様、牽制する事にある。筑前殿も左様な事は求めておらぬし、勝手に戦端を開くは軍令に背こう」


「しかし、このまま手を拱いておるのも納得できませぬぞ」

職秀と達安も同調する。


「陣代殿……仮に岡山を攻められたとして、如何程持ち堪えられようか?」

家利が問いかける。


「岡山に兵を集め籠城すれば、すぐに陥落する事はあるまいが……毛利の援軍は望むべくもなかろう。肝心なのは長宗我部の思惑よ……」


「如何な思惑と思われるか?」


「無論、明智と連動し、我等の搦手を揺さぶる意図であろうが、本気で我が宇喜多を攻め滅ぼすとは思えぬ。一万では如何にも少ない。それに海を渡り、戦線が伸びきることになる。隠された何らかの意図が見え隠れして居る気がする」


「もしや我等に踏み絵を?」

家利ははっとして問う。


「在り得ぬ事ではない」


「しかし、我等が別心できようはずもなし」


「その意図が気になるのじゃ。又左衛門殿には逐一報告を寄こすよう伝える。今は筑前殿に疑念を抱かれるのは得策ではあるまい。それに筑前殿はこの事実をすでに知って居ろう。いずれ何らかの反応があるのではないか?」


「何も我等からは言わぬと?」


「うむ……下手に動くと、その反動が怖い。何せ、姫路には八郎君がおわす」


「何とも口惜しい限りじゃ。我等、目一杯の軍令を文句ひとつ言わず遂行しておる。そこまで気がねせねばならぬのですかな?」

職秀は納得がいかないのだ。


「堪えてくれ……お家を思えば、軽率な判断は身を亡ぼす」


このような密談が高槻ではなされていた。忠家としても忸怩たる思いはあった。先代、直家が築き上げた宇喜多家が、秀吉の臣下同然に扱われるのは許せない思いはある。だが一方で、秀吉の実力を忠家は評価していた。にも増して、当主たる八郎が姫路で養育されているのである。秀吉は八郎の母の『お福』を寵愛しており、秀吉が天下に飛躍するのであれば、宇喜多の家名も上がる事は疑いない。そのような計算もあったのである。





               ◇





 大和郡山でも日没を迎え、流された数多の血は、夜の闇に覆い隠された。俺は自責の念に全身を支配されていたが、この時ばかりは沈み込んでは居られなかった。体も疲労の極みにあり、前線で戦っていた兵達を思うと指示する事も憚られた。だが、過酷とわかってはいても総大将としての務めを果たさねばならない。諸将を集め、軍議を開いた。


「皆の者にはよく働いてくれた。礼を申す……だが、時節は切迫しておる。此処、郡山から急ぎ勝龍寺に駆けつけねばならぬ。皆の忌憚ない意見を聞かせてくれ」

そう言って俺は諸将を見渡した。誰もが決意に満ちた表情をしている。


「すべてに従い申す。大殿に万一があれば一大事」

島左近清興がまず応えた。


「異議ござらぬ……」

誰もが口々に賛意を表明した。


「此度の戦いの損害状況はどうか?」


「討ち死にせし者、約三千。負傷した者も二千を数えまする」

源七が応え、諸将も嘆息する。


「なれば、動ける兵数は一万強か?」


「若殿……残りし兵は、この戦いを乗り越えた強者。すぐにご命令を……」

藤堂与右衛門高虎が答える。


「左様……我等、青母衣衆に更なる働き場を……」

京極小兵衛高次が気持ちを高ぶらせる。


「若殿……戦意の高いのは幸いと思うまするが、兵の疲労の限界は、思わぬところで起きるもの。切迫した状況はわかりまするが、三刻ほど休息を与えるべきかと」

前田慶次郎利益が異見を述べた。


「十五郎……わしもそう思うな。肉体の限界は突然やってくるもんや。交代で休息を与えて、夜中に出立したらええやろ」

孫三郎も同意した。


「では申し渡す。伝五殿と若狭守殿には、一千五百の兵で郡山に残ってもらう。大和国内を頼みたい。残りの兵で勝龍寺に向かう。三刻の間休息し、その後、怒涛の進撃をする」

俺は最終的にそう結論したのだった。


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