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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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23話 帰還

俺は、源七達とともに、坂本に帰還した。

空の色は、若干であるが、色が濃くなり、冬らしい鈍色の空から、春の到来を予想させるものに、変わりつつあった。

光秀は、せわしく安土と京の間を行き来している。

数日、骨休めをしながら帰りを待ち、俺は「事の顛末」を報告に上がった。


「父上、お役目ご苦労様です。十五郎も戻りましてござります」


「うむ、何やら、しばし見ぬ間に、逞しくなった気がするの」

父はうれしそうに言った。が、気苦労も絶えぬのであろう……

疲れと懊悩が、顔に滲み出ていた。


「はい。色々な事がわかりました。人の死を間近に見ました……」


「何か、命のやり取り……あったようじゃの?」


「はい。父上のおっしゃった通り……某の浅はかさ、力不足を目の当たりにしました。源七らがおらねば……と思う事しきり」


「で、どのような事がわかったのかの?

あまり良い知らせではないようじゃが……」


「はい。我らを付け狙っておった者ら……おそらくは羽柴殿の手の者と。

確証はありませぬが……それに、武田の間者と思わしき者とも関わりを持ちました。

すでに亡くなりましたが……」


「詳しく聞かせよ……」


俺は後ろめたさもあったが、一部の事実を伏せて、父、光秀に語った。

「はい、源七らが何者かに襲われ、配下の初音が、一時囚われましてござります。

源七が申すには、襲った者らではなく、その間に割って入って、襲撃した間者らを討ち取り、初音を攫ったと思われました。某も何か裏があるとも思い、源七らと伊賀まで出向きました。

そこで、初音と攫った者と、敵の間者らしき者らとの間で、三つ巴の戦いになりました。初音はなんとか、その間に合流できたのですが、武田の間者……おそらくは、お抱えの「歩き巫女」と思わしき者は、討ち死にしてしまいました。

その攫った者とは、戦いの後に、言葉を交わすことになりました。

かの者は雑賀の者です……」


「ほぅ……しかし、雑賀者が何故……」


「はい、どうやら陰謀めいた事が、雑賀の周辺にもあるようにございます」


「その雑賀者は……何者か?」


「はい。かの「雑賀孫市」殿が嫡子、「鈴木孫三郎」殿でございます」


「何と……」


「孫三郎殿はどうも、我らとは違った人種のようでございます。

お聞きしたところ、孫市殿も相当変わった御仁のようで……

知己を得ました。我らの敵側に立つ人間には見えませぬ」


「そうか……しかし、わが明智の嫡子である、そなたと……

雑賀の嫡子……妙な取り合わせじゃの?」


「はい。ですが、元来雑賀は、どこに味方するでもない自主独立の勢力。

もし味方に引き入れられれば、心強きもの……」


「が、しかし、一筋縄ではいかぬ者らよ……

我らも石山では、彼奴等に散々苦しめられた……わしものぉ。

上様に至っては、手傷を負われたほど……」


「はい。某もあれほどの鉄砲上手……見たことがござりませぬ」


「それに……孫三郎殿が申すには、どうも羽柴殿が、孫市殿に接近しておられるとか……おそらくは、鉄砲衆を配下にしたいとお考えでは……と」


「ふむ……あり得ることじゃの……

筑前殿は、自分の役に立つと思えば、誰でも味方にする御仁じゃ。

手段は択ばず……な」


「はい。何やら堺の今井殿も、関わりがあるようです」


「ははっ、かの御仁は……

まあ今井殿は会合衆の実力者……堺衆の利益を考えれば、誰とも近づき、うまく立ち回るであろうのぉ……咎める筋ではないが」


「何にせよ、羽柴殿は織田家中では、潜在的に我らの敵対勢力と……

思いたくはないですが、事、この期に及んでは考えざるを得ませぬ」


「まあ、心に留め置くとする。筑前殿も、そこまで表立って動きはすまいて……

上様の耳にでも入れば大事じゃ」


「はい。しかし、羽柴殿は何やら恐ろしき謀を考えておいでなのでは?」


「うむ。元はわしと同じ織田家の外様・・それに出世のためならば、他者の足を引っ張るくらいは平気でやりかねぬのぉ……心せねばならぬ」


「はい。京での馬揃え……何も無ければよいですが……」


「おぅ……そうじゃ。この月の末に決まった。わしも色々忙しいわ。

上様のご不興を買わぬためにも、穏便に乗り切らねばのぉ。

して、十五郎は、今後如何に処すつもりじゃ?」


「色々調べたいことも多ございます。東国……特に武田の動きも気になります。それと、羽柴殿と雑賀周辺の動き……体が一つでは足りませぬ」

そう言って、俺は笑った。


「あまり無理はせぬ事じゃ……何度も申すが、そなたは我が明智の嫡子」


「はい。肝に銘じます……ですが、怖いのです。じっとしては居れませぬ。

しばらく休養した後、源七等とともに動きまする」


俺は、怖かった。

すでに、未来の自分が知らない「裏の歴史」を目の当たりにしてることがだ。

だが、動かざるを得ない……自分を守るためにも……

そして敬愛する、父、光秀や同じく、この時代に転生し歴史変革を志す、純一や巧、源七等配下の者……そして、まだ会えぬが、おそらくこの時代に転生しているであろう……三人。

「あの日」まで、すでに1年半もない。

巡りくる歴史の波と、隠された歴史の波・……

大海に浮かぶ小舟のような自覚に、震えていた……



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