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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
群雄争覇 死闘
231/267

230話 戦火繚乱 参

 天正十一年二月二十七日が明けた。この日は日ノ本の各勢力にとっての運命をかけた戦いが始まるのだ。朝焼けを叢雲むらくもが装飾し微風が畿内各所を撫でつけた。

俺は大和郡山城を囲み、すでに二の丸までを占拠しているが、城方は本丸に兵力を集めており、未だ一千五百以上の戦力を保っている。武器弾薬も十分であろうと思われ、時間を焦る明智勢にとっては厄介であった。

朝焼けと共に俺は軍配を振り下ろした。この合図で数多の兵が命を散らすのである。敵味方関係なく血が流れ、日ノ本の民が苦しむのだ。そのような罪悪感はずっと消える事などない。だが、俺は決断しなければならなかった……


 朝焼けの大和盆地に喊声と怒声が響き渡る。そして鼻をつくのは煙硝と血の匂いだ。明智勢は城の四方から攻めかかった。雑賀鉄砲衆の援護を受けながら城壁や城門まで尺進し突撃する。そこへ城方からは弓鉄砲と手榴弾の反撃がある。一刻程の戦闘ですでに五百近い死人手負いが出ていた。


「申し上げます。未だ城門は破れませぬ」


「南側、城壁に取り付きましたが乗り崩す事能わず」


各方面からは注進が駆け付ける。


「源七……このままでは被害ばかりが増えよう。何とかならぬものか?」

俺は思わず問いかけた。


「策は……この期に及んではありませぬ」


「内応させることも能わぬか?」


「おそらくは……此方を信用致しますまい。申し上げにくい事ですが根切りにするしかありませぬ。覚悟を決めて下され」


俺はずっと胸の痛みを感じながら報告を受け続けるしかなかった。

そしてこの日は目ぼしい成果も無く、敵味方共に多くの血を流したに過ぎなかったのである。城方は五百以上が死傷し、明智勢はそれに倍する死人手負いを出したのだった。

その日の宵に各方面の陣大将が本陣に集まった。もう後が無く、翌日には城を何としても陥落させねばならない。俺は思案に暮れた。


「明日には乗り崩さねばならぬ。さもなくば摂津方面が危うい。最悪の場合、軍を分け、摂津に乗り入れるしかあるまい。城方が討って出る事など無かろう?」

俺はそう言うしかなかった。


「若殿……我等不甲斐なき戦ぶりにて申し訳ござりませぬ。ですが、明日は何としても本丸に討ち入れまする。敵の手榴弾は、もうほとんど残っておらぬはず。夕刻には弓鉄砲しか飛んできておりませぬ」

藤堂与右衛門がそう答える。


「やはりな……南側の戦場でも同様にて。相変わらず弓鉄砲は撃ち掛けて参りますが、反撃の頻度は落ちておりまする。明日中には必ずや城を陥としてご覧に入れる」

島左近清興も同様に申し述べた。


「では明日中に陥落能わねば、軍を分ける。郡山の囲みは左近殿にお願い致したい」

俺はそう結論した。





               ◇





 羽柴小一郎秀長は丹波亀山城を囲んでいた。出石いずしを出陣してからほとんど休みなく行軍し、疲労は激しかったが、忍び衆からの報告を受け軍議を開いていた。


「たった今報告が来た。京周辺の敵の情勢じゃが、彼奴等は我等の意図を読み取ったらしいの……内裏や新御所にも守備兵を向けておる。それに丹波口で待ち受ける事無く、京の町への侵入を阻止する構えのようじゃ。そこで当初の予定を変えようかと思うておる。兵達の疲労度合いはどうか?」

秀長は問いかけた。


「さすがに兵達は疲労しておりますな。この距離を駆け通しでございました故……ですが、小一郎殿は過酷な命を下す腹でござりましょう。我等は覚悟できておりまする」

宮部継潤が答える。各将も意図を汲み取り頷いた。


「皆……すまぬな……実は勝龍寺の日向守の元には三千ほどしかおらぬらしい。討ち取る事など能わぬであろうが、敢えて攻め寄せようかと思うておる。敵はそれがわかれば足並みは乱れよう。そこで、今宵夜討ちを仕掛ける。そして宮部殿には三千の兵で亀山を封鎖して貰いたい。わしが七千を率い、京に討ち入れると見せかけて日向守に仕掛ける。無論、二千程は京に向けようかと思う。危険は大きいが、わしに命を預けて貰えるか?」


「よくぞ申された。乾坤一擲の勝負でござる」

諸将は口々に決意を述べたのだった。此処において、秀長軍の方針は決し、宮部勢は夜襲の準備に入ったのだった。この賭けがどう出るかはわからないが、さすがに勇将羽柴小一郎の人望が与力たちを奮い立たせたことは間違いなかった。




               ◇




 そしてこの日は摂津尼崎城でも血雲が乱れ飛んだ。羽柴筑前守秀吉率いる二万余の軍勢が城の三方から一斉に攻めかけたのある。羽柴勢には手榴弾が装備されており、攻城戦の強みが増していた。城方ではまず堀を渡らせない戦略を採り、鉄砲で攻撃を断続的に行っていたが、羽柴勢の人海戦術の前に苦戦し、昼前には二の丸の外壁に取り付かれた。唯一、新しく造営された本丸だけは利三が直に督戦した甲斐があり、堀を渡らせずにいたのだ。


「申し上げます。二の丸では堀を渡られ外壁に取り付かれました。このままでは進入を許しまする。ご助勢を……」

池田知正からはそう注進が来ていた。


「すまぬが本丸も手一杯じゃ。二の丸で今少し踏ん張ってくれ。折を見て加勢する。敵の攻勢もずっとは続かぬ」

利三はそう答えていた。実際にそこまでの余裕も無かったのである。池田知正・光重兄弟は明智勢では外様の与力であり、不利な中でも戦わざるを得ないのだ。知正は史実では本能寺の変の後、秀吉の与力となっている。歴史が改変されたために、その秀吉の猛攻に曝されているのだ。


 また、秀吉が内応を唆していた伊丹忠親も二の丸の守備についていたが、今のところその気配は無く、羽柴勢と干戈を交えていた。知正と同様に、複雑な物を抱えながらもその決断はできずにいたのだ。だが、このままでは二の丸の陥落は時間の問題である。

そして夕刻が近づくとついに二の丸内には羽柴勢がなだれ込んだ。血で血を洗う肉弾戦が展開される。守備兵達は徐々に数を減らし、逆に羽柴勢の数は増えていく。

その時になってやっと親忠は決断した。


「我等伊丹勢はこれより……羽柴殿にお味方申ーーーす。羽柴殿にお味方致ーーーす。敵は池田勢じゃーーー」

親忠はそう叫んだ。味方の雑兵も何がなんだかわからず戸惑っている。


「皆の者良いかーーーーこれより池田勢に攻めかかるのじゃーーー本丸の城門を目指せーーー」

それを聞いた羽柴勢も右往左往している。形勢が変わるまでには少しの時間を要した。

突如味方から攻めかけられた池田勢は崩れだした。


「兄者ーーーー伊丹の返り忠ぞーーー早う本丸に逃げられよーーー」

池田弥右衛門光重は声高に叫ぶ。


「弥右衛門ーーー其方も退くのじゃ」


「兄者……池田の家を御頼み申ーーーす。殿仕るーー」


「おのれ……この恨み必ずや晴らさん……」

池田久左衛門知正は歯噛みしながら本丸城門へ撤退する。


二の丸での伊丹勢の寝返りは即座に斉藤利三の知るところとなった。

利三は猛将であるが、今となっては防ぐ手段はない。


「皆の者に伝えぃ。怒りに任せず、整然と本丸まで退くのじゃ。本丸の虎口は簡単には破れぬ。口惜しいが逃げ遅れた者は締め出せ」

利三は非情な命令を下した。此処において半刻を経ずして二の丸は羽柴勢の手に落ちたのだった。

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