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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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21話 絵図

俺は巧……「鈴木孫三郎重朝」と語り合っている。

世に有名な雑賀孫市は、鈴木重秀とも、あるいは息子の重朝とも言われているが、それは定かではない。

代々、雑賀一党を率いる者が世襲する通名だった……というのが歴史認識だ。


「歴史改変のビジョン……なあ……

これはあくまで、明智光秀の息子に転生した俺の一方的な考えやねんけどな。

俺は親父……「明智光秀」に天下を治めてもらいたいと思ってるんや。

私利私欲やない。この3年余りなぁ、不器用かも知れんけど、誠実に日ノ本の民の事を考えてるいうんが、ようわかったし、ほんまに愛情深い。純粋に、掛け値なしに日ノ本を統べるべき人やと思うてる」


「本能寺の変を成功させる……言う事やな?」


「そうや。雲行きも怪しいけどな……考えたら」


「けど、成功させたとして、その後どないするんや?

おまえも知ってるやろ?光秀は逆賊として、羽柴秀吉に滅ぼされる。

知っての通りや」


「そや。せやから、その後も勝ち続けて、秀吉に変わって、

天下統一を成し遂げてもらう……それしかない」


「そら、むずいやろ?周りは敵ばっかりやで~~

身内の細川や筒井まで日和見や……よう知っとるやろ?」


「味方につける……ように仕向けるつもりや」


「どないして?厳しい話やで……謀反っちゅうのは外聞悪いし、この時代、味方するもん少ないで」


「俺らが知ってる歴史の中ではな。

けど、今、わかってるだけで、「3人」……しかも未来を知ってる人間が協力できたら、ぐっと確率アップするんとちゃうか?他の3人も転生しとったら、更に倍の力や」


「せやけど、本能寺の変の後の腹案はあるんか?」


「ある……これは純一とも話しとったやけど、いざとなったら、長宗我部が味方になってくれる。

純一が居る以上は、歴史で知ってるような甘い動きはせん。

俺は親父、光秀にかわいがられとって、意見できる立場や。純一もな。

これは俺らも知ってる。元親は信親を溺愛してたっちゅう話……

これは史実通りの事や。

俺も、純一も実は転生者・・ちゅうのは親父には言うてない……まだな。

けど本能寺の変の直前に、打ち明けるつもりや。

それになぁ、純一は、隠れて小さいながらも強力な水軍を作ってる。

これは、俺らが知らん歴史の話や。

純一……信親が計画のためにやってることなんや。

あいつは、専攻が造船工学やったんやで。軍艦オタクや。

今の技術やったらきついやろけど、それでも相当工夫して、作るはずや。

巧・・おまえかて金属工学やっとたんやろ?

21世紀のもんは無理でも、今の技術レベルより遥かに優れた武器も作れるはずやんけ」


「そうか……そやなぁ。確かに理論上はわかる。

この時代のもんでは、加工技術が追い付かんけどなぁ。

これ……見てみぃ……」

巧が、背中の巨大な火縄銃を見せた。


「ボンクラなおまえには、全然わからんやろけど……

簡易やけど、「ライフリング」……施条や。

俺は腕もええけど、見たやろ?

俺が撃ち殺したさっきの間者ら……命中精度がこの程度でも段違いや」


「おまえ……すごいなぁ」


「それに3連発やで……重いのが難点やけどな」


「へ~~っ……ボンクラな俺にはわからんで、スマンのぉ」


「でや、話は逸れたけど、本能寺の変の後でのネックは秀吉や。

ぶっちゃけ、この時代になって知ったけど、あいつは、「人たらし」……ちゅうのは、ホンマやな。それに口が軽すぎや。俺が神童とか呼ばれてるとか、うちの親父の足引っ張るようなこと、信長にチンコロしよるし。

やけど、誰からも好かれとる。腰が低いしなぁ。家臣の信望も厚い。

でも、油断ならんヤツやで。

そんで、俺らが知ってる、「中国大返し」や。これが分岐点になるはずや。

歴史通りにいかんように、仕向けたるんや」


「まあ……それしかないやろなぁ。やけど、どうやって?」


「二重の罠を仕掛けるんや。1個やったら不安やしな。

ひとつは予想つくやろ?」


「純一か?」


「そや……水軍で、海から牽制さしたるんや。

内陸側の街道通られたら、強みは薄れるけど、少なくとも動きは鈍るし、戻ってきよっても、大幅に畿内に向ける兵力が削がれるはずや」


「それと、もう1個は、毛利をそそのかしたるんや……味方せ~ゆうてな。

おまえも知ってるやろけど、本能寺で信長が死んだんを、毛利への使者が捕まって、知らんかった。

そんで、早々に手打ちしてもうたんが要因やろ?俺らの知る限り……

ほんで、それを知ってる俺らが、先回りして、毛利に教えたるんや。

知っとったら、毛利は手打ちなんかせんし、下手したら秀吉を攻めるやろ?」


「場合によったら、秀吉は毛利に殺られよるかもしれんしなぁ」


「まあ、ええ考えやけど、甘いかもしれんでぇ。

純一かて、そないうまい事動けるかもわからんし、たとえ、毛利が「信長が死んだ」……って知っても、果たして、思い通りに動くか?小早川隆景って智恵モンやろ?

ひょっとしたら、秀吉と同盟を結ぶとか、あるかもしれへんでぇ。

黒田官兵衛とかも付いとんねやろ?」


「う~~ん……確かにな。やけど、これしかないと思うてる。

今の時点考え得る方策はな」


「それに……なぁ。俺らを襲った間者……あれ、織田の間者やで。

おそらくは、秀吉の息のかかったヤツ等や……」


「はぁ~~そうなんか?なんか複雑やのぉ~」


「そやな……俺がこの時代で知った、新たな事実やけど、雑賀も、実は内部でゴタゴタしとるんや。

ウチの親父が、史実じゃ、土橋のオッサンを暗殺するんやけどな。

ウチの親父は、今は信長には逆らわん方がええって考えとるけど、元々、独立意識強いからなぁ……俺らは。んで、秀吉はウチの親父に何かと近づいとる。

雑賀の戦力が魅力なんやろなぁ……鉄砲衆のな。

おまけに堺や……今井のオッサンとも何か企んでるで。

俺は、聞き分けないクソガキやからなぁ。親父とも反り悪いし、秀吉は何かあるから、あんま近づくなって、親父にも再三言うてたんや……そしたら案の定」


「秀吉……絶対なんか企んどるなぁ。

知恵モンの黒田も付いてるやろし。やけど、今井宗久……

どこにでも顔出すオッサンやのぉ~~俺も知ってるけど得体がしれん。

ウチの親父とも昵懇や。けど秀吉とも繋がっとるんやなぁ。

引き締めて、かからなあかんで……」


「けど、大まかな筋書きは、今のとこ、これ以外に妙案がないな。

「中国大返し」さえ、スピードか、兵力かどっちかだけでも妨害でけたら、勝ち目はある。ちょっとでも早う畿内~近江を制圧できたら、日和見しとる奴らは味方しよる。あとは、なんせ強さを知らしめる事や。

たとえ、逆賊とか言われても、畿内……特に京さえ押さえて、朝廷を味方に付けたら、半分勝ちや。で、忘れてたけど、もう1個あったわ。

俺の叔父さん……「津田信澄」や。俺の姉ちゃんの旦那な。

ちゅうても、俺も会ったことないし、よう知らんけど、変の後、謀反への加担を疑われて、信孝に打ち取られる。

で、これも、一足先に教えたるんや。

ウチの親父の光秀に言わせれば、中々有能らしい。

味方になれば、信孝の戦力を削ぐこともできる」


「なるほどな……うっし、わかった。

大筋では、今のとこはその選択しかないやろ。

俺も親父を巻き込んだろ……まあ難物やから、上手くいくかわからんけどな。

賑やかなんが好きなオッサンや。オモロイ……言うて乗り気になるかもしれんで。

言わんだけで、本音は、人に屈服すんのが嫌なはずなんや……」


「とにかく、俺はこれから、まだ色々探ってみる。

情報がすべてや。巧も力になってくれるか?」


「わかったけど、俺は俺のやり方でやるで……

まあ安心せえや。俺おまえのこと好きやし、あやめ殺されたし、

秀吉には……まあ決まった訳やないけど、ブチ切れとるんや」


「すまんの……頼りにさしてもらう。ほんまにこの通りや……」

俺は心から巧に感謝した。

なんだかんだ言っても、こいつは昔から、いざと言う時には、すごい頼りになるヤツやったんや。


「それと、俺は取敢えず、事の顛末をを親父に報告して、また今後の方策を考えなあかん。今、親父は内裏との間を取り持ってるんやけどなぁ。

俺らも知ってる、例の……「馬揃え」があるんや。

状況考えたら、何か謀がないとも言い切れん。おまえはどうするんや?」


「そやな~取敢えず、俺も親父に色々話してみるわ。今、堺におるはずや。

ほんまフラフラ落ち着きない、オッサンやからなぁ~。

俺、実の親子やないけど、なんや、よう似てるんや……」


「頼んだで。あぁ……それとなぁ、まだ本人には言うてないけど、配下の初音……連れていってやってくれ。初音は優秀な忍びや。

絶対に役立つはずや。浅からぬ縁もできたことやしなぁ」


「おっ、ええやん。退屈せんで済むし、別嬪やしなぁ」

俺と巧は話し合いを終えた。すでに暗くなっている。


「源七……話は終わった。わしの友人の……

「鈴木孫三郎殿」だ。縁あって、今後協力してくれる事と相成った。

以後良しなに頼む」


「よろしゅう頼む……まあ、ダチや。信じてくれてええ」

源七等は、黙って頭を下げた。


「それと、初音……今後は孫三郎殿と共に行動してくれ。

主命と思って働いて欲しい」


「は……い……承知」

初音は少し戸惑いを隠せずにいたが………


「初音、頼むぞ」

源七が言うと、吹っ切ったように頷いた。


「よし、ここしばらく、色々あったが、我らは同志を得た。

皆も今後、力を貸してほしい……頼み入る」

俺は改めて、源七たちに頭を下げた。


「承知いたしました」

源七達も、力強く言ってくれた。


これから、新たな戦いが始まろうとしていた。

そして、俺自身には、新たな「希望の光」も………




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