20話 第三の男
どれほどの時間が、経過しただろうか……
俺たちの「誓い」を照らしていた光は、すでに西に傾き、弱い日差しとなって、辺りを照らしている。
俺は、「この世界」の人間に初めて、「真実」を明かした。
そして、力強い同朋を得たことに、感動していた。
源七や、配下達の問い掛けにも、わかりやすく答えた。
なんせ、21世紀の「モノ」を説明するのに、その比喩が相当難しい。
「核兵器」など説明のしようがない。
しかし、「巧と、どう話せばいいのか……」
俺は、源七達と色々話ながら、ずっとその事が気掛りだった。
そして、巧が戻ってきたのだ。
「源七……すまぬが、二人にしてくれぬか?」
俺はそう言って、隠れ家と思しき廃屋に巧を誘った。
「無事に埋葬は済ませたんか?」
「おお、土に埋めて石を置いただけやけどな。
花も咲いてなかったしなぁ………寂しいけど。
まあ、この時代の埋葬なんてそんなもんや。
あやめは、ええ女やったで………
久々に、惚れてたんやけどなぁ。
何遍見ても、人の死っちゅのはキツイわぁ」
「そうか……何て言うたらええのか……なあ?」
「それより、おまえの配下らしい忍び等はなんて?」
「すべてを打ち明けた……もう後戻りできんけど。
何とか納得してくれた。これからも働いてくれるそうや」
「ふ~~ん。相変わらず人望だけはあるんやな………
「女心」は、わからんようやけどな……ハハッ」
「それ言うなや……って思いっきり大阪弁なっとるやん」
「それより、おまえはこの世界で何者なんや?
配下がおるんや、それなりの武家の生まれなんやろ?
どっかの「若殿様」なんやろうな?前世でもそうやったけど」
俺は、腰の短筒を取り出し、巧に見せた。
「桔梗紋………やっぱり明智の者か?さしずめ……」
「そうや、惟任日向守……明智光秀の嫡子……
十五郎光慶や。愛宕百韻の結句を読んだという……」
「なるほどな……自称先祖に転生したって訳や……
けど、強ちホンマに先祖なんちゃうか?」
「おまえは、誰に転生したんや?」
「俺か……そんな身分のもんやないでぇ」
そう言って、腰に差した短筒を差し出した。
「八咫烏………おまえ、雑賀孫市に転生したんか?」
「この火縄銃や射撃の腕を見て、想像付いたやろ?
けど、残念~~微妙に違う……
あの有名な孫市は、この世界での、俺の親父や。
俺とは反りも合わんし、喧嘩ばっかりやけどな……
俺は、「鈴木孫三郎……重朝」や。
まあ孫市でも半分正解やけどな……へへっ……
未来からの転生でも、似たような人間に転生すんやの~」
「そっか~で、なんで、こんな伊賀の山奥におるんや?
俺は、そうやな……歴史を塗り替えるべく間者働きってとこやけど……
まさかこんなとこで、巧と出会うとは思わんかったわ」
「へ~~似たようなもんやけど、俺はもっとお気楽に考えてるけどな……
どうせ戻れへんねやったら、この世界で楽しく生きんと損やろ?
それに、おまえも見たやろけど、俺はもう何人も人を殺めてるし、綺麗な生き方なんかできん。転生してからも、いっつも人の生き死にを間近で見てきたんや。
つくづく、この「戦国の世」が嫌いなんや……」
「おまえみたいに絶対歴史を塗り替えるとか……
そんな使命感みたいなもん……持たれへん。まあ性分やなぁ」
「やけど、歴史を塗り替えるとか……どない考えてるんや?
歴史を知ってても、変えてもうたら、もう違った歴史になるやんけ。
未来で知ってる知識も役に立たへんやないか?」
「問題はそこや……正直、確たる方策はない……
けど、少しでも予想ができて、確実な方法を模索するしかないわ」
「何か考えがあるんやろ?実はな……おまえに言うのもなんやけど、俺はおまえの親父……光秀を暗殺して、信長を天下人にしたろかって思うてた」
「まあ、わかるで………それも一つの方法やからなぁ」
「けど、やめた………今は白紙の状態や」
「おまえに会うたし、他の仲間も転生してる可能性かて、不確かやけど、予想できるしな」
「実はな……巧……純一が転生しとる……「長宗我部信親」としてな。
四国の覇者、長宗我部元親の嫡男や」
「ああ、知っとる……若くして、戸次川で討ち死にした信親やな?
そうか……やっぱり、あの時の他の3人絶対この時代のどこかにおるで」
そう言って、巧は何やら見たこともない竹の筒?のようなもんを取り出した。
「なんやこれ?」
「これ……あやめが持ってた道具や……使うの見てないけどな。
おまえの配下の……初音言うたか?
あの子の怪我かて、手際ように針で縫うて処置しとったわぁ」
「見とれよ……」
そう言って、巧は細い針のようなものを、竹の筒に取り付けた。
「もうわかったやろ?これは俺らが知ってる注射器みたいなもんやと思う。
もし、そうやとしたら、こんな時代にあるわけないやろ?」
俺は、感じていた……複雑だが、嬉しさがこみ上げていた。
「京子先輩がこの時代のどっかにおる。そうとしか考えられん」
「俺はだいたい予想がついとる。
あやめが死ぬ間際に言うたんや……姉上ってな……そして望月ってな」
「妹やったんか?」
「それはわからん……けど、あやめは「歩き巫女」や。
で、望月って言うたら、武田信玄のお抱えの歩き巫女で間者……
「望月党」しか考えられん……」
「京姉が……武田の間者……」
「誰かはわからん……けど、この時代に原始的とはいえ、注射器とか、そんなもん、医療技術があるとしか思えん。今の状況考えたら、京子先輩しか考えられんやろ?」
「それとな……あやめは何らかの目的があって、俺に近づいたんや。
予想やけど、京子先輩も俺らみたいな転生者を探しとって、で、その網に俺が引っ掛かった訳や……それで、あやめを差し向けた……そう考えるんが自然やろ?
さっき土堀りながら、ずっと考えとったんやけどなぁ」
「そうか………そういうことか……」
俺の中で、何本かの細い線が繋がろうとしている……
そんな感覚を覚えていた。
「で、話戻すけど、おまえ、歴史を塗り替えるて、一体どんなビジョン考えてるんや?」巧が話題を変えた。




