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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
群雄争覇 黎明
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200話 来訪者

 天正十年十月五日 俺は光秀、長安等と共に大坂、河内への巡視に出かけていた。明智政権の中核となる城と城下町を作る場所の選定が主な目的である。まずは京の町に入ってから淀川を船で下り、大坂に到着した。そして大坂城を訪れていた。大坂城といっても秀吉が建設したような近世城郭ではなく、石山本願寺跡地に櫓が建設されただけのものであり、戦乱によって荒廃している。


「父上……此処大坂城は未来の歴史では秀吉が難攻不落の城を築いておったのです。本願寺跡地を大幅に拡張し、大坂は栄えておりました」


「成程の……此処は誰が見ても栄える立地であるな。堺にも近く港で外国とも繋がっておる」


「秀吉が此処を選んだのは慧眼と申せましょうな}

長安も追従した。


「某が思うに、此処にはどちらにせよ枢要な城を築く必要はあると申せましょう」


「どちらにせよ……とは他にも考えがあるのか?」


「日ノ本の情勢を鑑みての事でございます。現在の我が政権を考えた場合、些か西に拠り過ぎているとも言えまする。それに、大坂は商都でございます。大きな城を築くよりは経済の町として発展させるという方法もございます」


「成程の……」

光秀は一言頷いた。




                ◇






 この日は大坂城内に宿泊する事となった。其処へ、長宗我部弥三郎信親からの使者が訪れた。信親が、とある人物を引き合わせたいので、内密に大坂を訪れると言うのである。そして翌日、俺たちは引見する事となったのだった。


 弥三郎は数十名の護衛の家臣と共にその人物の一団を連れて来た。皆、修験僧のような恰好を装ってはいるが、雰囲気からは武家と思われた。


「惟任右府様……お久しゅうござります。いつぞやは大変お世話になり申した」


「何と……そのような格好で気づかなかったわ……」


「此度も伊勢参りに行くつもりにござる。そしてその後は長宗我部宮内少輔様の元に滞在するつもりでござる。改めまして、畿内の平定……おめでとうござりまする。

おっ……名乗りもせず失礼致した。某、島津中書家久と申す。以前は右府殿にお世話になり申した。此度は日ノ本の今後と我が島津家の行く末を賭け、某が赴いた次第にて……」


俺は正直驚きを隠せなかった。ある意味戦国最強とも言える武将と相対していたからである。


「中書殿……これは我が家臣大蔵長安と、嫡子の十五郎にござる。お話を共に伺いたいが宜しかろうな?」


「無論の事……十五郎殿のお噂は遠く薩摩にまで聞こえておりますぞ」


「お恥ずかしい。明智十五郎光慶にございます。以後、お見知りおきを」


「で、弥三郎殿まで共に来られたは何か重要なお話とお見受けいたすが……」

光秀は本題に入るよう促した。


「詳しくは中書殿から……我が父とは会談致し、摺合わせはできておりまする」

弥三郎は横目で家久を見ながら促した。


「では申し上げまする。実は先般、羽柴筑前殿の家臣、黒田官兵衛殿が遠く薩摩までお運びになられましてな。羽柴、毛利、島津の三国で同盟し、将軍足利義昭公を立て、日ノ本の秩序を回復したいと申し出がござりました。将軍御教書を持参しての依頼にござれば、我が家としては無下に出来るはずもなく同意致した次第にござる」

家久は澱みなくそう語った。俺を含め、皆顔色が変わっていくのがわかった。


「で、此処に来られたは島津家としての思惑を孕んでの事と?」


「左様にござります。薩摩の片田舎にまで中央の情勢が絡もうとは驚いておりまするが、九州での飛躍は我が家の目指すところでもござります。ですが、我が家と致しましては手放しで羽柴殿に従う訳にも参りませぬ」


「で、長宗我部宮内少輔殿の元を訪れたは些か説明を要するのではござらぬか?」


「惟任右府様であれば言わずともおわかりになられましょう」


「島津家の役割は、宮内少輔殿を牽制することにある……という事でござるな?」


「ご明察、恐れ入りまする。その時には毛利の水軍により我等の軍勢が海を渡り、伊予に上陸致しまする」


「だが……島津家としては宮内少輔殿と構えたくはないと?」


「左様にござります。見返りとして、羽柴、毛利は我等の九州侵攻を手助けし、新しき秩序を創りし時には島津家は管領として九州を取り仕切りまする……という筋書きを官兵衛殿は語られました。ですが、今は戦国の世なれば、将軍御教書があるとて、手放しで従う訳には参りませぬ。当然、我が家としても保全せねばなりませぬ」


「成程……中書殿の御身がその担保という訳ですかな?」


「さすがは右府殿。某は宮内少輔殿に予め事の次第をお話致し、同意を取り付けておりまする。島津軍は伊予に上陸は致しますが、長宗我部家と槍を合わせる事は致しませぬ」


「で、旧縁を頼り上方まで足を延ばされたと?」


「左様にござります。失礼な申し様ながら、右府殿と斯様な形でお会いする事になるとは思いませなんだ。今や右府殿は日ノ本の統治者にならんとしておられる。日ノ本の端におる我等でもその意向を無視はできませぬ」


「某はまだ畿内を制したばかり。統治者とは片腹痛い……羽柴や織田徳川と今後も鎬を削らればならぬ」


「いずれは九州にも飛び火致しましょう?恐らくは来年の春には羽柴殿が動きまする」


「で……あろうな。島津家としては我等と構えるつもりはないと?」


「言葉で何を申しても絵空事にござる故、某の本音を申しましょう。右府殿が羽柴殿に勝利されるのであれば島津家は従いましょう」


「そうでなければ……」


「戦国の倣いとなりましょうな?その場合、某は生きておりませぬ」


「島津家としては其処までの覚悟であられるか?」


「某は妾腹にござる。我が兄にもその旨申し伝え、旅立ちましてござる」


「承知致した。中書殿の覚悟は理解致したが、九州といっても広い。大友、龍造寺と大大名がおるしの……わしは日ノ本全体を見、行く末を考えねばならぬ。願わくば御家とは戦いたくないものよ」


「我等にそのつもりはありませぬが……」


「中書殿は先程申されたではないですかな?戦国の倣いとは無情なものでござる。今の時点で何を申しても、歴史の流れには抗えぬ。当面はそうならぬ様、動くしかあるまいて……」

光秀はそう言って家久を見据えた。俺は父としての光秀の愚直さを見た気がした。


「本日はお目にかかれて良かった……」

家久もそう言って笑いかけたが、内にある激情の炎を見た気がした。



 

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