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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
群雄争覇 黎明
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190話 未来会議 弐

 天正十年八月十八日の夜も更けようとしていた。俺は会議の後、光秀と京姉とでくつろいだ時間を過ごしていた。会議の場では俺たちの婚儀の件はまだ触れずにいた。


「父上?婚儀の件、明日にでも皆に話した方が良いのでしょうか?」


「今日にでも言おうかと思うたが、わしの口から言うよりお前からの方が良かろう?そう思うて、わしは遠慮したのであるがの?前にも申したが、この婚儀は明智家と天下の行く末にとっても大事なものじゃ。きつい言い方かもしれぬが私情は捨てねばならぬぞ?それに未来での友であろう?何も堅苦しく考える必要などあるまい?細やかに宴でも開いてはどうかの?」


「十五郎様?照れておられるのですか?クスッ……私からお告げ致しましょうか?」

京姉が年上者らしく心遣いを見せた。


「い……や……某から」


「ハッハッハ……仲睦まじい事じゃ。十五郎も覚悟を決めよ」


こうして穏やかな時間を過ごしていたのである。だが、その安穏はまたしても突如破られたのである。


「源七にございます。岐阜から火急の知らせが……疾風が帰還いたしました」


「すぐに通せ……」

光秀の顔色が一瞬で変わった。




               ◇




 疾風は息を切らせながら跪いた。そして一気に語った。

「大殿、知らせが遅くなりました。岐阜城下には多数の伊賀者がおり、情報がすぐに掴めず、今になってしまいました。織田家の跡目相続の件、織田三介信雄に決まりましたが、尾張・美濃は徳川殿が治める事に……そしてお市の方が徳川殿に再嫁し、その長女、茶々殿が徳川殿の次男、於義丸殿と婚約する事と相成りました。織田家中の反対勢力は粛清され、前田玄以殿、滝川三郎兵衛殿は誅された由。そして、徳川勢一万数千が北伊勢に出陣致しました。恐らくは長島を囲む腹積もりかと……」


「疾風……ご苦労であった。暫し休め……そして相すまぬが、今一度岐阜城下の動静を探ってくれ。源七?北伊勢にも甲賀衆を向かわせよ。具に情報を集めるのじゃ。行け……」


「父上……」


「ハッハッハ……天は我等に安穏とした時間をくれぬようじゃの?時代に突き動かされておる」


「しかし……これは一大事ではありませぬか?織田徳川が名実ともに一体となれば、その名望、戦力は侮れませぬ。ましてや、地政学的に羽柴殿と挟撃されかねませぬ」


「そう……そうならぬように大きな戦略を描かねばならぬのよ。幸いにして、徳川殿もすぐには此方に仕掛けまいて……先に信濃が騒がしくなるのではないか?」


「確かにそうですが、伊勢は捨て置く訳には参りますまい」


「うむ……徳川勢の意図じゃが、恐らくは滝川殿への牽制であろう?こうなっては滝川殿は邪魔者でしかないからの……三介殿の名で恭順を迫るのであろう?その圧力のための出陣であろうな?滝川殿の出方次第よの?わしは滝川殿が唯々諾々と徳川殿の下に付くとは思えぬが……」


「では、敵の敵は味方……にできませぬか?」


「滝川殿は然程単純な御仁ではない。損得だけで信条を曲げたりはせぬよ……」


「しかし、三郎兵衛殿は滝川殿の婿でありましょう?徳川殿とは敵対するのではありますまいか?」


「敵対したからと言うて、我等と味方同士になるというのは安直にすぎるの?長島には松ヶ島から敗残兵も流れておる。六千程の戦力があろう?徳川勢で抜くのは無理じゃ。滝川殿は戦上手よ……」


「津川殿は三介殿の宿老にございましょう?六千のうち如何程がそのまま滝川殿に従いましょうや?」


「確かに津川は従わぬやもしれぬが、元の北畠家中は残るのではないかな?我等の助勢を期待する者もおるであろうしの?何方にせよ、長島に三千もおれば徳川勢は落とせぬであろうよ……兵糧攻めをする余裕など無かろう?徳川殿は長島に長居はできぬ」


「何もせず待つしかありますまいか?」


「いや……警戒だけは怠らぬ。関万鉄斎殿にも警戒するよう伝えようぞ」


「承知致しました。明日、皆の意見も聞きたく思います。良い知恵があるやもしれませぬし」


こうして、急転直下の知らせによって寛いだ夜は終わりを告げたのだった。




              ◇





 翌日には集まった転生者達に情報が伝えれた。絶妙なタイミングでの情報に一同は動揺を隠せなかったが、対応に急を要する訳ではない。ただ、今後の戦略に少なからず影響を与えることは疑いない。


「これで徳川殿の力は大幅に増しましたな?織田家との二重の婚姻により結ばれるとあっては、その力は侮れませぬ。羽柴殿と挟撃されては、如何な我が家とて対応に苦慮致しまする」

大蔵長安がそう懸念を述べた。


「何よりも銃火器の開発を急ぎませぬと……圧倒的な火力で補うしかありますまい」

さすがの孫三郎も焦りを滲ませた。


「海軍力により海上封鎖する事は能いませぬか?志摩水軍が与力した現状では可能かとも思いまするが……」

弥三郎が提案する。


「軍事力での締め付けは能うであろうが、商人達や南蛮を敵に回すのは、現状では得策ではあるまい。何より海の物流を阻害致せば、庶民に難儀をかける。人心が離れては大義を逸する事となる」

光秀がその策を打ち消した。


「此処に来る前に父と談合して参りましたが、何も我が同盟国だけで事にあたる必要はないかと……」

真田源三郎信幸が意味ありげに提案した。皆が注目する。


「他家をして織田徳川を牽制せしむる……という事かな?」


「ご明察恐れ入りまする」


「差し詰め、関東の覇者であろう?」

二度までも光秀が言い当てた。


「はい……すでの我が父が動いておりまする。それも北条だけにあらず。佐竹、里見にも接触しておりまする。北条は今、動きを潜めておりまする。氏政公が先の戦いで負傷され、軍を動かせぬのです。何より武田家として上野の領有を承認しておりますので、我が家との戦はありませぬ。今後はわかりませぬが……」


「すると、安房守殿は北条を我が陣営に引き込む腹と?」


「いえ……北条の領土的野心を利用いたしまする。関東の覇者北条はそれなりの気位がございます。失礼ながら惟任右府様の風下には立ちますまい。次に目指すは『西』でございましょう」


「だが、徳川と北条が結び付けば如何する?三河守殿ならばその程度の寝技は使うやも知れぬ」


「それ故、搦手にあたる佐竹、里見を巻き込みまする」


「成程の……安房守殿は棋面の先の先まで読まれて策を巡らせておられるのであるな?頼もしい限りじゃ」

光秀も感心した様子である。


「それともう一手。我が弟、源次郎信繁を此方に呼ぼうかと思うておりまする。源次郎は滝川殿とは浅からぬ縁がございます。伊勢にて動きがあるのであれば、必ずや力になれまする。ご一考下さりませ」


「説き伏せると申すか?」


「能うるかはわかりませぬが……無下にされることはありますまい」


「相分かった。力を借りると致そう。それとな……源次郎殿が此方に来た段階で、いつでも出陣できるよう準備せよ。総大将は十五郎が務め、青母衣衆を率いよ。十日もすれば動きがあろう?それまでは皆もゆるりと過ごす事じゃ。のう十五郎?」

光秀は俺に促すように問いかけた。


「はい。承知致しました。それと皆に報告がある……

実は……千代殿との婚儀を挙げる事と相成りました。

正式にはしばらく先になりますが、良しなに……」

俺は恥ずかしかったが、何とか言い終えた。


「十五郎?何照れてるんや?未来でも婚約者やったんやろが?」


「先輩……おめでとーーーーー」


「いやーーーめでたい。俺も嬉しいぞ?頼りない恵介も一人前になるんや」


一応にみんなが我を忘れて未来の関係に戻り祝福してくれた。


「十五郎……良かったの?わしも嬉しいぞ……」

光秀も感無量といった面持ちである。


「では当然宴会ですよねーーーっ?」

孫三郎がはしゃぎだした。


「今日は宴会と致そう。内輪だけであるが細やかに楽しもうぞ?」

光秀がそう言ってくれた。俺は照れ臭かったが、光秀の嬉しそうな顔を見て安堵した。そして京姉の顔を見た。


「恵君?末永くよろしく」


「此方こそ……」


たったそれだけの受け答えであったが、未来で生まれ変わっても一緒に……その約束が果たせることに俺は心から感謝したんだ……

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