18話 三つ巴
卯の刻あたりだろうか?日ノ出も近いかもしれない。
俺は、源七等と「その場所」から、1里と離れていない伊賀山中にいた。
山間の寒気が、しきりに身震いを起こさせる。
「頭……戻りました。「五色米」をいくつか見つけました。
おそらく、初音が目印に置いて行ったものかと。
かの方角にて……隠れ家らしきものも見えまする。
近づけませぬが……」疾風が戻り、小声で告げた。
「若殿……如何なされます?」
「うむ……このような場合、どうすればよいかの?」
「はい……まずは、周りに敵が居らぬことを確認すべきでございます。
気付かれぬように接近し、その後は、四方から囲み一気に……」
「わかった。差配は源七に任せる。頼んだぞ」
「若殿は某とともに……それと、くれぐれも……」
「パパァァ~ン」……源七が何か言いかけたが、銃声のような音に遮られた。咄嗟に、源七が俺に覆いかぶさる。
三つの影が、それぞれ三方向に跳んだ。
「若殿……走りますぞ。某とともに」
銃声は、その隠れ家と思しき方角からであった。
冷たい空気を切り裂き、銃声は未だにこだまし、耳に残っている。
少し走っただろうか……吐く息も熱を帯びてきていた。
刹那……その方角から走り寄る影が近づく。
その影を追うように、もう一つの影が……
そして、その影が「何か光るもの」を放った。空を切り裂く音。
「キィィンッ」という金属音と共に、疾風が咄嗟にその光るものを弾く。
そして……そのもう一つの影が、もんどり打って倒れた。
その背中には琴音の放った「棒手裏剣」が突き刺さっていた。
「お頭……」
初音だ。しかし、右足を少し引きずっているようだ。
「初音……大事ないか?」
「それより……向こうに……」
初音が、隠れ家らしき方角を指さした。そして、またもや銃声が三度。
「若殿~~っ」源七が言うより先に、俺はその方角に走った。
その銃声は至近距離である。そして、咄嗟に物陰に身を潜ませた。
「あやめ?……あやめ?……しっかりいたせ。あやめ……」
俺は、その男を物陰から見つめた。
「姉……上……」
「大丈夫じゃ……姉上とは誰じゃ?あやめ……」
「望……月…… 孫…孫様……」
そう言いかけて、事切れたようだった。
辺りには三つの骸と、そして、あやめを抱きかかえて座り込む男の背中が、微かな月明かりに照らされ、闇に浮かんでいた。
俺は、息を殺しながら、その男の背中を見ていた。
そして、その男が背中を向けたまま、口を開いた。
「かの女の飼い主か?もう辺りには、わしとおぬし等しかおらぬわ。
姿を見せるんだな。でないと、炙り出すぞ……
わしは、見ての通り機嫌が悪いんだ」
俺は、胸の高鳴りを覚えていた……そして素直に物陰から全身を晒した。
「巧……なのか……?そうなんだろ?」
「恵介……か?」
そして、辺りを照らしていた月明かりが、叢雲にかき消された。




