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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
畿内統一へ駆ける
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175話 柴田軍団の確執

 江北での合戦からいち早く戦線離脱した前田又左衛門利家の軍勢は、真夜中には金ヶ崎の手前まで行軍していた。そこで、まずは早馬を出したのである。金ヶ崎、手筒山の両城には金森長近、不破直光の軍勢三千がいたからである。だが、蒲生賢秀率いる軍勢三千と睨み合ったままだ。


 注進の早馬は脇目もふらず駆け抜け、手筒山城に走り込んだ。ちょうど両将が合戦の顛末を待ち続けており、軍議の場に通された。


「申し上げます。江北における合戦は、蒲生勢の援軍により我が方の総崩れ。我が殿は残兵を引き連れ、いち早く戦場を離脱し、この城の手前まで来ておりまする」


「して、柴田様はどうなされた?他の諸将は?」

金森長近が問いかけた。


「森長可様、柴田勝政様、勝豊様は討ち死に。他はわかりませぬ。ですが、明智勢も相当の損害を被っておるはず。総大将三七殿を始め、柴田様も戦場の離脱は能うものと」


「で、又左殿は我先にと逃げ果せたと?柴田様の援護もせずにか?」


「…………」

不破直光が棘のある言い方で詰め寄ったが、使者は無言で俯いたままだ。


「まあ、又左殿が健在なだけで良かった。すぐに城に入って一息入れられよ。我等が城を出て蒲生勢を牽制致す故、又左殿には整然と入城されるよう伝えられよ。其方も疲れたであろうが頼むぞ?」

年長者の長近が使者にそう伝え、帰らせた。


「兵部大輔殿?某は納得できませぬぞ。不利になったからとて、すぐに戦場から逃げるなど言語道断にござろう?」


「彦三殿も冷静になられよ。戦にはこのような事は付き物じゃ。この状況でどう対処するかで真価が問われよう。又左殿も戦況を見て、柴田様も戦場を離脱し、立て直し能うと読んだのであろう。我等の役目は柴田様とその残兵を無事越前に撤退させる事にある」


「しかし、明智はすぐにでも追討の軍を発するでありましょう?柴田様の軍勢が如何ほど残っておられるやもわかりませぬぞ?」


「ならばどうせよと言うのじゃ?戦巧者の蒲生を野放しにすればどう立ち回るかわからぬ。三千の軍勢は無視できる数ではない。柴田様の状況がわかるまでは牽制しておかねばならぬ。まず又左殿を迎えれば、蒲生とて手出しはできぬ。従ってくれぬか?」


「……致し方ござるまい」

直光も渋々同意する他なかった。




                ◇




 前田勢の使者が手筒山に到着するよりも前に、蒲生賢秀はこの情報を掴んでいた。近江に抜ける街道沿いに物見を放ち、動向を探らせていたのである。


「左兵衛大夫殿、前田勢が逃げ来るとあらば、待ち伏せして討ち取りましょうぞ?この状況であれば能いましょうぞ?物見の話では雑兵共も逃散致し、一千に満たぬとの事。我等は三千にござる」

武藤上野介友益が積極論を話した。友益は信長によって追放され不遇を囲っていたが、本能寺の変の後、武田元明と同心し、その後、元明と共に蒲生氏の与力となっていた。


「その儀は某に考えがござる」


「如何様な事でござるか?」


「上野殿も知っておると思うが、前田殿の嫡子、孫四郎殿が我が軍におる。某が思うに、槍の又左ともあろう者が真っ先に撤退したとは不自然じゃ。確かめる術はないが、戦場において孫四郎殿が我が軍におることを知ったのではあるまいか?あくまで某の勘でござるが」


「しかし、城を囲んだまま追い討ちもせぬままでは、日向守殿の心証が悪くはなりませぬか?」


「それならば……城におる金森、不破勢と一戦交えれば良かろう?」


「話が飲み込めませぬが?」


「城内でも前田殿の事は知れよう?さすれば金森、不破殿は選択を迫られる事となる。すぐに城を捨て自らも撤退するか?あるいは……」


「成程。城内の兵が逃げれば良いが、そうでなければ城内に留まったままという事はありますまい」


「そうよ。不破殿はわからぬが金森殿は老練の将じゃ。我等が前田勢を追い討つのを阻止しようとするであろう?そこで、我等は密かに手筒山の近くに伏せる。それで名分も立つのではないかの?某の勘が正しければ、前田勢に後ろから襲われる事などあるまい?我等はそこを強襲し、すぐに引き上げる。後は待つのみじゃ。我等に攻めかかってくる事などあるまいよ」


こうして蒲生勢は移動を開始した。本陣に篝火を焚いたまま、密かに手筒山至近の山林に身を潜めたのである。




               ◇




 賢秀が予想した通り、城内が慌ただしさを増し、そして金森、不破勢が出陣した。

手筒山城と蒲生勢の本陣との間に布陣し、動きがあれば即応できる体勢を整えていた。しかし、蒲生勢は二手に分かれ本陣にいるよう偽装したまま伏兵となっていたのである。

金森、不破勢が布陣したと見るや、蒲生勢は左右より攻めかかった。夜の闇の中、鬨の声が挙がり、鉄砲の音が響き渡る。その喊声は近くまで来ていた前田勢にも届いた。


「叔父上ーー!手筒山近くで合戦が始まりましたぞ。某に手勢をお貸しくだされ。蒲生勢を粉砕してご覧に入れまする」

前田慶次郎利益が利家に突き上げた。


「待て。この闇の中じゃ。状況も掴めぬ故、自重する。行軍はそのまま、物見を放つ。まずは城内に入ることを優先するのじゃ」


「何を仰せか?金森殿や不破殿は我等を迎える安全を確保すべく出陣なされたのですぞ?」


「だから言うておろう?今我等が加勢したところで戦場が混沌とするのみじゃ。金森殿等もすぐに兵を退くはずぞ?」


「それでは我等の義が立ち申さぬ。蒲生勢を挟み撃ちにできるやもしれませぬ。いや、お任せ頂ければ必ず蒲生を打ち崩してご覧に入れまする」


「兎に角許さぬ。自重するのじゃ……これは主命ぞ?」

利家は有無を言わさず慶次郎を抑え込んだ。当然慶次郎はまた不貞腐れて後方に下がってしまった。彼奴のいう事は道理じゃ……しかし蒲生と戦う訳にはいかぬ。わしの戦勘がそう言うておる。大局を見て行動せねば、家を破り兼ねぬわ……利家は自身にそう言い聞かせた。




 蒲生勢の奇襲はほんの一瞬で終わりを告げた。金森、不破勢は散々に打ち負かされ、やっと立て直したときには蒲生勢は元の本陣の位置からかなり後方に下がったところに防御陣形を敷いていた。明らかに更に攻める様子などない。そして前田勢が到着し、金森、不破勢も城内に撤退したのだった。


「又左殿は何をしておられたか?鬨の声が聞こえたであろうに……我等は貴殿らの安全を確保するために出陣したのですぞ?後ろから攻めかかれば勝てたかもしれぬ。少なくとも我等が斯様な無様な負け方はせなんだはずじゃ。臆病風に吹かれるとは、又左殿もそこまで落ちぶれたかーー!」

不破直光は開口一番に詰め寄った。


「それよりも今後の方策を話さぬか?置かれた状況から最善の選択をせねばならぬ。江北において我等は手痛い負けを負った。織田家は今後厳しい状況になろう」

利家は直光を無視し語った。


「又左殿?某はなぜ我等に加勢せなんだか聞いておる。答えられよ」

直光は更に怒気を含んで利家を睨み付けた。


「彦三殿?今此処でそのような事を話したとて詮無き事じゃ。収めてくれぬか?」

長近はそう諭した。


「いや、彦三殿の申し様は承知しておる。すまぬ事をした。だが、わしは戦場をこれ以上拡大するのを良しとしなかった。金森殿ならば上手く退くと思うた故な?これから柴田様等も此処に引き上げてくる。我等は敗軍であり、疲労も激しいのじゃ」

利家はそう答えるのみだ。


「して、又左殿は今後どう処されるのかな?」

長近が問いかける。


「兎に角、柴田様を待つしかあるまい。だが、わしは越前に撤退し本拠に戻るつもりでおる。この戦の顛末はすぐに越前にも伝わろう?またぞろ一揆勢が蜂起するのは火を見るより明らかじゃ」


「柴田様が無事であれば、この城に籠り明智勢を迎え撃てば良いではありませぬか?」

直光はすぐにそう意見した。


「彦三殿もよく考えられよ。柴田様が戻ればこの城で迎え撃つことは能うであろう。しかし、兵力は多くても六千程じゃ。しかも次々と兵も逃散する恐れもある。そして、その間に越前が一揆勢、いや悪くすれば上杉勢が攻め入ろう?我等は根無し草も同然となる」


「しかし……我等が負けを認めるのでござるか……」

直光は悔しさのあまり唇を噛みしめ、言葉を絞り出した。


「兵部大輔殿?彦三殿も聞いて下され。わしはすでに腹を決めておる。柴田様にもそう言上するつもりじゃ。例え斬られようともな?」

利家のその言葉に、両将も黙りこくった。

そして明け方、柴田勝家が敗軍を率いて到着したのである。





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