16話 忍びの掟
数日後、源七が復命した。ここは、いつも通り、城下の外れの空家である。
源七や配下の者も、さすがに憔悴し切っているようだった。
それにしても寒い……辛いな。
しかし、雪に閉ざされている訳ではなく、色の薄い、冬の晴れ空である。
「若殿、只今戻りましてござります」俺は、源七らを見廻した。
「初音は如何した?」
「はい……それが……」源七は、沈痛な面持ちである。
「何があったか、詳しく申せ」
俺の胸騒ぎは、嬉しくはないが当たったかもしれぬ。
「実は伊賀山中にて、おそらくは敵の間者に襲われましてござります。
初音は未だ行方知れずにて……」
「何と……しかし、生きておるかもしれぬのだな?」
「わかりませぬ。我ら忍びは、もしもの時は自ら命を絶ちまする」
「何があったのじゃ?詳しく聞かせよ」
「はっ、我らが落ち合う場所にしておった山中にて襲われました。
敵は数名であったかと・・それぞれが分散し、戦いましてございます。
が、しかし、何とかそれぞれが敵を討ち取り戻ったところ、初音だけが戻りませぬ。しかも、敵3人の骸を残し、初音だけが消えましてございます。
我らが戦っている間に3発ほど銃声が聞こえ、その敵の骸も寸分狂いもなく、眉間と心の臓を撃ち抜かれておりました。
状況を見るに、その敵を撃ち殺した者が初音を連れ去った……
そのように思われまする」
「何と……して、初音は本当にまだ生きておろうな?」
「確証は持てませんぬ……が、敵を討ち取った者は、考えようによっては味方やもしれませぬ。それがわからぬうちは、自ら命を絶つようなことはないものと……」
「ならば、確かめるまでじゃ。早速、伊賀に参ろうぞ」
「いや、しばらく。危のうございます……
若殿に万一の事あらば、某、大殿に申し開きができませぬ。何卒……」
「ならぬわ~先日、父上にお会いし、わし自身が影働きする旨、申し上げたばかりじゃ」
「状況が違いまする。平に……平にご翻意頂きとうございます」
源七は涙目になっている。
「おまえが居らぬ間に、父上からも色々お聞きした。
内裏との間の事や・・他にも武田との事……
悠長なことは言うておれんのじゃ。わし一人でも探らねばならぬ」
「何と……何を仰せか。若殿おひとりでなど……ありえませぬ。
若殿、忍びの者を努々侮ってはなりませぬ」
「ならば、力を貸せ。これは主命ぞ。
それに、自分の身を守る術も多少は心得ておるわ」
「何卒……」
「聞かぬと言うておろう?ついてまいれ……」
「頭……某も一命を賭して、若殿をお守りいたしまする」
疾風が言った。
「某も……私も……」弥一、琴音も続いて口を開いた。
「お前たち……何を言うのじゃ」
源七は嗜めたが、俺は聞かなかった。
そして、伊賀に向けて坂本を後にした。
俺は焦っていた。この寒い季節においても、すでにそれを感じる余裕がなくなっていた。「何かある……」あまりに不自然さを感じるのだ。
俺の知らない、「歴史の闇」に身震いしていた……




