13話 束の間の休息
俺は父のもとを辞すると、足早に居室へと歩を進めた。
が、しかし、思わぬところから声をかけられた。
「兄上、お戻りでしたか?お役目ご苦労様です」
十次郎……か?
最近、この2歳年下の弟も、日増しに成長してきている。
俺が、転生した日には、何もわからず、泣きじゃくっていた「ガキンチョ」が……
「おうっ十次郎、久方ぶりじゃのう。息災でおったか?」
「はい、相変わらずです。それより兄上、お忘れではないですよね?」
「え??土産?あ……すまぬ。堺でとんだ邪魔が入って、忘れてしもうた」
「いえいえ、そのような事ではありませぬ。兄上が出かける前に、剣術の指南をしてくれると……「必殺の剣」があるから伝授すると、約束したではありませぬか?」
「あっ……あれ……なぁ……」
俺は正直考え事が多すぎて、完全に忘れてしまっていた。
仕方がない。
「気分転換に、いっちょ相手してやるかーー」
と言いつつ、けっこうマジになる俺がいた。
十次郎は、年の割には、かなり強くなっていたが、やはり俺の敵ではないな。俺は大人げなく・・いや、大人ではないんだが、一度も勝たせてやらなかった。
十次郎は、しつこく何度も挑んできたが、わざと負けてやるような事は絶対にしない。
そして、「金ツブシ」とその返し技も伝授してやった。
二人して、汗を拭きながら涼んでいると、母が茶と、なにやら「お菓子のようなもの」を持ってきた。
「二人とも、仲の良い事……こんな日はめずらしいですね。
さあさあ、お上がりなさい」
「うわぁーーー『カステラ』やぁーーー
俺、転生する前、めっちゃ好きやったやつやーー」
俺は思わず、心で叫んでしまった。
「堺の今井殿から、頂きましたのよ……ほんに美味ですよ」
ぶっ……あのオッサンか?何の意図があって?
俺はどうも、あのオッサン、「今井宗久」が苦手な気がした。
得体の知れない、何かを直感的に感じる。
大商人などという人種に対して、転生前から『胡散臭い』という固定観念があるのだ。
俺は居室に戻ると、今度は本気で物思いに耽った。
俺が知る、歴史的な知識の整理をしなければならない。
歴史的事実と、現在起こっている事実。
それを俯瞰的に見ないと、足元を掬われるかもしれない。
昨今、つとに焦りを覚えるのだった。
『本能寺の変』については、俺もかなり調べている。
もちろん、各種の文献や、他には小説、マンガに至るまで読み漁ったと言ってもいい。がしかし、父、光秀が信長を暗殺した動機は、あまりにも意見が分かれていて答えが難しい。
もちろん、『本能寺の変』に限ったことではなく、450年も前のことなど正確には誰も知らないのだ。各種の古文献から類推するしかない。
そう考えれば、転生した俺は、間近でその経緯を観察できる立場にいるのだ。
本来なら、ワクワクするような話だが、実際には、俺自身の命や、この時代の身内や友人の未来を左右する大事件なので、悠長に構えるわけにはいかないのだが……
そして、さっき聞いた、父、光秀の言葉……
上様と内裏の関係がギクシャクしてる……という『アレ』だ。
俺が知る限りでは、本能寺の変の、『朝廷黒幕説』というやつだ。
あり得る話なんだろうな……
こればかりは今後、この時代で起こる事実を見ながら、対策を立てるしかない。
それと、一刻も早く、もし転生者が他にいるなら、探し出さなければならない。
そのような事を考えながら、俺はいつの間にか眠りに落ちていった。




