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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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11話 焦燥

 俺は、土佐より堺に向かう船内にいた。

まだ体の震えが止まらない程の感動はある。

「純一が転生していた……長宗我部弥三郎信親として……」

だが、純一の語った言葉に焦燥感を覚えてもいたのだ。


「先輩……俺も同じように、他に転生した人間が存在するという予感はありました。

そして、もしそうであれば、あの忌まわしい未来を変えるよう歴史の変革を考えるだろうと。

ですが、その方法論ですね……

仮に他の転生者がいたとして、どのような立場の人間に転生しているかです。

偶然、自分と恵先輩は同じような手段を考え得る立場にありました。

しかし、歴史の変革を為すには、逆の思考もありえるということです。

例えば、織田家や長宗我部家と敵対する側に転生していたとしたら……

他にもあります。『本能寺の変』によって信長は生涯を閉じましたが、もしそのまま生存していたら……

絶対に未来の歴史は変わるはずなんです。

極端な言い方をすれば、本能寺の変を『失敗させる』こと。

そのためには、明智光秀を暗殺してしまう。

そう考える可能性もあるということです」


 俺は、自分の浅はかさを情けなく思った。

これは元来の空気が読めない性格が災いしていたんだな……

勝手に舞い上がっていただけなんだ。それに比べて、さすがに純一は冷静に自分の置かれた立場を分析している。

言われてみれば、その通りなんだ。

戦国歴史研究会は、歴史オタクの集まりだった。

当然俺ほどではないとしても、一般人のそれとは比較にならないほど知識は豊富なんだ。

織田信長、秀吉、家康といった『三英傑の事蹟』は細かい部分まで知っているのだ。

その中でも『織田信長』の評価は最も高いのだ。

研究会でも「もし信長が生きていたら……」

何度も、そんな議論を交わしたことがあったのだった。





               ◇






 堺の町は本当に華やかである。行きかう人々の波が活気に溢れ、モザイク模様のようだ。

岡豊への往路では、ゆっくり見物するこもできなかったので、俺はこの機会に詳しく見ておきたかった。

未来の自分が知っていたイメージと比べて、どのようなものなのか……

町を見たかった訳ではなく、そこに暮らす人々がどういった人間なのか……

まったく実感がなかったのだ。よしっ、単独行動開始だ。

幸い源七が影で俺を護衛してくれているが、背が高く目立つので、さりげなく商人風を装っている。

俺の背丈は5尺3寸……この時代の平均的な感じだ。

っておれ、転生前は172センチだった……だから、見える風景はさほど変わらない。

絶対的に周りが低いからだ。


 しかし、まあ何とも賑やかだ。この町では何でも買えそうである。

歩き回り過ぎて疲れたので、少し休憩することにした。

椅子に腰を下ろすと、大きな帆船が見えた。南蛮船である。日ノ本の船と違い、大きな帆が張られ、見た目にも華やかだ。

この町には外国人も多い。だが、現代人の感覚からすると、デカいわけではない。

当たり前だが……


 茶を飲んで、ボッーーーとしていると、「失敬、失敬」といって隣に腰かけたオッサンがいた。ってか体積取り過ぎだろ?

どう見ても日本人なのにデカい……ように思える。


「武家の方ですな……堺見物ですかな?」

オッサンが話しかけてきた。いきなり唐突なヤツめ……


「如何にも。後学のためにと思いまして……」

俺は当たり障りなく答える。ってか、狭い。


「いい町でございましょう?此処では銭さえ出せば何でも買えます。

人でも鉄砲でも、はたまた大船でも……」


「はぁ……そのようですな?活気がありますし、人々の熱気を感じまする」


「しかし、お若い……いや失礼な事を申しました。ですが、失礼ついでに申し上げれば、私がこれまでにお会いしたお武家様の中で、お二人目でございますよ。

そのような澄んだ目をしていらっしゃるのは……

上様以外には存じ上げませぬなぁ……

何か大きな志をお持ちなのでございましょう?明智の若殿様?」

オッサンが薄ら笑いを浮かべている。

俺は、思わず手に持った茶を落としてしまった。


「旦那様ーーー!此方においででしたか?随分と探しましたよ……」


どうも、このオッサンの家人らしかった。

何か小声で話した後、すっと立ち上がり、オッサンが会釈した。

デケェーーー!オッサン!源七より頭一つデカいぞ……横幅も。


「また、お目にかかる日を楽しみにしておりますよ?

申し遅れましたが、私、この堺にて上様の御威光で商いをさせて頂いております。

『今井宗久』と申します。以後、お見知りおきを……」


 今井宗久……俺はこのオッサンの事を未来の歴史の中では良く知っている。

端的に言えば、抜群の嗅覚を持った天才的商人だ。

その商才を以って時の権力者と結託し、会合衆の中でも抜きんでた存在だったヤツだ。

勿論茶人としても有名で、信長の死後は台頭した秀吉の御伽衆でもあった人物だ。


 堺を後にした俺は、馬の背に揺られながら、また考え込んでしまった。

今のところ、未来に伝わっている歴史的事象は、その通りに進んでいる。

あくまで研究等により判明している部分については……だ。

しかし、未来の俺が知り得る事実と、わかっていない事実があるのだ。

現に俺がそうだ。明智十五郎は生まれた年も正確にはわかっていないし、死んだ年も本能寺の変前後と言われているが、生存説すらあるのだ。

ただ、確実に言えるのは、歴史の足跡を変える程ではないにせよ、この時代に生存している著名な人物の思考回路に少なからず影響を与えているという事だ。

父光秀、上様、その他にも……俺が『神童』などど呼ばれた事実はどこにも伝わっていない。

純一が転生した長宗我部信親にしても、『奇人』であったなどとは……


『あの日』までに……俺の知らない歴史的事件が起こる可能性も否定はできないのだ。

もし俺や純一以外に転生者がいて、歴史の変革を志向するとすれば、俺が画策している『あの日』までに、なんらかの行動を起こす可能性も大いにあり得る。

急がねばならない。場合によっては、計画を狂わそうとする者を排除する決断も必要だ。

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