10話 邂逅
俺は呆然と立ち尽くしていた。様々な思いが錯綜し、冷静ではいられなかった。
中庭には心地よい風だけが吹き、青々とした木々を揺らしていた。
どれくらいの時間が経っただろうか?
徐に弥三郎が語り掛けて来た。
「馬を用意いたしましたので、これから遠乗りにでもいきませぬか?」
俺は気付かなかったのだが、いつの間にか立派な体躯の鹿毛が二頭曳かれてきていた。
人払いされたのか、中庭からは人の気配が消えている。
そして、弥三郎が小声で話しかける。
「某が先駆けいたす。絶好の見晴らしの場所があるのですよ……明智十五郎殿……」
「エッ?……エエエエッーーー知ってたんかい?」
俺は独り言を言った。
岡豊城の郭をいくつか抜け、しばらく山の細道を駆け上がると、絶景の見える尾根筋の広場についた。いや馬二頭で手一杯の空間だな……だが土佐の荒海が遠望できる。
吹き抜ける風に、心が洗われるようだ。
「明智十五郎殿……父、元親もすでに存じ上げております」
俺は風で汗を乾かしながら、答えることなく目を細めて、土佐の海を眺めていた。
胸の高鳴りを抑えられず、顔を合わせられずにいた。
「恵……先輩……これは初めて言う台詞です。この世界で……」
弥三郎は、少し涙声になっていたようだった。
「純……一……」
俺は感情が爆発したように男泣きしてしまった。純一も同じように……
そして馬から飛び降り、思い切り純一に抱き着く。
止めようのない感動が、土佐の秋空を駆け抜けていった。
それから、俺たちは思い思いに3年前からの出来事を隠すことなく語り合った。
純一も俺と同じように他の転生者がいるのではと思い、ずっと探していたこと。
「明智の跡取りが神童だ」と噂され、ずっと間者を使い内偵していたこと。
そして同じように歴史の変革を目指し、過ごしてきたこと……
そして、今後の歴史変革を成功させるための方策……
お互いの意見を出し合い、心に刻み込んだのだった。
ただ、俺たちが一番問題と考えた事がある。
時間の経過とともに刻一刻と変わる状況をどのように共有するか……ということだ。
伝達手段のないこの時代では、スマホで気軽に話す……なんてのは無理な話だ。
大筋のストーリーを共有し、あとは相手を信じ動くしかない。
だが、どうしても伝えたい情報というのがお互いにあるはずだ。
そこで俺たちは、考えた末にやはり書状しかない……と考えた。
ただ、四国の覇者の嫡子である純一が、おいそれと敵国の人間と書状のやり取りはできない。
やはり源七たちに動いてもらうしかない。
翌日、形式だけの再度の謁見があった。
元親は、織田との同盟を事実上破棄。
ただし、お互い刃を交えることは、暗に避けることを確認した。
勿論、公の場でそのことは家臣の手前言えるものではない。
弥三郎が根回ししてくれたのだった。
そして、俺は兵部と共に土佐を後にした。
あの日までは、大幅に歴史を変革すべきではないのだ。あの日までは……




