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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
畿内統一へ駆ける
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108話 尼崎の戦い 肆

天正十年六月十日。

此処、尼崎の地では羽柴軍対明智軍の決戦が佳境を迎えていた。

大軍同士の戦闘では珍しく、大掛かりな攻防となっていたのである。


「申し上げます。羽柴小一郎様、敵右翼を突破し、本陣に攻めかかるとの事」

秀吉の元に待望の知らせが届いた。


「相分かった。小一郎に伝えよ……無理はせぬようにな」


「官兵衛……さすが我が弟じゃ。光秀も肝を冷やして居ろう?」


「はい。ですがこのままでは敵に囲まれ申す。

本隊を前に進め、敵の正面は受け止める必要がござりましょう」

官兵衛はそう意見した。


「わかっておる。本陣を前に進めよ。敵先陣は疲弊して居ろう?

本隊で引き受けようぞ」


こうして、秀吉は本陣を前に進めたのだ。

当然、明智軍先鋒の両将もそれを察知した。


「秀吉が出て来おったか?よし、我等も一矢報いようぞ。

いい様にされては殿の面目を潰すことになる」

斉藤内蔵助利三はすぐに決断した。

戦い続けて疲れてはいるが、秀吉の出馬と知ってすぐに気力を漲らせた。

それは、同じく先鋒の島左近清興も同様である。

特に左近は、順慶がまともな抵抗をせず、秀長軍の突破を許したことを知り、奮起した。主君順慶に対し意見したいことは山ほどあったが、ここは武人らしく手柄を立てることで返すしかないと判断したのだった。斉藤利三も島左近も歴戦の強者である。味方の先鋒は兵力的に秀吉の本陣に徒に突っ込んでも勝ち目のない事はわかっている。そこで、期せずして左右に分れ側面攻撃を仕掛けるよう動いたのだった。


「ほう……さすがは左近殿。わしの意図を読んだか?」

斉藤勢が左側面に回り込む動きを見て、左近は右側面に移動した。

両翼から攻撃し、殲滅されぬよう立ち回るつもりなのである。

両将ともに、現時点で秀吉を討ち取れるなどとは思っていない。

これ以上の前進を阻めば十分である。仕掛けるとすれば勝ちが見えた時……

そう思っていたのだ。




羽柴小一郎秀長は、雑賀衆により大きな損害を出しながらも光秀の本隊までたどり着こうとしていた。千人近くが討ち死にするか負傷したが、怯む事はなかった。

秀長は真っすぐに光秀の本陣だけを目指そうとしていた。しかし、それを許すような光秀ではなかったのだ。本陣付きの鉄砲衆を選りすぐり、布陣していた。また、俺は遊軍として明智忍軍数十名を率い、先制攻撃を加えようとしていたのである。勿論一撃離脱戦法である。


秀長勢は粛々と前進を重ねた。

「我こそは羽柴筑前守が舎弟、小一郎秀長なり~~っ。逆賊日向守~~いざ参る~~」

秀長はそう大音声をあげると、突撃を開始した。

明智勢からは鉄砲衆が一斉射撃で弾幕を張る。鉄砲衆を率いるのは進士作左衛門貞連と肥田帯刀であったが、その勢いを止めることはできなかった。秀長軍が犠牲を顧みず全軍突撃を敢行したからである。

そして、俺は突破してきた秀長軍に手榴弾による攻撃を仕掛けた。しかし、敵は怯むも止まらない。あくまで本陣のみに狙いを定めて突撃して行くのである。


「源七……羽柴小一郎とは、あのような猛将であったのか?」


「さて……某には分かりかねますが……」


俺の未来知識では、羽柴小一郎秀長とは、秀吉の有能な弟で、どちらかというと知将というイメージであったのだ。穏やかな性格で人望があり、もし秀長が長生きであったら天下を明け渡すことも無かったであろう……そんな感想を抱いていたのである。

だが、現実は違っていた。猪突猛進し、戦術も何もないのである。


「勢いは止まらぬな?戻って側面攻撃を仕掛ける。手榴弾はまだあるか?」


「若殿……危険です。我らは寡兵ゆえ万が一が……」


「すでに危険な状況じゃ。どこにおっても同じであろう?」


そして俺は有無を言わさず命令を下した。





光秀の本陣に鬨の声が近づいてくる。秀長軍は更に兵力を削られてはいるが、まだ二千以上の兵力で突進してきた。此処に到り、光秀の本隊との間で肉弾戦が展開されるに至ったのだ。

もちろん兵力的には圧倒しているが、秀長勢の目的は、光秀の首一つなのである。


「庄兵衛……小一郎はわしの首に狙いを絞っておるな?

軍勢に勢いと鋭さはあるが、後が続かぬであろう……

各陣大将が備えを崩さず、防御に徹するのじゃ。

さすれば相手は立ち枯れよう……」

光秀は本陣の溝尾庄兵衛重朝にそう命令し、守りを固めさせた。


秀長軍は一斉に挑み掛かってくる。各備えが中央部を錐を揉むようにこじ開けようとする。しかし、壁は厚かった。光秀の本陣も最精鋭である。容易に突破などできるはずもなく、前進が止まった。

混戦により手榴弾での攻撃は不可能であった。仕方なく白兵戦を挑む。俺の周囲でも白兵戦が展開されるようになっていた。源七はじめ、数名が俺の護衛をしているがその護衛にまで白刃が触れそうであった。


「名のある大将とお見受けいたす。いざ~~っ」

そんな声が聞こえるとともに、一人の大柄な武者が突きかかってきた。

護衛達はすぐに跳びかかったが、長柄を一気に振り回し吹っ飛ばされてしまった。

そして気合と共に俺に向けて長柄の切っ先を突きだした。

俺は太刀を抜き放ち、構えていたが、その長柄を源七が掴みへし折った。

しかし、その武者はすぐに大業物の太刀を抜き放ち挑み掛かってくる。

源七との間で一騎打ちとなっていた。

強い……強すぎる……源七と互角に渡り合っている。

俺は内心で舌を巻いていたが、その状況はすぐに終わりを告げた。

俺たちの周りが混戦模様になり、一騎打ちの状況では無くなったからだ。


「与右衛門殿……殿の周りを固めてくだされ~~っ」

その武者の元に伝令が来たようである。


「ちっ……若造……命拾いしたのう?ワッハッハッハ」

そう言ってその大兵の武者は立ち去った。



「源七……大事ないか?」


「はいっ……しかし何者でしょうか?あの男は危険ですな?」


俺は知っていた。藤堂与右衛門高虎だ……


「源七……彼奴は後々、天下に名を馳せる武将になる男じゃ。

藤堂与右衛門高虎という。味方でないのが残念じゃな?」


「さようで?しかし、危険極まりない男でございますな……」


それから、俺はまた混戦の中に身を置いた。直接切り結ぶことはないが、至近距離で斬り合いが行われている。夢中で怖さは感じなかったが、なぜか音があまり聞こえなかった……

そんな中でも次第に明智軍は優勢になってきていた。

此処に来て、兵力と士気の差が出てきていた。秀長軍は激戦を潜り抜けて疲弊している。光秀の本陣は精鋭で尚且つ疲労も無かったからだ。

周到に包囲の輪を縮めていく。秀長軍は徐々に戦力を減らしていった。

俺はこの戦いが最終局面に入ったことを感じていた……


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