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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
畿内統一へ駆ける
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104話 極秘の軍議

天正十年六月九日夜

惟任日向守光秀は極秘裏に軍議を開いた。呼ばれたのは転生の事実を知る者達だけである。明日の決戦に向けて、未来知識から知り得る事実を共有するために、また、合戦前の現状把握をするために俺が求めたものだった。


「方々に申し上げまする。夜遅くにお呼びたて致し、申し訳なく……

ですが、某他、未来から転生した人間を交え、改めて意思統一を図りたいと思い提案いたしました。某を含め、鈴木孫三郎殿、大蔵長安殿は450年先の未来から生まれ変わった者です。そして、我らが知り得る歴史をすでに改竄致しました。今後は手探りで、日ノ本の未来を切り拓いて行かねばなりませぬ。

どうか、お力添えをお願い致します」

俺は改まって諸将に挨拶をした。


軍議に参集していたのは、俺以外には父光秀、大蔵長安、鈴木孫三郎、雑賀孫市、杉谷善之助、土橋守重、津田七兵衛、斉藤利三、明智治右衛門、藤田行政、溝尾庄兵衛、そして源七である。


「皆の者……いよいよ決戦じゃ。現状では彼我の戦力は有利ではある。

しかし、不安要素が無い訳ではない。恐らくは秀吉から調略の手が伸びておる。

まずは順慶入道じゃ。そして、高山殿は使者を斬ったらしいが、中川殿は未だ踏ん切りをつけてはおらぬと思われる。合戦の成り行き如何ではどうなるかわからぬ。

そこで、皆の意見を忌憚なく述べて貰いたい」

光秀がそう口火を切った。


「何たる事……布陣はこのままで宜しゅうござるのか?

順慶入道が敵を引き込めば、本陣が危険に晒されますぞ?」

斉藤内蔵助利三が、まずは語った。


「確かに……本陣を手厚くすべきでござる。

中央備えの兵を割いてでも守りを固めるべきかと……」

明智治右衛門光忠も同調した。


「しかし、中央を薄くすれば正面突破されませぬか?

本陣は精鋭にござれば、容易くは破られませぬ」

溝尾庄兵衛茂朝がそう応じた。


「父上……確か先陣は内蔵助殿と島左近殿ですな?

島殿は自ら志願されての先陣とか……この意図はどう読まれます?」

俺はその辺りの事情が気になった。自分なりの答えはあるが、軍略家としての父の考えを聞きたかったのだ。


「伝五……郡山に赴いた時変わった様子はなかったか?

筒井家中はまとまっておるのかの?」

光秀は藤田伝五行政にそう問いかけた。


「されば……筒井の家中は一枚岩とは言えぬやもしれませぬ。

逡巡する順慶入道に、島殿は忸怩たる思いがある様子。

単純に考えれば、その意趣返しとして先陣を志願されたのやもしれませぬ」

行政はそう答えた。


「左様か……しかし釈然とせぬ。島左近とは一廉の武将であろう?

恐らくは秀吉の調略を受けた上で、言い訳として先陣を左近に託したとも取れぬか?

十五郎……どう思うか?」

光秀はそう意見を述べた。

俺は自分の歴史的知識を紐解いていた。そして答えた。


「その両方かもしれませぬ。某が未来で知って居った島左近清興は後々天下に名を轟かす武将だったのです。今は筒井家に仕官しておりますが、いずれ浪人致します。その後も引く手数多であったのですが、しばらくはどこにも仕官しなかったのです。そして彼は最終的に、石田三成と言う武将に召し抱えられます。今はまだ無名ですが、現在敵陣におるはずです。今から十年ほど先には秀吉の側近として重きを為す人物です。その石田三成が自身の俸禄の半分を差し出してでも召し抱えたのが島左近と言う人物です。

思うに、筒井家の中で島殿は我々の側に立つ人物で、家中では順慶入道と意見を異にする人物であり、完全に我らに味方する事を提案したが聞き入れられず、先陣を志願した。あるいは、順慶入道に厄介払いの意味を込めて、先陣を命じられた……そうとも考えられまする」

俺は、自信はなかったが、見解を述べた。


「某もそう思いますな……左近殿は先陣を任されたからには、順慶入道の軍とは切り離され役目を果たされるかと……あくまで未来知識の先入観が邪魔しておるかもしれませぬが……」

大蔵長安が同調した。


「まあ、ワシが聞いた話では左近殿は、身内での泥沼の殺し合いも経験しとる強者や。情勢を見る目は持ってるやろ。家中で我等の側につくという意見を持ったのは慧眼や。

左近殿は目立った戦功求めて奮起するやろな。そうなれば、どっちに転んでも筒井の家は安泰や。順慶入道も食えん奴やで……」

雑賀孫市はさすがに情報通である。そう意見を述べた。


「遊軍を二手に分けて行動しよか?七兵衛殿の援護はわしの部隊と根来衆で受け持って、孫市と孫三郎は敵の動きに合わせて、万一筒井勢を突破してきたら背後から攻撃したらええやろ?

上手くすれば敵を囲めるはずや」

土橋若太夫守重がそう提案した。


「土橋殿の御手を煩わすつもりはござらぬが、万一の時はお願いいたしまする。

某が池田勢と五分以上の戦をすれば、自ずと勝ちが見えましょう。

兵力がほぼ互角であれば、中川殿も己を守るためには戦わざるを得ぬはず。

もし懈怠するようであれば、背後から討ち果たすまで。

その時は援護をお願い致したい」

津田七兵衛信澄がそう答えた。


「突破してくる敵に対しては、雑賀の擲弾兵部隊と源七殿の明智忍軍で出鼻を挫きましょう。その後は雑賀鉄砲衆の射撃で打ち崩せるはず。うまくすれば殲滅できましょう」

鈴木孫三郎重朝も賛意を表明した。


「では、その手筈で参ろう。伝五の左備えは勝ちが見えれば、敵本体に側面攻撃を仕掛けるのも一計じゃ。しかし、予定を組んだとて戦場では何が起こるかわからぬ。

各々が味方を信じ対応して貰いたい」

光秀はそう意見を取りまとめた。


「もし優勢に事が運び勝ちを得た場合、どこまで追い討ち致しますか?

一挙に秀吉を葬り去れば、後が楽でございましょうが……」

斉藤内蔵助利三が問いかけた。


「内蔵助……彼我の戦力を考えれば、秀吉を滅亡まで追い込むのは今回は無理であろう?下手に追って逆撃を被る可能性が高い。相手はまだ戦力に余裕があろう?

まずは摂津を含む畿内の制圧じゃ。秀吉に勝てば池田勢は風前の灯火となろう。

当初の目的は達成される。他にも我等に靡く者も出よう」

光秀はそう結論した。


「最後になるが、戦いはまだ始まったばかりじゃ。

方々には無理せず、決して命を的にするような事は慎んでもらいたい。

宜しくお願い致す……」

最後に光秀はそう釘を刺した。


六月九日、決戦前夜の事である。

明日には宿敵、羽柴秀吉との対決である。

俺は、未曽有の大戦を前に震えが止まらなかった……



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