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4-8 けり

その夜以降、山鼻?の言動に特段変わった事はなく。

三橋も最大の全力をもって彼と


自然に


接するようにした。

もちろん、あの夜の捜査も止めた。

悶々とした焦りや

非現実感は、不思議と彼の中で(ほど)けて消えていた。

夜もぐっすり眠る。

眠れる原因はひとつ。

謎が明らかになった夜よりも、山鼻?との勤務の方が遥かに恐ろしかったからだ。

恐怖に備えるには、眠るしかない。


と、考えれる時点で

三橋はとてもしぶとい男だったが、

何も問題がないわけではなかった。

山鼻?が指の先で500円硬貨を曲げた夜から半年もたつと

三橋の髭の色素が薄くなり、茶色から白が増えて

寝起きのあご先の固い青髭に

円形の脱毛が見られた。


三橋は朝の洗顔をする度に、

脱毛と白髪が毛髪ではなく

あご先であること。

しぶとい毛根の血脈

平たくいうと、髪の豊富なご先祖様にとても感謝をした。


季節は梅雨に入り、やがて明ける直前。

雨上がりの空が長くなり、明日にでも本格的な夏の開始が宣言されそうな

ある日のことである。


その日。

山鼻?は当直明けの非番で。

帰宅後、午後まで寝てから。

むくりと起きて。


「パチンコ行ってくるわ。」


と言って自宅を出て。


二度と戻らなかった。


霧が晴れて消えるように、その存在は消えた。


無断欠勤が三日続いた後。

戒告、懲戒免職の手続きが取られる前に

家族から捜索願いが出る。


一連の出来事から、三橋は


山鼻の仮面を被っていた男



村に帰った。


のだと分かり、解放と虚脱を感じた。


- 結局。

本物の山鼻先輩は。

遺体はどこにいるんだろう? -


想像をしたくない想像が、三橋の脳内を吹き荒れる。

けれど、彼の先輩の遺体の捜索は。


村の(やぶ)をつつく。

それは自殺行為であり、その事実に彼は無力を感じ

その無力は彼の虚脱に拍車をかける、ある日のこと。


山鼻の、残された家族に。

差出人不明の封筒が一通届く。


宝くじ。

夏ジャンボ。

一等3億円の番号が印字されていた。


という事を、係長の口から更衣室で耳にしたとき。


三橋の脳裏に。


- 15歳の女の子 -


という単語が浮上し。

同時に。

山鼻の遺族宅に押しかけて

その、三億円の当選くじを


びりびりに

破り裂きたい衝動を覚えた。


- ふ、ざけんなよ。

命、を…!

金で! -


三橋は奥歯をかみ締め

歯噛みをして

帰宅し。

転属申請の準備を始める。


- このまま、で、終わらせる。

ふりは、今だけ、だ。

お前ら全員、けりをつけてやる。 -












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