3-27 予定
岬と穢胡麻、そして柴崎を乗せたジープは
その後これといった妨害もなく
藤沢街道を北上する。
途中に。
黒との戦闘で生じた
熱
が落ち着くと共に、砕けた右腕の痛みが強くなり
岬がそれとなく眉をしかめると
穢胡麻は無理やりジープを停めさせて
痛みを和らげる処置をした。
「一種の気功です。
一時的な処置ですので、しないよりマシ
ですが、今日中に必ず病院を受診してください。」
柔らかく添えられた手のひらに、痛みと熱が吸い上げられていくような
感覚に。
村にまつわる不条理に慣れた岬も、さすがに不思議に思うと
穢胡麻は、手のひらに集中しながら言う。
まぶたは伏せられている。
彼女に岬はうなずく。
「ああ。
必ず、みてもらうよ。
この腕は商売道具だからな。」
そんなやり取りの後に、再び発進しようとすると
ステアリングの不安定さが増し
車体が左右に揺れる。
のを、アクセルとクラッチの操作を繰り返しつつ。
なだめ、すかし、
説得に説得を重ねるようにして
岬はジープを通常の走行速度に乗せる。
― まあ。
頑張ってくれた。 ―
安堵しつつ彼は思う。
穢胡麻を確認すると、すでに後部座席に移って
柴崎の前髪をかきあげて
額にその小さな手のひらをかざしている。
泣いているようにも、優しいまなざしを落としているようにも見える。
「穢胡麻さん。」
「はい。」
「ガラスの刺し傷は、傷まないのか。」
「痛いですけど。
処置は終わってますし。
女は痛みに強い生き物ですし。
私は特に、痛みと共にある、
生
を編んできました、から。」
彼女は柔らかく言い、岬の胸の中で悲哀がもたげるが、
それについてはあえて深く考えない。
そうこうしているうちに
車輛は東海道本線の高架をくぐり
市役所を抜けて、駅北の住宅街にさしいる。
「ここで降ろしてください。」
穢胡麻は、タクシーを降りるように、軽く言う。
「ここで、いいのか。
引き取り地点はもう少し先だが。」
「はい。
私は、岬さんを向こうで待つ予定でしたし。
ですから。
先に行ってお待ちしていますね。」
彼女はそう言って、
岬に柔らかくうなづく。
彼らの終着は、彼らが進む区画の先。
50m先にある。