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3-24 咆哮

…損得勘定の得が大幅に上回った。

結局それだけの話である。


柳川老人との交渉により、案件の達成条件の難易度は、

大幅に引き下げられた。


・柴崎を襲撃、殺害し、彼の死体画像を送信する。


それだけのことで、正規報酬の十倍。

30億円が懐に転がり込んでくる。

黒は、みずからを自由人と認識していたし、それは間違いではなかった。


散歩をするように見ず知らずの他人から、かすめ、くすね、あるいは奪う事ができた。

立ち回りは賢く、狡猾で

狐狩りから逃げる狐よりも滑らかに

警察の追求を避ける事ができた。


彼個人なら。

黒手会の壊滅は、彼自身に何も損害を与えない。

ただし、大掛かりな仕事はできなくなる。

それは彼に


窮屈


という感覚を与えた。

ので。

30億円という報酬は、その窮屈からの解放を意味する。


ただし、いくら報酬が魅力的でも、依頼をこなせなければ、意味がない。


そこで黒はこれまでの事を振り返る。


1:村の女は外部に柴崎の運搬を依頼していた。


2:村の女は黒手会を壊滅させた。


1については襲撃の警戒、リスクの分散を目的と、

普通なら思える。

が、村は普通ではない。

 それは、2によって証明される。

 倉庫で55人を壊滅させる力量を考慮すれば、

 

 なぜ、運搬を外部に依頼したのか?


 という疑問に至る。

 倉庫での力量と、運搬の不手際

 狙撃等

 はつり合いがとれない。


 ここから推し(はか)れること。

 それは、


 村に運搬の力量がない。


 つまり、車対車の潰し合いなら、倉庫ほどの常識外れの何かは、起こる可能性が低い。

 さらに。


 こちらは


 ・殺害だけをすればいい。


 けれども、おそらく村は。


 ・柴崎を傷つけずに運搬することにこだわっている。


 こだわりの分、隙だらけだ。


 …上記の全てに思案を巡らせた結果。

 黒は細長い煙草をくゆらせ

 くまのにじんだその目線を遠くして


 結局、村を襲撃することに決めた。


 …彼は、損得勘定でしか動かない。

 つまり、損得勘定以外の勘定


 例えば恐怖など。


 では止まる人間ではなかった。


 恐怖は感じた。

 初めて、村の女、穢胡麻の画像

 白いワンピース姿を目にした時も。

 通信網を潰された時。

 水底に引きずり込まれるような感覚を覚えた時も。

 倉庫、シャッターの向こうで部下たちをひき肉にされた時も。

 

 それでも、彼は止まらず。

 検閲や警察を避ける必要もないので

 最短経路で藤沢街道まで出て。

 襲撃に最適なポイントを探る。


 …できるだけ、死角がいい。

 判断の間を与えないような、最短経路。


 夜明け前の街道に敷かれた検閲から、

 村のルートは予想できた。

 おそらく向こうも襲撃を警戒している。

 戦闘に向いた車輛。

 

 おそらく展示場のジープ、あるいはクライスラーを使用するだろう。

 

 黒は藤沢街道を茅ヶ崎方面に回り込み

 側道に入って、電柱の端に停め。

 煙草を指で丹念に押しつぶしつつ。

 村を待つ。


 ― ま、賭けだな。

  ギャンブルは嫌いだけどさ。

  こういうのも悪くはねえ。 ―


 黒は口角をわずかに上げる。

 ジープ。

 

 黒手会の荒事御用達。


 を目に止めたからだ。


 ― ほんと、そのまんまだあな。 ―



 黒は足首を固めてアクセルを踏み込み

 ハンドルを柔らかく切りつつ

 分離帯を越え、そのまま

 藤沢街道の薄闇を北上する、村のジープに突進する。


 彼の全身の毛は逆立っている。

 それは彼の命の咆哮(ほうこう)でもある。


 



 


 























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