3-23 ピエタ
岬がまず乗り込み、小型PCを起動してから、助手席のシートを下げる。
それから穢胡麻が向かいのドアを開けて柴崎を渡し、岬が寝かせる。
柴崎は、穢胡麻の処置の甲斐があって、眠りから目覚めそうにはない。
「呑気な顔だな。」
「良い夢をみてらっしゃるのなら、良いのですが。」
そんな会話の後で
穢胡麻は岬の後部座席に乗り込んで言う。
「では、行きましょうか。」
「ああ。」
岬はキーを回し、車体が振動する。
ゆっくりと
、二人と一つの荷
を乗せたジープは林道に向かって動き出す。
「どうですか?
クセ、や、戦闘になった場合。
この車は。」
「問題ない。
やはり荒事専門だろうな、
サスペンションは骨のある感じだ。
滑らかすぎると、すぐイカれるからな。
ちゃんと走ってくれるだろうよ。」
「良かった、です。」
そんな会話のうちに、ジープは林道を抜け
警察の検問を迂回しつつ避けながら
藤沢街道へと向かう。
…穢胡麻が岬のジープに乗り込んだのは理由がある。
戦闘時に、柴崎の指を守るためである。
いつどの状況で襲撃があるのか分からない。
その時
に。
岬が躊躇なく。
戦闘に集中ができるように。
彼女は乗り込んだ。
藤沢までは時間的にそこまでかからない。
が。
最後の一人の襲撃があってもおかしくない地点は
無限といって良いほどあり。
角を曲がる瞬間。
住宅街を抜ける瞬間。
あらゆる物陰に。
岬の神経は磨り減る。
穢胡麻は何も言わず。
後部座席の暗がりの中、柴崎の額にその手のひらを当てている。
バックミラーに映るその面持ち
たたずまいは、岬に
ミケランジェロの名作
キリストを両腕に抱く
ピエタ
を彷彿させた。
二人と一つの「荷物」を乗せたグレーのジープは、茅ヶ崎の住宅街を縫い切り
藤沢街道に入る。
時計は午前の四時を回った。
この時間帯は、通勤の車が込み始める手前。
大型トラックの往来が激しくなる。
つまり、襲う側も襲われるがわも
大型トラックというリスクを負う。
― 来るのか、来ないのか…・? ―
と、岬が思った時
対抗レーンの電柱の影から
黒塗りのジープが飛び出してきた。
そのまま分離帯を越え。
岬たちの車輛に突進してくる。
岬は、彼の全身の毛が逆立つのを感じた。
ここからが、そう。
最後の勝負だ。