3-22 血
結局、穢胡麻はスズキの軽を乗り捨てることにした。
岬はその太い首を傾げる。
「いいのか?」
「大丈夫です。
岬さん。
あなたのクライスラーと同じで。
これは存在しない車の寄せ集め、ですから。
後で別の方に回収か廃棄を依頼します。
それよりも、車選びですね。」
と、静かに言いつつ穢胡麻は
血の池となっている倉庫の隣。
輸入車展示場を見渡す。
「頑丈な車がいいです。」
「…まず鍵を探さないとな。」
という岬に、無言で鍵の束を手渡し
展示場に並ぶ外国車の間を縫い始める。
彼女の後ろ姿に、いくつもの疑問と回答が、岬の脳裏に浮かんでは消える。
― 俺が柴崎の小部屋に向かっている間。
この人は事務所で金庫を開けていた。
開けたという表現はふさわしくないのかもしれない。
解錠時のトラップも踏まえて、
粉々に粉砕をした
のだろう。
つまり、この人の前では、鉄というものは意味をなさない。 ―
「大体正解です。」
穢胡麻は振り返らずに言い、岬は一瞬止まる。
「俺の考えている事がわかるのか?」
「さあ、どうでしょう?
…それより。
これなんかどうでしょうか。
丈夫そうで。
何より、ここの方の仕事を感じます。」
穢胡麻は展示場最奥部の端にある
グレーのジープのフロントシャーシに
手のひらを当てていい。
岬はうなずく。
「そうだな。
これは、正規品ではないし。
ずいぶんと、いじっている。」
「でしょうね。
たくさんの、血がしみ込んでいます。」
穢胡麻はそう言ってから、岬を見上げ、柔らかく口角を上げてから、続ける。
「この車で行きましょう。
藤沢まで。」