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3-14 ミキサー

 裏稼業として駆け出しの頃、黒はヤクザ相手の債権回収代行を

生業(なりわい)としていたことがあった。

 ヤクザである彼らは、借金を代替わりする。

 彼らも慈善事業ではないので、代替わりをしてやった先から

 それ以上

 を回収しようとする。

 が、ごくたまに逃げられ、結局焦げ付く。


 ヤクザは、代替わりの借金を完済はしない。

 かわりに、申し訳のような仕事をふってくる。

 その仕事では食いつなげないものが、はした金とともに、黒に証書を持ってきて

 持ってこられた彼は、損得を計算し、得となる場合、動く。


 そんな、取り立ての一環で、熱海一帯を縄張りとする

 由緒の正しい一家の屋敷を訪れた時。


 彼は荒事を構えるつもりはなかった。

 けれど、


 彼のお願い、を聞かせるために、

 白が屋敷の内外を制圧していた。

 別に、現金(なま)はそこまで必要としなかった。

 日本刀(ぽん)や、銃器類を補充したかった。

 別の仕事で無茶をして足がついても、経路をたどればその組にたどりつくように。

 保険の意味も兼ねていた。


 のに。

 意外とだだをこねられたので。

 黒は有効な交渉材料を、屋敷で探す羽目になった。


 中学三年生の娘。

 …これはだめだ。

 

 娘のアルバムを開く。

 五匹のハムスター。

 を、両手に乗せる組長。


 「なるほど。

  お嬢さんが飼い始めて、おやっさんが情を抱く。

  俺は嫌いじゃないな。」


  黒は和やかに笑って

  娘の部屋のハムスターの

  (かご)を、後ろ手で制圧されている組長の前に運ぶ。

  キッチンからミキサーを拝借(はいしゃく)する。

  スイッチを入れて

  回転するドリル。

  籠のふたを開いて、そのままミキサーに放り込み

  静かにフタをかぶせる。


 ― …トマトジュースみたいになってたなあ。

  ネズミどもの声は、全然聞こえなかった。

  組長と、ミキサーがうるさすぎて、でも、ケッサクだったよなあ… ―


 黒は倉庫前。

 閉じられたシャッター

 に細い背を預けて、腰を下ろしている。


 針金のような長い脚をコンクリートに投げ出している。

 煙草をくわえたが、火をつける気にはなれない。


 彼が背を預けるシャッター

 の内側。

 倉庫の中では、穢胡麻という女が暴れている。

 

 鳴りやまない怒号。

 怒りの咆哮は絶望をはらむ。

 鈍く響き続ける、何かを潰すような、音。

 壁にたたきつけているのか。

 たまにガラスが砕ける音も響く。


 ― ミキサーで潰しているみたいだ。 ―


 村が

 それ

 を始めてから、一分もしないうちに

 怒号には恐怖がまざり

 声も少なくなる。

 

 最後は、嗚咽(おえつ)

 と、哀願。


 村が何かを言う声が、かすかに聞こえる。

 内容は分からない。

 けれど、とても穏やかな声だ。


 すぐに、肉と骨を潰す音。

 壁にたたきつけたか。


 ― そろそろ、やばいか。 ―


黒はおもむろに腰をあげて、

車輛展示場の隅の、ジープに乗り込んで、発進する。

フェラーリだと追跡が容易になるかもしれない。

襲撃に耐えれない。


途中、林道で警察車輛とすれ違う。

江の島管轄。

茅ヶ崎に、しかも黒手会の本拠地に、この時間。

運転者は、村の協力者以外に考えにくい。


「ま、来るのは予定通りだ。」


黒はそのまま林道を抜ける。


追ってこないことは分かっている。

萩沢の事はばれているし、でないとこちらには来ないし。

協力者の目的は、村に合流することだからだ。

そして、黒が彼らを襲う必要もない。

手足を全部潰されたからだ。

 

得にならない喧嘩以上に、黒は

勝てないと分かっている喧嘩は絶対にしない。


― いや。

違う。

喧嘩じゃねえだろ、これは。

ゼロをいくら重ねたら、イチにになるかって謎々みたいなもんだ。

あれは、ジゲンが違う。

ヒトじゃねえ。

もっと違う、何かだ。 ―






 

 

 

 


 

 

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