3-12 両想い
「黒さん?」
「状況は。」
「柴崎は確保、搬入も終わりました。
村は現れていません。
報網は復旧作業中です。」
豹のような流線形のフェラーリが
本部に荒く乗り付けられて
ドアの奥から黒が現れた時
白は
― プランBは?
柳川のとこに行ったんじゃないんですか?―
と一瞬思ったが、その疑問はすぐ意識の奥に沈めた。
肩が全く揺れていない。
半笑いが絶えない口元が、無機質に結ばれている。
かなり機嫌が悪い。
こういう時の黒には、超取り扱い注意報が発令されるのが
黒手会の暗黙の了解だった。
黒は白にうなずく。
「そうか。
双葉とちび助は。」
「帰ってきません。
今のところですが。」
「…そうか。
社長は。」
「奥で震えています。」
「なるほど。
余計な事言わなければいい。
とりあえず、柴崎の運搬は中止だ。
奥にでもつめとけ。
後で見に行く。
で、白。」
「はい。」
「村を殺るのに、人手はいくつ欲しい?」
問う黒の眼光は鋭い。
白は夜空を見上げる。
星は見えない。
「そうですねえ。
狙撃班が瞬殺です。
近接も強そうですし。
写メでは道具は分かりませんが。
分からないこと
も含めて。
10人は必要かとおも…。」
「55人。
全員集めろ。
倉庫に入れて閉じて囲め。」
白を遮るように黒は言い、M1911のハンドガンを取り出して
奥に向かう。
柴崎に、仕掛けをしなければならない。
暗い通路を歩きながら彼は思う。
― 10人が常識なら、常識の5倍を突っ込んでやる。
村の女は多い方に向かう。
戦闘に絶対の自信があるし、裏付けもあるだろう。
俺たちはバラけていたらカッコゲキハされる。
普通なら、そっちを狙うが、戦闘がずばぬけているのなら。
まとめて処理する方を好む。
声の感じとこれまでのやり口から見ると、あの女はそういう女だ。―
そこで黒は、村と利害が一致していることに、はたと気が付いた。
村は一度に多くを殺りたいし
黒手会は村を多くで囲みたい。
黒は舌打ちしつつ、呟く。
「両想いかよ。
…迷惑だな。」