表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/92

3-11 価値観

穢胡麻のスズキの軽は辻堂海浜公園を左にして、西に進む。


丁度信号待ちになった時点で、村特製携帯を確認する。


岬の様子から、暗号は伝わっている事が分かった。

全文は理解されている。

しかしサイトにアクセスは無かった。

つまり、意図は伝わっているけれど。

二番目のメッセージ。

穢胡麻個人との連絡手段の確保、には。

無言の謝絶という返答が返ってきたということだ。

そのことには、穢胡麻は特に不満はない。


それは岬の判断であり、そもそも穢胡麻自身どうすべきか分からないから

岬にゆだねたのだ。

むしろ、暗号を解読してくれた、ということに、

穢胡麻は胸に温かさを覚える。


― 本当に、一生懸命で、誠実で、温かい人だ。 ―


常ならざる能力に人は恐怖と、嫌悪を抱く。

不気味ともいう。

その嫌悪は、村人が背負うべき因果の一部だ。

岬という人の中にも、恐れはある。

用心の深い人でないとできないのが彼の仕事だ。


けれど。

恐れつつも

誠実に、仕事に(のぞ)もうとしてくれている。

何より、大きな体を、恐怖にしぼませないように。

精一杯、胸を張ろうとしてくれる姿は、とても可愛らしく

胸の奥が温かくなって、笑みが自然にこぼれる。


―私はあの人のことが、とても好きだ。―


穢胡麻は、先生の言葉を思い出す。


「村の外には、色々なヒトがいる。

醜くも美しくもあるけれど、彼らはみんな、愛すべき人たちだよ。」


村では、

生と死は等しく美しい。

とずっと彼女は教えられてきたし、そういう価値観のもと

人を(あや)めてきたけれど。


岬との時間を胸で反芻(はんすう)する時、彼女は先生に伝えたいと思う。


「死は、美しいけれど。

 生は、胸に(せま)るもの、なんですね。」


懸命に生きる岬が、無言の謝絶を(ひるがえ)して

連絡を取ってきたら、素直に受けようと思う。

そういう場合は、


よほどのこと


が起きているという事だ。


という事で、穢胡麻が携帯を取り出した瞬間。

携帯の液晶が点滅して、電源が落ちた。

つまり、壊れた。


― 今日、結構使ったから。 ―


無線の半導体を焼き付かせる波長の電波を流し

ライン経由でスマホを破壊するコードも流した。

かなりの酷使をしたので、壊れることに文句はない。

けれど。


穢胡麻は

小さく肩をすくめた。


― でも、することは決まっている。 ―


信号の灯りが青に変わったので

彼女はスズキの軽を発進させる。


携帯が壊れる前に、

黒手会の無線情報は把握していた。

逆探知も済んでいる。

発信機の密集地帯。

茅ヶ崎は小出川の近く。


警察の検問地帯からは綺麗に外れている。

とても分かりやすい。


― そう、とても、分かりやすいお仕事なのです。 ―


穢胡麻はその細い首を


こきっ


と鳴らし。

彼女を乗せた軽は、茅ヶ崎の入り組んだ住宅地帯を縫い始める。


たくさんの街燈のおかげで、うっすらと明るい。

その先に、彼女は予想する。


…とても、おびただしい

死と闇を。




















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ