3-10 土俵
プランB。
強襲班1が潰された場合。
同班2が柴崎を回収。
同班3が萩沢を囮にして村と交渉。
柴崎は一旦本部に運搬し、車輛を換えて依頼人の屋敷に向かう。
黒は依頼の元へ先行。
村の襲撃を逐次中継し、報酬のつり上げ交渉を行う。
…黒は余計な荒事は行わない。
しても特にならない諍いは徹底的に避ける。
ただし。
損得勘定の得が多いのなら
徹底的に行う。
それもできるだけ楽しいやり方で。
つまり、村も黒にとっては交渉の材料に過ぎなかったし
プラン自体がどう阻まれても
変幻自在の作戦指揮を楽しめば、望ましい結果は自然についてくる。
という見込みが黒の中にあったのだけど。
今回は違った。
連絡手段を潰されている。
潰し方も得たいがしれない。
情報が入ってこない。
これに黒は苛立ちを覚えた。
寂しいとか不安ではない。
動きようがないのだ。
依頼人の元に向かう。
間に何らかの方法で追跡されれば
荒事には不確実性が生じる。
狙撃班を瞬く間に潰す女。
恐怖ではない。
ただ、手をこまねく。
依頼人の元についても、そこを襲われたら抗いようがない。
女についての情報が、不足しすぎている。
おそらく。
村、はこういうやり方なのだろう。
暗闇の中で潰しあう。
向こうは慣れた状況で、こちらは恐ろしく不慣れである。
常日頃最も避けてきた物事が、情報の遮断なのに。
職業軍人と半ぐれの戦い。
「くそっ。」
黒は舌打ちをして、
ハンドルを切った。
熱海方面に抜ける道から
引き返し、小出川沿いの本部に向かう。
フェラーリの滑らかな走りとは裏腹に
黒の心中はささくれだっている。
が、これが最適なのだ。
「…お前の土俵では、踊ってやんねえよ。」
黒はつぶやき、煙草をくわえ、片手で火をともす。
煙を吸い込みつつ
街燈の続く先の闇に眼を凝らしつつ
事態の処理手順について。
目まぐるしく、脳の中で組み立て組み換え
を繰り返す。
間も。
彼のフェラーリは本部に向かって疾走していく。
とても滑らかに。
そして破滅の可能性に。